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53話 ~買収とTシャツ~


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


<好きなもの>:女性、食事、睡眠、金。<嫌いなもの>:面倒な事、辛い事。<怖いもの>:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 朝起きて宿のカーテンを開けると空一面の曇り空だった。


 異世界でも空の色は同じなのはありがたい。もしこれが真っ赤だったりしたら見るたびに胸騒ぎがするはずだ。


 昨日は奴隷商コーストラインの店主ウォドラーに、すでにあるどこかの店の経営権を買うための調査を頼んだ。


 いわゆる買収だ。


 まさか自分がテレビでしか聞いたことが無い「買収」などというものに関わるなんて夢にも思っていなかった。しかしこれがもし成功すれば私はたちまち元の経営者と同じ国民ランクとなることができるのだという。


 国民としてのランクが低いと、病院、学校に通えない、裁判で不利になるなど、かなりのデメリットがあるから、早急に何とかしなければいけない問題だ。


 買収などそう簡単にできるものなのだろうかと疑問だったが、ウォドラーの話では、経営者に事業を継ぐ子供がいなかったり、店の経営が厳しかったりする場合、案外簡単に店を譲ってくれることがあるのだという。


 裸一貫でこれから商人を始めようとする人には思いつきもしない、裏技的な手法だ。


 もちろんそれには経営者が納得するだけの金額を提示しなければならないが、私には競馬で儲けた10億以上の金がある。しかも、もし金が足りなかったら無利子で金を貸すとウォドラーは言ってくれた。


 相談に乗ってくれただけでもありがたいのに、買収できそうな店の調査、そして無利子での借金の申し出をしてきた。


 思い返してみれば、奴隷を買いたい私にスイリンを紹介し、引きとれば謝礼として3千万ゴールドを払うと言ってきたのもウォドラーだ。


 普通ではない。


 私に対してこれほどの厚遇をウォドラーがしてくれる理由が思いつかない。聞くのが怖いので聞いていないのだが、国民ランクで考えれば王都の一等地で奴隷商を経営するウォドラーは相当高ランクだろう。


 それなのにどこの馬の骨とも分からないFランクの私に対して、これほどの対応。普通ならば差別意識があって当たり前くらいの関係性だ。


 これは何か裏があるのではないかと疑ってしまう。疑ってはしまうが助けてくれること自体はありがたいので遠慮なく受け取ってしまう。


「先生ー!俺きたよー!」


 外から元気な声が聞こえてきた。ドタドタと階段を上る音がしたので扉を開けてやると、いつも通りの大きな肩掛け鞄を持っているカートがいた。


「そんなにいっぱいじゃないけど、今日も見つけてきたよ。確か5枚だったかな」


 私と同じく異世界Tシャツ大好き人間であり、私に代わって収集してくれる販売でもある。そうだ、思い出した。この感じ何かに似ていると思ったらヤクルトレディーの感じに似ている。


「先生、また何か考えてるの?多いよねそういうの。喋ってる途中なのに固まっちゃうからびっくりするよ」


 スイリンと同じくらいの歳の金髪の少年は、そう言いながら部屋の中の椅子の上に鞄から取り出した異世界のTシャツを乗せていく。あまりにも奇抜で独特なデザインの数々。


 この世界で異世界の品はペン一本でも高額なものだが、Tシャツに関してはひどく人気が無いという。


 いくら異世界の品でも服は中古よりも新品の方が良いというのがこの国の人の感覚らしい。けどそのおかげで対して金がかからずに気軽に集めることが出来るからありがたい。


 一枚目、嫌い。2枚目、きもい。3枚目持ってるからいらない。4枚目うーん。5枚目、めちゃくちゃ良い。


「それいいよね、ポロロッカさんはそのアニメ好きだから絶対に気に入ると思ったよ」


 嬉しそうな表情のカートと一緒に見ているのは「AKIRA」の黒のTシャツ。


 すこしヨレヨレだが、これが逆に古着としての味わいが出ているともいえる。注文通りサイズもXLだから、体が大きくなってしまった私でも着ることが出来るだろう。


 AKIRAに関しては私も一度しか見た事は無いが、内容はSFもの。リアルでグロテスクで、見終わった時の後味があまり良くなかったことを覚えている。


 そうはいってもやはり自分が知っているものを見ると嬉しくなってしまう。とくに主人公がバイクに乗っているこのデザインの物は持っていなかったので嬉しい。


 5枚買ってきてくれたカートに約束通りのお駄賃1万ゴールドと、残りの4枚のTシャツも渡す。


 最初は全部私が受け取っていたのだけど、そうするとあっという間に部屋が一杯になってしまったので、いまは気に入ったものだけを受け取って、残りの処分はカートに任せている。着るも売るもそれは彼の自由だ。


 こういう事情もあって私は家を買いたいと思っている。私の異世界Tシャツの主な楽しみ方としては着るよりも眺める方が好きなので、広い家を手に入れたら服屋のように飾っていつでも見れるようにしたいと思っている。


 AKIRA。


 薄っすらとしか記憶にないシーンの描かれたTシャツを見ていると、なんだか少し心を締め付けられるような気分になる。いまはいまで楽しんでいるつもりだが、もしかして私の本心は元の世界に帰りたいと思っているのだろうか。


 わからない。


 私はどんなに望んでも、もう二度とAKIRAを観ることは出来ない。このTシャツに描かれている主人公の声も、バイクのエンジン音も思い出すことが出来ない。


 今はとなってはもう一度くらいは観ておけば良かったかもしれない、ほんの少しだけそう思う。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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