61話 ~赤~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
<好きなもの>:女性、食事、睡眠、金。<嫌いなもの>:面倒な事、辛い事。<怖いもの>:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
髭面で体格のいい熊みたいなバーティー王子と私はお互いのファッション感について熱い議論を行った。
しかしそれはとても建設的とは言えないもの。もっとはっきりと言えば口汚くお互いのファッションをののしり合った。
私のお気に入りの異世界Tシャツを向こうが埃っぽいし黴臭いと言ってきた。ちゃんと洗濯しているからそんなはずは無い、熊のくせにお前の鼻はいかれていると言ってやった。
そうしたら向こうは誰が熊だとか、洗濯しているかどうかは別問題で見た目が汚いと言っていると言い返してきた。
なので私はバーティーが着ているスーツを全員同じで個性が無いと言ってやった。そしたら向こうはネクタイやベストなどそれぞれ違うものだからひとりひとりに個性はあると言い返えしてきた。
だから私はそんな少しくらいの差など無いのも同じで、遠くから見れば全員一緒だと言ってやった。
そうしたらバーティーはすぐさま、ファッションとはどんな格好でもしていいというわけではなく、他人に不快感を与えないことも大切なのだと言い返してきた。
なので私が不快感を感じることばかり気にしていては好きなことは何もできない。ファッションとは自分が好きな格好をするもので、他人優位ではなく自分優位なものだと言ってやった。
私も向こうに負けず劣らず非常に感情的になっていて、何とか相手を言い負かしてやりたいと思って言葉を発したが、議論はいつまでたっても平行線で全く交わらなかった。
同じことをお互いに行ったりしながらどれくらいの時間が過ぎただろう。突然、バーティーが咳き込み始めた。
「ほら見ろ、やはりお前のボロ雑巾は埃っぽくて黴臭いではないか」
そう言いながらも咳が止まらない。
「大丈夫ですか陛下!?」
バーティーと一緒に乗り込んできた友人のアルフレッドとかいう背が低いやせ型そばかす赤毛眼鏡男が心配そうに声を掛けた。
「大丈夫だ、こんなのはいつもの事だ」
「お薬をお持ちでしたらすぐに飲まれた方がよろしいかと」
「そんなもの私が持ってきているわけないではないか………」
会話しつつもバーティーは咳が止まっていない。私はなんだか不安になってきた。咳、と言っても色々とあるかと思うが、バーティーのしている咳はあまり健康的なものには思えなかった。
出会った時のスイリンの咳にも似ている。埃のせいだとは思えない。恐らくバーティーは何かしらの持病を持っていると思った。
私は水の入った水差しとコップを持って行ったが、バーティーはコップを受け取りはしたが、さらに咳が酷くなったために入っている水をほとんどこぼしてしまっている。
残った水を飲んでも咳が止まらない。
「私は今すぐに薬を持ってまいります。こんなむさくるしい部屋ですがどうぞお好きなようにお休みになっていてください」
私の部屋の事を好き勝手言いながらアルフレッドは出ていった。バーティーは薬などいらん、とか言っているが絶対に飲んだ方が良いだろう。
尚もバーティーの咳が止まらない。
「大丈夫だ、私は疲れたり極度に興奮したりすると偶にこうして咳が出ることがあるのだ、休んでいれば治るから心配するな」
途切れ途切れになんとか説明してくれる。もう一口水を飲んだが、それでも咳は止まっていない。
椅子に座っているバーティーにベッドに寝てもいいぞと言ってみたが、それは断られた。今さっきまでお互いのファッション感について罵り合っていたわけだが、バーティーの事を嫌いなわけではない。
むしろただの一般人にしか過ぎない私に対してここまでフランクに接してくれることに対して好感を持っていると言っていい。
なにか、何かできることはないか………そう思った時、一つの方法が頭に思い浮かんだ。
私の魔法「ネゴシエーション」は言葉や文字に力をもたらすことのできる魔法。
石売りとして金を稼ぐことが出来たのも、スイリンの病を治すことが出来たのも、全てはこの力によるもの。それならば今頼るべきはこれしかない。スイリンの時には漢方薬が病気に対して効果があると思わせることで魔法の力を伝えた。
今ここに漢方薬はない。何か代わりになるものは無いだろうか、部屋の中を見渡した私は、部屋の隅に山と積み上げられたワイン樽に目を付けた。
これは昔探索者であったマリーという女性から貰った、水を作り出す魔道具に魔力を流し込むことによって作り出したもの。味もアルコールもワインそのものだが葡萄から作ったわけではないので、厳密にはワインと呼べるのかどうかは分からない。
私もスイリンも酒が飲めないので、マリーや奴隷商のウォドラーにプレゼントしているのだが、いかんせん量が多すぎてどんどん溜まっていってしまうのだ。
これだ。
魔法の力によってこのワインを薬だと思い込ませるのだ。そうすればスイリンの時と同じような効果が得られるはずだ。ワイン樽を持ってきて栓を抜き、バーティーの目の前にドスンと置く。
そして、咳き込んでいるバーティーに対してこれは薬だと告げる。
明らかに怪しんでいる視線にひるむことなく、これは咳止めに非常に効果のある、ワインみたいな味のする薬だから飲めと私は言った。
しかしバーティーは首を振って、そんな薬は聞いたこともない怪しいから絶対に嫌だ、とか言ってきた。
さっきまでファッションについて口論していたから、コイツが簡単に言う事を聞くような人間でないことは分かっている。なので私はバーティーの体を片手で押さえ、もう片方の手でワイン樽を抱えてその口に流し込んだ。
「ぶふぁ?!?」
突然ワインを流し込まれて、口の端から大量にワインがこぼれ落ちていくが、そんなものは後で拭けばいい。止めろ、という声が聞こえた気がしたが、止めない。
腕の中で暴れているバーティーに、これは特別製のとても高価な咳止めだから絶対に効くから大丈夫だと言いながら、さらに飲ませる。
小川くらいの勢いで口に入って来るワインに溺れそうになっているバーティーだが、喉が動いているので飲んでいることが分かる。それを確認してから私は持ち上げているワイン樽を下げた。
「何を、何をしているんだお前、こんなことをして、どうするつもりだ」
不信感全開の目で私を見る。
「お前は、やはりテロリストだったのか?薬と騙して私に毒をもって国家転覆を、企んでいるんだろ?!こんなことならば来なければよかった、信用した私が馬鹿だった………」
バーティーは喋りつづけているが私はその変化に気が付いていた。
「くそっ、友達だと思っていたのに………」
咳が止まっているぞ。
「咳、そう言われてみれば確かに………」
バーティーは暫く停止した後で自分の喉を確認しながら声を出す。たまたま一瞬止まっただけかもしれないが、この時を利用して本当に効果がある薬なのだと、言葉によって思い込ませる。
「喉が苦しくないな、まさか本当にこのワインが効いたのか?」
私は再び薬の効果を説明してやる。これは魔道具によって生み出されたワイン味の薬で軽い症状の病気に限ってだが、万病に効果があるのだと。
多少強引だったことは認めるが、それはお前の咳を治してやりたいという気持ちからやったことで、決して害を与えようとしたわけじゃないし、国家転覆なんて少しも考えていないのだ。
そうしたらバーティーは今度は黙って聞いている。実際に効果があったのだから当然だろう。そしてしばらくした後で「疑って悪かった」と言ってきた。ファッションの好みこそ合わないが、やはりこいつは人間としては悪くないやつなのだ。
プラシーボ効果。
全く効果のない薬を飲んだ患者が、効果があると信じ込むことによって薬としての効果を発揮するという事。
私の場合はプラシーボ効果をさらに魔法の力で強化したものだと理解している。
「そんなに効果があるのならもっと飲んでみようか。味わう余裕など無かったが、鼻に感じる香りは中々悪くないじゃないか。ワインについてもプロと言っていいほど精通している私に認められるワインなど滅多にないのだから誇っていいぞポロロッカ」
咳がおさまったせいで調子に乗っているバーティーがワイングラスを用意しろとか言ってきたが、酒を飲まない私が持っているわけがない。
これは飲めば飲むほど良いというものではない、と言ってやる。良いから飲ませろ、飲み過ぎは良くないと言い争っているうちに部屋の扉が開いて、汗だくになったアルフレッドと見たことのない奴らが勝手に部屋の中に入ってきた。
「バーティーーーー!!」
アルフレッドは悲鳴を上げた。
バーティーの白いシャツは血のように赤い色に染まっていた。
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