60話 ~ファッション~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
<好きなもの>:女性、食事、睡眠、金。<嫌いなもの>:面倒な事、辛い事。<怖いもの>:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
「おいポロロッカ、お前どうしてこないんだよ」
きりりとした暗闇に映る街の光を少し眺め、カーテンを閉めてそろそろ寝ようとしていたその時、宿の部屋の扉が開けられ、男が勝手に入ってきた。
年齢は20代前半くらいだろうか、普通の成人男性と比べて頭一つ分くらいは背が大きくガッチリとした体格で、たっぷりとしたアゴヒゲを生やした熊みたいな男。こいつはたしか………。
「バーティーだ、まさか忘れたとは言わせないぞ。私はお前が来るのをずっと待っていたのに、なぜあれ以来一度も私の屋敷を訪ねてこないのだ」
バーティーだ。いかにも高級なスーツに身を包み、良く響く大きな声で語る姿は堂々としている。私にとってあまり嬉しくない訪問だ。
あまり話を弾ませて長居して欲しくもないので「覚えているよ」とだけ言葉を返す。
「何を当たり前のことを言っている!私は人から忘れられたことなど人生で一度もない!」
私の答えが気に入らなかったようで激高した。しかし不快感を感じないのは何故だろう。
私の悪い癖として、上から目線で来られると相手関係なく反抗して
しまうというのがある。
しかしバーティーに対してはそんな気持ちが湧いてこない。「ああ、言ってるな」という感じだ。まるでお笑い芸人のキレ芸を見ているような気分だ。
やはり言葉と言うのは誰が言うのかによって違う。
「な、なんで黙ったままそんなに私を見つめるんだ?」
戸惑っているこの上級国民との出会いを思い出だす。
あの日私は「プリンプリンZ」という天国ほど心地よいマッサージをしてくれるお店の、人気ナンバーワンのキャストである「りほちゃんZ」に会いに行くつもりだった。
しかし心待ちにしていた私の予約は、店が急に貸し切られた事によって勝手に取り消されてしまったのだ。破裂するほど頭に来た私は、ルール無用の悪行を為した犯人の元へ殴り込みをかけた。
巨大な屋敷の立派な門扉を蹴破って侵入したそのなかで悠然と構えていたのがこのバーティーという男だ。
私の行動は次の日の王都の話題を独占するほどの騒ぎとなって、自分がどれだけとんでもないことをしたのかを知った。
あれ以来気まず過ぎて「プリンプリンZ」には一度も行っていない。だからあの件は私にとっては考えないフォルダーの方へ入れていた。
「とにかく、明日は魔物狩りを楽しむつもりだから一緒に来い。お前は魔物狩りをしたことがあるか?ないなら教えてやるよ、道具も全部準備してやるから体一つで来てくれればいい」
そうだ。
この世界の高貴な身分の御方たちは魔物狩りというレジャーを楽しむのだった。嗜みであり社交であり、自分の部下の戦力を他の貴族たちに見せつけたりもするという、アピールの場でもあるのが魔物狩りというレジャーなのだと聞いたことがある。
私が金と引き換えに情報を貰っている冒険者ギルドのウサギ耳受付嬢のモモコが苦虫を噛み潰したような顔で言っていた。
その時には冒険者が呼ばれることもあると言っていたので、きっと面倒なトラブルでもあるのだろう。元来冒険者と言うのは普通の仕事が出来ないやつらの集まりなので、傲慢な貴族とうまくやることは難しいだろうと想像できる。
なので断る。
「どうしてだ?わからん、私がここまで言ってやっているのにどうして断るのだ」
心底分からないという顔をしているが、もともと私は集団行動が苦手だ。さらに、自分が偉いと思って高圧的に来る奴と対することも苦手だ。
かっとなって思ったことをそのまま言ったり、殴ったり、蹴ったりしてしまうので、止めておいた方がお互いのためだ。
この男が何を考えてわざわざ部屋までやって来たのかは分からないが、一緒に魔物狩りなんて言ったらすぐに揉めることは目に見えている。
「失礼な!殿下は高圧的などではない」
今の今まで気が付かなかったが、バーティーの後ろには痩せていて背の低いそばかす赤毛の眼鏡男が立っていた。というか何だか特徴の多いやつだな。特徴は一個に絞れ、と言いたい。
というか誰なんだこいつは。
「私の名はアルフレッド、殿下の友人だ」
知らん。
「知らんとはなんだ!それなら貴様の事だって私は全く知らんぞ」
顔を赤くして怒っているが全く迫力を感じない。チビガリなせいもあるが魔法使いとしての実力も大したことが無いのだろうなと思う。
体が小さくても魔法使いであれば独特の迫力を感じるものだ。そのせいでハムスターに怒られているような感じだ。可愛さの全くないハムスター。
「は、はむすたー?なんだそれは、馬鹿にするな」
赤毛の男はさらに顔を赤くして叫ぶ。どうやら知らないうちに考えていることが声に出ていたようだった。しかしハムスターを知らないくせに悪く言われていることは分かるのだな。
「なんだお前のその服は」
静かになっていたバーティーが唐突にアルフレッドを遮って喋り出した。
口調が今までと変わっている。今までは陽気な感じだったのが起こっているような感じがする。そんな彼がステッキで指しているのは私のTシャツだ。
これは私が持っている異世界のTシャツのなかでも気に入っているもので、アニメ映画に出て来る主人公の敵が怪物になったところがプリントされている。私は一度しかこの映画は見たことが無いのでうる覚えではあるが、これは確かそんな感じの場面だったと思う。
「そんなだらしなくて、みっともない格好は不許可だ。私は昔ながらの伝統と格式のあるファッションを大切にしている。金が無くてできないのなら仕方がないが、お前はそうではないだろう、それならこれから私と会う時には正装をするんだ、わかったな」
ビシッとした上下スーツで白のワイシャツにネクタイという、いかにも貴族という格好をで語るバーティー。
腹が立った。
どこの世界であろうとも人の趣味をこき下ろすというのは最も許されないことだと思っている。しかもこれは私の故郷である日本のアニメが描かれたTシャツだ。
とても許せるものではない。
だから私は「これの良さが分からないとは、お前にはファッションセンスが無いな」と言ってやった。
バーティーがファッションにこだわりを持つ人間であることは見ればわかる。だからあえて言ってやった。
その瞬間、バーティーが目をひん剥いたのが分かった。やはりこいつはファッションが好きで、自分のファッションセンスにも自信があるのだろうな。
「私にファッションセンスがないだと?!よくそんなことが言えたものだな、私こそがこの国のファッションの頂点だ」
正装は正装で良いものだとは思うが、それは相応しい場で着ればいいのであって、普段から着用することは疑問だ。しかも正装こそ最も優れている素晴らしいものであるという考えも気に入らない。
「そんな薄汚れた服を着ているくせによくも私のファッションを馬鹿に出来たものだな」
熊の様な見た目の魔法使いが顔を真っ赤にして怒るのはなかなか迫力がある。
口げんかしているだけで本気で怒っていないのは分かっているが、それにしても普通の人間なら怯えるだろうな。私も気を付けなくてはならないな。魔法使いはただそこにいるだけで異様な雰囲気を放っているものなのだ。
「聞いているのか!二度と私のファッションに対して生意気なことを言うなよ!?」
しかし私は後悔していない。やられたら倍返しするのが私の信条だ。怒るバーティーの顔が見れてスッキリとした気分だった。
もっと言ってやろう。
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