52話
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
奴隷商コーストラインに華やかな赤ワインの香りが広がっている。
「これは………とても美味しいです」
店主ウォドラーは優雅にワイングラスを傾け、口の中でしばらく味わいったあとで、ゆっくりと言葉にした。
「これほど素晴らしい赤ワインがまさか魔道具から生成されたものだとはとても信じられません」
ウォドラーの満足そうな表情を見れば、その言葉がお世辞でないことが分かる。
「よかったですね、ポロロッカさん」
スイリンが嬉しそうな顔で言う。ワイン樽にワインを詰めるのは二人で一緒にやったので、褒められるのはやっぱりうれしい。
あとでマリーの所にも持って行くことにしよう。この手榴弾みたいな形をした魔道具をくれたのは彼女だから何か礼をしなければいけないと思っていた。
前に味見をしてもらったことはあるが、その時から私は変わった。体は大きく分厚くなって髪が急激に伸び、魔力の総量も増えるという原因不明の症状が出た。そうなれば生成するワインにも変化があるかもしれない。
美味しくないだけならともなく、体が痺れるなどの副作用があってはヤバいので、最初にウォドラーに味見をしてもらうことにした。私はウォドラーを信用しているのだ。
「さて、今日はこの素晴らしいワインを下さるという目的だけでいらして頂けたのですか?」
さすがにウォドラーは賢い。裕福でワインの味が分かりそうな人に味見をしてもらいという他にも用がある。用というか困ったことがあると言ったほうが正しいかもしれない。
それは、私の国民としてのランクの話。
諸事情により、王都に来て以来ずっと宿泊していた宿から出なければいけなくなった。正直言って寂しい気持ちはあるが店主の気持ちを考えればこれは仕方のないことだ。
だからここはいっそ一軒家を買ってしまおうと考えた。
それならば今後ほかの人に迷惑をかけることは無くなるだろう。しかしながら不動産屋に行った私は、衝撃的な事実を知った。それは、下級国民には家を買う権利など無いという事だ。
この国では、冒険者のランクのように国民をSからGでランク付けしていて、それに応じて権利と義務が生じる規則なのだ。
今の私はFランク。これは最低限の税金を払っているから一応いても良いよ、というだけの存在。Fランクの国民は家を買うなんて大それたことが出来るような身分ではないという。
恥ずかしかった。
そんなことも知らないの?それくらい常識ですよ?みたいな顔を不動産屋にされた時には恥ずかしくて、悔しかった。あの時の事を思い出すと今でも体が熱くなる。
「なるほど………」
国民のランクというのはつまり、国にどれだけ貢献したかという目安だが、私はそんなことには興味は無い。
とにかく手っ取り早く、コスパ良く、ランクが上がればそれでいい。なのでその方法を知っていたら教えて欲しいと正直に伝えた。
「なるほど!さすがはポロロッカさんですね。私の思っていた通りの方ですよ。国への貢献には興味が無い、ですか」
ウォドラーは大笑いしているが、褒められているのか呆れられているのか分からない。
調べてみたところ、Fランク国民は家を買う権利が無い他にも、病院に行けない、学校に通えない、などの不利益もあった。
そしてこれは全体的に言えることだが、裁判をする場合にもランクの差に応じて判決が変わるということが当たり前にあるというのだ。
今までは異世界と言ってもそれほど前の世界と変わらないところもあると思っていたのだが、大違い。この世界では命の価値は平等ではない。
それならば高ランクの国民を目指すしかない。そして私はこの世界を知らなすぎるという事が改めて浮き彫りになった。
しかし絶望する必要はない。知らないのなら知っているものに聞けばいいのだ。
というわけで、冒険者ギルドのウサギ耳受付嬢ことモモコに相談した。日ごろから冒険者と接している彼女たちの所には、鮮度の良い情報が常に転がり込んでくる。
情報と引き換えに金を払うことは前からしていたので、関係性はもうすでにできている。そのモモコが言うには冒険者になってランクを上げるか、兵士になるのはどうかと言ってきた。
単純に個人として強力な戦力を持っている者は、国にとって有益な存在であるためランクが上がりやすいのだという。
しかしその反面、国の要請に従って極めて危険度の高い魔物討伐を成し遂げたり、戦争に参加して功績を残すことが求められるという。
しかし出来ればもっと簡単な方法はないのだろうか。魔物の討伐ならともかくとして、戦争に参加することなど論外。
それならば別のルートからも考えた方が良いと思った。
高ランクの国民のランクを持っているのは商人も同様で、生まれは貧しくとも自分の才覚だけでのし上がっていった偉人の話はいくらでもあるという。
今の私には競馬で稼いだ金があるのだから、そっち方面から攻めていくという戦法もある。
簡単にランクを上げたいと考えているのは私だけでは無いはずだ。それならばきっと一部の人間しか知らないような抜け道があるはずだ。
金と権力。
地獄の沙汰も金次第という言葉があるが、たとえ世界が変わっても人間は人間であるのだから間違いなくこのふたつは通用するはずだ。
だからこの王都で一等地に立派な店舗を持つ「奴隷商コーストライン」の店主ウォドラーに話を聞きに来たのだ。この男ならばきっと何か知っているに違いないと思った。
「なるほど、できれば一番最初に来ていただきたかったところですけどね」
いかにも何か知っていそうな顔をしている。
「普通のやりかたで商人がランクを上げるためには、まずは15年ほど師匠の元で働くことになりますね」
ウォドラーは遠い目をしながら言った。
「それによって商業ギルドへの所属を認められ、後は税金をどれだけ納めるかによって高ランクの商人として国からも認められます」
思ってた答えとは全く違った。私が聞きたいのは普通のやり方ではない。ウォドラーであれば私の考えをすぐに理解してくれると思ったが、説明が悪かったようだ。
と思ったらウォドラーが笑っていた。
理解した。
これは彼流の冗談なのだ。私が15年も修行するはずなど無いと分かって言っている。ウォドラーは咳払いをしてから言った。
「一番簡単なのは、すでにある店をその権利ごと買い取ることです」
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