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51話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


「金貸してくれ!」


 宿に部屋にいきなり入ってきた大男が叫んだ。


「っていうか誰だお前!ポロロッカじゃないのか!?あれ?やっぱりポロロッカじゃないか」


 何を訳の分からないことを言っているんだ、と思ったが意味が分かった。魔力欠乏症から回復してからの私は、体も髪形も変わってしまった。それが原因だ。


「まあいいや、体が突然大きくなることくらいあるよな。俺も若い時は毎日大きくなってたもんだよ」


 私のは成長期とは違う問題の様な気もするが、いちいち説明するのも面倒なので放っておく。


 人の部屋に入ってきて謝りもせず一方的に喋りつづけているのはSランク冒険者クワバラ。スキンヘッドで口髭で太い眉の、殺されたサイヤ人みたいな見た目をしているやつだ。


「何してんだお前、部屋の模様替えか?」


 違う。これは引っ越しの準備だ。王都に来て以来ずっと泊まり続けてきたこの宿だが、実は一昨日宿の主人からお願いだから出ていって欲しいと言われてしまった。


「俺にはその店主の気持ちわかるよ。お前みたいな変人がいたら毎日落ち着かなないもんな。そりゃあ出ていってくれって言うだろうよ」


 腕組みをしながら頷いているが、この髭はなにを頓珍漢なことを言っているのだろう。主人が苦しんでいるのは私に対してではなく、私のことを付け狙う馬鹿共だ。


 最近はめっきり来なくなったが、前までは競馬で大金を当てたことを嗅ぎ付けたやつらが金を寄付しろと言い寄って来たし、私が魔力欠乏症で苦しんでいたときには、男達が武器を持ってこの宿に乗り込もうとした、という事件があった。


 スイリンのお陰で何とか無事に収まったが、それ以来、宿の主人はすっかり参ってしまったようなのだ。部屋も料理もいいが、神経の細かそうなところがあったからしょうがない。


「あーそう言えば俺もその時現場にいたよ。お前の近くにいるせいでいまいち印象に無かったスイリンが、あそこまで戦えるとは思わなくて驚いたんだ」


 感心したように腕組みをしているクワバラは元気そうだ。やはりこの世界ではこういう馬鹿みたいに図太い神経が必要なのだ。とにかくそう言ったわけで私は宿を出ることにした。


 この宿は気に入っているが、馬鹿どもを呼び寄せてしまったのは私だ。店主にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。


「ってか聞いたか?ちかごろ王都の近くの街で正体不明の魔物が大暴れしてるって話」


 知っている。


 過去に発見されているどの魔物にも似ていないらしい。暴れるだけ暴れて誰も殺さずに笑いながら去っていく。殺されなかったのなら良かった、といえないのは襲われた人たちは皮膚がドロドロに溶かされたから。間違いなくその魔物のせいだろう、実に恐ろしいことだ。


「なんだ知ってたのかよ」


 つまらなそうに舌打ちをした後で顔をあげて笑った。


「そんならこれも知ってるか?その魔物に襲われた被害者が近々王都にやって来るって話」


 それは知らなかった。


「やっぱり知らなかったか。よしよし、それじゃあ教えてやろう」


 嬉しそうに髭を擦りながら言う。


「Cランク以上に対しての依頼で大っぴらに掲載されてる依頼じゃないんだが、それをパンナとコッタの兄弟が引き受けたんだ」


 私の日課はギルドの受付嬢に金を渡して情報を得ることだ。それなのになぜ私の耳に入ってこないのだろう。


「行き違いかもしれねえな。俺がその話を聞いたのは夜中近かったからな。本人が言ってたんだから間違いねぇよ」


 それなら納得だ。


 私がいつもギルドに行くのがギルドが空いている昼過ぎの頃だから、その後で起こった出来事なのだろう。今日も行くつもりだから多分その時に聞かされるはずだ。


 被害者たちが王都に来るという事は治療の為なのだろうか。


「いや違うな」


 クワバラが確信をもって言う。


「多分、研究だ」


 研究?


「見たこともない魔物から受けた聞いた事もない症状だからな。学者連中に色々と研究させるつもりなんじゃねぇか?」


 恐ろしい。


 殺されなかったとはいえ、皮膚を溶かされるというのはどれほど苦痛なのだろう。そしてその後は出歩いただけで人から指を指されるような人生になる。


 さらには研究素材として扱われる。


 これはもしかすれば殺されるよりも遥かに辛いことなのかもしれない。残酷だ。酷く残酷な話だと思う。魔物はもちろんだが人間も。



 というかこいつはノックもせずに何をしに来たのだろう。


「そうだった、すっかり忘れてた。おいポロロッカ、お前は競馬で大金を儲けたんだろ?頼むから何も聞かずに俺に1億ゴールド貸してくれ」


 出た、寄付ゾンビだ。こういう奴は今まで何人も来たが、こんなに大きなサイズのやつは最高記録かもしれない、記念に魚拓でも取っておこうか。


「違う!俺は金をくれって言っているわけじゃない、貸してくれって言ってんだよ」


 必死にまくし立てているが、正直言って私はこの男に対して気を許したつもりは無い。しかも何も聞かずに金を貸せだなんて無理な話だ。


 この世界で最高ランクのSランク冒険者なのだから、自分で金を稼げばいいじゃないか、実力さえあれば金になる仕事はいくらでもあるだろうと言ってみる。


「いくら俺でもたったの3日で1億なんて大金を稼ぐのは無理だ」


 何も聞かずに金を貸してくれと言ってきたくせに、クワバラはすぐに自分の事情を語り始めた。


 クワバラはその見た目通りギャンブルが大好きで、大負けに負けてトータルの利子込みで1億の借金がある。


 いくらSランク冒険者といえども、それだけの大金を借りるためには担保が必要という事で、クワバラは自分愛用の魔道具を借金のカタに預けていた。


 ついこの前まで金を返すのはいつでもいいと言っていた金貸しが、急に3日以内に全額耳を揃えて返せ、それが出来なければ預かっている魔武器を競売にかけると言ってきたらしい。


 驚き戸惑っているクワバラに対してその金貸しは、いい仕事を紹介すると言ってきたという。


 その仕事とは用心の護衛だが期間は10年間。正式な契約を結び途中で辞めることは出来ないがその代わりに前金で2億ゴールド、契約満了時にさらに2億を支払う仕事があるから、それを引き受けたらどうかと言ってきたらしい。


 つまり、クワバラがいま手元に金が無いことを知ったうえで、魔武器を返してほしければ従え、という事だ。


 子飼い。


 それは名の売れた冒険者が金によって買われ、金持ちにいいように使われる状態を言う言葉だ。


「誰あろうこの俺が「子飼い」になんか絶対ならねぇ。汚ねぇ手使って俺を嵌めようとしやがって糞野郎どもが………」


 怒りに震えるSランク冒険者には迫力がある。


「俺は誰にも従わねぇし、俺の魔武器は俺の物だ、だから金を貸してくれ、絶対に返す、利子は付けねぇし、いつまでにとかも言えねぇけど絶対に返す。だからとにかく今一億貸してくれよ」


 ジャイアンみたいなことを、頭も下げずに堂々と言い放った。常人離れしたその度胸には感心するが、助けてあげようと素直に思うような話でもなかった。


 それにただでさえ強いこの男が魔武器を手にしてしまったら、一体どれほどの力を発揮するのだろう。考えただけで恐ろしい。


 これはもう愛用の魔武器なんかはどこかに売られてしまったほうが私の身の安全のためには良いのではないかと思った。


「な、いいだろ?」


 当たり前のように私が頷くと思っているらしく希望に満ちた顔をしている。けれど条件次第では金を貸してやってもいいとも思う。


「条件?」


 クワバラは声は大きくて粗暴で、何をしでかすか分からないやつではあるが、その実力だけは間違いない。もし上手く利用することが出来れば私にとって大きな利益となる存在。



 私の特殊魔法「ネゴシエーション」は文字や言葉に力を持たせることのできる魔法。


 ここで今試してみよう。


 遥か格上であるSランク冒険者にそれが少しでも通用するのかどうか。駄目で元々、しかしやってみて損はない。


 私はいまからこの男を少しだけ洗脳してみようと思う。


 果たしてうまくいくだろうか。


「お前、何笑ってんだよ………」


 スキンヘッドで口髭で太眉で大男のクワバラのその顰め面の中に少しだけ恐れのようなものが見えた気がした。


 面白くなってきた。





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