コミエルダの誘惑
ティニカクヤセ隊の隊員2名、隊長・茶団子丸と副隊長・くりいむ子は、朝のトレーニングを終えたばかりだった。汗をぬぐいながら、二人は無言で顔を見合わせる。疲労感が全身を包む中、自然と次の行き先が決まっていた。
「コミエルダに行こうか。」
茶団子丸の一言に、くりいむ子も小さくうなずく。島の外にある喫茶「コミエルダ」は、隊員たちの行きつけだった。特に食後のミルクコーシーは格別で、疲れた心と体を癒してくれる場所だった。
コミエルダ到着
店内は木の温もりを感じるインテリアと、ほのかなコーヒーの香りに包まれていた。カウンター席に腰掛けた二人は、定番のミルクコーシーを注文する。
「やっぱりここは落ち着く……」
くりいむ子がカップを手に取り、香りを楽しみながらつぶやいた。だが、ふとメニューに目をやった瞬間、二人の瞳が輝きを増した。
「ワール白」
その文字が、二人の中に眠っていた「タベタイ欲求」を呼び覚ます。ワール白――白いふわふわのパンにたっぷりのクリームが挟まれた逸品だ。
「これ、頼んじゃおうか……」
茶団子丸がそわそわしながら言うと、くりいむ子も負けじと頷く。
「運動した後だし、少しくらいなら大丈夫!」
勢いよくマスターに注文する。だが、マスターから返ってきたのは意外な言葉だった。
「申し訳ございません、ワール白はただいま欠品中でございます。」
痩神の加護が働いている。
「欠品……だと?」
二人は一瞬呆然としたが、次の瞬間、痩神の存在を思い出した。
「これはきっと痩神の加護だわ。私たちに罪を犯させないための!」
「なるほど、そうかもしれない。さすが痩神……!」
運命的な巡り合わせに感謝しつつ、二人はミルクコーシーに集中することにした。だが、事態はそう簡単には収まらなかった。
ゾウ神の反撃
二人の前に現れた新たなメニュー。それは――「コミエルダチキン&あんトースト」だった。焼きたてのパンにジューシーなチキンがのり、たっぷりのマージェリンとうっすら甘いあんが絶妙に絡み合う一品だ。
「美味しそう……」
茶団子丸が呟いた。その声には、すでに抗う意思は見られなかった。
「いや、でも……罪だよね……これ、完全に罪だよね……?」
くりいむ子も震える声で言うが、二人はあっさりゾウ神の誘惑に屈した。
「チキン&あんトースト、お願いします!」
運ばれてきたトーストを前に、二人はしばし無言だった。たっぷりと塗られたマージェリンがパンにしみ込み、その上に輝くあんこの照り。甘じょっぱい香りが鼻腔をくすぐる。
「……いただきます。」
一口かじると、濃厚なマージェリンと甘いあんが舌の上で溶け合い、そこにチキンの旨味が加わる。その味はあまりにも完璧だった。
「美味しい……」
「こんな罪深いものがあるなんて……」
二人は黙々と食べ続けた。そして、皿が空になった頃、深い罪悪感が彼女たちを襲った。
「これは完全に……罪だ。」
「痩神の加護も台無しだわ……」
二人はテーブルに突っ伏しながら、己の弱さを痛感した。
帰り道、二人はうつむきながら歩いていた。だが、くりいむ子がふと顔を上げた。
「でも、今日の失敗を無駄にしないために、明日はもっと運動しよう。」
「そうだな……罪は消せないけど、少しずつ前に進めばいい。極はまだ遠いけど、諦めてはいけない。」
二人は新たな決意を胸に秘めた。
ゾウ神の誘惑に負けることもある。それでも、ティニカクヤセ隊の冒険は続いていく――。