54話 ~マッドマン~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
<好きなもの>:女性、食事、睡眠、金。<嫌いなもの>:面倒な事、辛い事。<怖いもの>:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
僕ことスイリンは今、法律事務所へと向かっている。行くのは今日で2回目なのだけど、そこで教えて貰って1日2時間の法律の勉強を始めている。
突然通うことになった理由はもちろんポロロッカさんに言われたからだ。僕達がこの世界で生きていくためには法律の勉強は絶対にしておいた方が良いらしい。
僕は勉強は嫌いじゃないし、将来にも必ず役に立つから頑張れ、と言ってくれた。僕もその通りだと思うし、それでポロロッカさんの為にもなるのなら嬉しい。
歩いて行く途中の街中で聞こえてくるのは、新種の魔物の話題だ。緑色をした体長3mくらいで、一つ目で、腰ミノを付けた二足歩行の魔物。
王都から離れた小さな町や村に現れて短い時間だけ暴れまわって去っていく。
この魔物はおかしい。
そう言われているのは、被害に遭った人たちの皮膚を溶かす魔法?を使ってくるという所と、暴れまわるけれど人を殺すことはほとんど無いという所だ。いままでにこんなおかしな特徴を持った魔物はいないらしい。
もうすでにいくつもの場所で目撃されているにもかかわらず、未だにその魔物の正体は解明されていない。
誰が呼び始めたのかは知らないけれど、すでに「マッドマン」という名前だけは付けられている。人の皮膚を泥のように溶かすからマッドマンなのだそうだ。
噂によればマッドマンと対峙したBランク冒険者が一撃も与えること無く取り逃がしたという情報もあるので、かなりの戦闘力を持った魔物であろうとも言われている。
そして今日の朝にはさらに新しい情報が入った。マッドマンは昨日の夕方ごろ「ゴータ・ワイナリー」と呼ばれるワインを製造、貯蔵する施設に突然現れ、暴れまわったという。
今までと同じく死者は出なかったが、施設や貯蔵しているワイン樽をことごとく破壊して回ったという話だ。
この事件によって今現在、兵士や冒険者などが招集されて「マッドマン」の討伐へ国が本気で動き出すという事態になっているみたいだ。
これに関してはポロロッカさんが日頃から情報を貰っているギルドの受付の女性からも情報が入っているので間違いはずだ。
今まで大して本気で動いていなかった国がどうして急に動き出したかというと、襲われた「ゴータ・ワイナリー」という施設が、大昔の王様によって建設されたこの国で最も格式のあるワイナリーだからで、今の王族様や上級貴族様の御用達であるらしい。
つまりこの国の偉い人達にとってそこはとても大切な施設だから、国は本気で動き出したという事のようだ。しょうがないけどモヤモヤする。偉い人にとっては人間の被害よりもワイナリーの被害の方がはるかに重要みたいだ。
Sランク冒険者のクワバラさんや、Bランク冒険者のカトレアさんにもギルドから出動要請があったそうだけど、二人とも断ったようだ。どうやら他にも断っている冒険者は大勢いるらしい。
もし万が一自分の皮膚を溶かされたらと思うと、簡単に手をあげることは出来ないと判断したようだ。
いままで大した調査もしていなかったせいで、どこから現れてどこに去っていくのかも、はっきりしていないのだという。
クワバラさんの話によればこの点がこの魔物の厄介な所らしい。なぜならばこの条件ではマッドマンに対してこちらから仕掛けることが出来ないからだ。
マッドマンは今まで、一度現れた場所には現れていない。次にいつどこに現れるのかも全くわからない。これも普通の魔物では無い特徴だそうだ。普通だったらどこかに住処を持っているはずで、そこを中心に目撃情報が出るからだ。
これでは人を大勢集めたところで、広い範囲に分散させるしかないからどうせ逃げられる。もしくは実力のない冒険者が犠牲になって終わり。これでは行くだけ無駄だと言っていた。
ポロロッカさんもこれには興味を持っていた。と言っても倒そうとしているわけでは無い。
考えているのは魔物の被害に遭わない事。
いつマッドマンがあらわれてもいいように逃げる準備をしておけ、と言っていた。
大体の人たちがこの国で一番警備の厳しい王都に来るはずがないと思っていて、他人事のように話をしているけれど、ポロロッカさんはそうは思っていないようだ。
戦わないんですか?と聞いたら、それは兵士の仕事だと言っていた。あいつらは国や国民を守るために毎月給料をもらっていて、私達は税金を払っているのだから、兵士に任せておけばいいのだそうだ。確かに言われてみればその通りだ。
少し冷たいような気がしたけどそうでは無くて、僕のお母さんを王都に呼び寄せることを考えたらどうかと言ってくれた。
もし万が一僕の家にマッドマンがやってきたら対処することは難しいだろう、それなら冒険者や兵士が多くいる王都の方がまだ安全かもしれないと。
確かにそうだ、どうして僕は気が付かなかったのだろう。マッドマンは今、王都から離れた場所に現れている。僕の実家にも来るかもしれない。やはりポロロッカさんは僕の何倍も物事を考えている人だ。
だけどお母さんは家から離れないような気がする。家には、家だけでなく畑もあるので、ずっとその場所で生活してきた人にとってはそう簡単に離れることは出来ないんだ。
僕がそう言ったら、ポロロッカさんの両親も同じことを言いそうだ、と答えてくれた。そうだ、親のことを心配しているのは僕だけではないのだ。たとえ家族であっても自分とは全然考えが違っていて、思い通りに行かないものなのだと気付く。
手紙を書いて送ろう。丁寧に今の状況を説明して、マッドマンが討伐されるまでの間だけだと書いておこう。ずっとじゃなくて期間が決まっていると分かれば来てくれるかもしれない。
さて、ポロロッカさんのお店を買収して国民ランクを簡単に手に入れる作戦だけれども、奴隷商店主のウォドラーさんのお陰であっさりとお店を買うことが出来た。
それは薬を取り扱うお店だ。
なのでもしポロロッカさんがこのお店の経営をすることになれば、薬しか売ってはいけないことになる。けれど結局買ったまま何もせずに置いておくんじゃないかと思っている。
目的は国民ランクを上げることで、お店を経営したいわけじゃなかったからだ。それとこれは大きい声では言えないのだけど、ポロロッカさんにはあまり商売人は向いていないような気がする。
僕がが知っている商人というのは、お客さんの笑顔を振り撒きながら「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございました」とかを誰に対しても言わなくてはいけない。
ポロロッカさんのそんな姿が僕には想像できない。
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