夢の中で
ティニカクヤセ隊副隊長・くりいむ子は、今日も訓練の後、ベッドに倒れ込んでいた。疲れた体を引きずりながらも、「極」を目指す気持ちは揺るがない。だが、彼女を悩ませる最大の敵は、運動不足でもなければ、厳しい食事制限でもなかった――それは「タベタイ欲求」。
夜な夜な彼女の夢の中に現れる甘いスイーツ、香ばしいお菓子たち。それらが彼女の意志を打ち砕こうと囁いてくるのだ。
「これ以上、この欲求に負けるわけにはいかない……!」
そう強く心に誓ったくりいむ子は、ある大胆な修行を始める。それは――幽体離脱。
幽体離脱の習得
「意識と肉体を切り離せば、タベタイ欲求も一緒に切り離せるはず!」
彼女はそう信じ、瞑想と集中を重ねた。そしてついに、その日が訪れた。
「できた……!これが幽体離脱!」
ベッドに横たわる自分自身を見下ろしながら、くりいむ子の霊体は静かに微笑んだ。
「よし、これでタベタイ欲求を霊体で解決してしまおう!」
彼女はさっそく霊体のままお菓子やスイーツを次々と食べ始める。すると不思議なことに、現実世界での欲求が少しずつ薄れていくのだった。
「これなら、罪を犯さずに済む……!」
幽体離脱による「欲求消化」は、ティニカクヤセ隊にとって画期的な技となるはずだった。だが、この技には一つだけ大きな問題があった。
失敗の代償
幽体離脱の修行を始めて数日後の朝、くりいむ子はいつものように目を覚ました。だが、ふとベッドの周りを見て彼女は絶句した。
「……か、かきぴ?」
そこには、オレンジ色の小さな欠片がパラパラと散らばっていた。
「これは……夢の中で食べたかきぴのはずなのに……!?」
どうやら、霊体で食べたはずの食べ物が現実世界にも影響を及ぼしていたのだ。しかも、この現象は一度だけでは終わらなかった。
翌朝、またしてもベッドの周りには、かきぴが散乱していた。
「どういうこと……私は夢の中で食べたのに!」
そしてさらに翌朝――今度はベッドだけでなく、リビングのテーブルの上やキッチンのカウンターにまでかきぴが広がっていた。
「これは……もしかして私、幽体離脱中に現実でも動いている!?」
彼女は愕然とした。霊体で食べたはずの欲求が、現実世界にまで引きずられ、まさかの夢遊病的暴食につながっていたのだ。
隊長の分析
「つまり、くりいむ子、君は夢の中で欲求を解消しているつもりで、実際には現実世界でも食べているということか?」
茶団子丸はかきぴを一粒拾い上げながら、真剣な表情で分析した。
「そ、そうみたい……。でも、意識はちゃんと夢の中にあるのよ?」
「うむ。どうやら霊体と肉体のリンクが完全には切れていないのだな。」
「じゃあ、この技は失敗だったの?」
くりいむ子はしょんぼりと肩を落とした。しかし、茶団子丸は微笑みながら言った。
「いや、失敗ではない。ただ、この技を極めれば、タベタイ欲求を完全にコントロールできるはずだ。問題は、かきぴの誘惑にどう打ち勝つかだな。」
「かきぴの誘惑……強すぎる……」
二人は深いため息をついたが、その先にある「極」への道を諦めることはなかった。
新たな挑戦
「これからは、幽体離脱の練習は続けるけど、夢の中での選択肢を変えてみるわ。たとえば、かきぴじゃなくて、サラダにするとか。」
「いいぞ、それだ!夢の中で健康的な選択ができるようになれば、現実世界の欲求も抑えられるかもしれない。」
こうしてくりいむ子は再び幽体離脱の修行を開始した。かきぴの呪縛を乗り越え、真の「極」へと近づくために――。