50話 ~大暴れ~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
ポロロッカは激怒した。
本日午後7時きっかりに「プリンプリンZ」の前に立った。この店の人気ナンバーワンのキャストである「りほちゃんZ」の180分コースの予約を取ったから。
それなのに店の扉には「貸し切りの為、本日の営業は行いません」と書かれた張り紙だけがあった。
貸し切り?
私の予約はどうなった?この日をどれだけ楽しみにしていたと思っているのだ。それをたった一枚の張り紙で済ませようとする態度に腹が立った。
私の悪い癖は怒りが頂点に達すると本能の赴くままに行動することだ。気が付けば私は蝶野正洋の如きケンカキックをその扉に食らわせた。
ものすごい音を立てながら倒れた扉を踏みつけながら店内に入る。するとすぐに安っぽいスーツを着た体格のいい男が向かってきた。
私には敵にしか思えなかった。
有無を言わせず私は男の首根っこを締め上げた。体内を魔力で満たした私の体は男を易々と持ち上げ宙づりにする。男は掴んでいる私の手を引き剥がそうとしているが全く力が足りていない。
魔力は筋力を凌駕する、この世界の常識だ。
私の予約はどうなった?そう聞いてみても返事が無いので左右に揺さぶってやったら「店長に言ってください………」と蚊の鳴くような声が返ってきた。
そうだ、下っ端従業員に行っても仕方がないと気が付き奥へ進む。悪党の親玉は奥にいると決まっている。
やって来た数人の黒服の男達を薙ぎ払いつつ締め上げて、店長の居場所を聞き出した。
そして鍵の閉っている扉を蹴破って店長を見つけ出し締め上げ同じ質問すると「殿下がいらしたので仕方がなく………」と蚊の鳴くような声が返ってきた。
何の言い訳にもなっていない。
殿下が何者か知らないだ、誰だろうと許せない。私はちゃんと前もって予約をした。
それを勝手に取り消すなどあってはならないことだ。私には貸し切りは出来ないので他のお客と同じように店のルールに従えなどと言ってきたくせに、これは話が違いすぎる。
殿下とやらについて詳しく話せと聞いても「答えられない」とか抜かすのでさらに締め上げてやった。首から変な音が聞こえるまで力を入れてやるとすぐに「居場所を教えるから許してくれ」と言ってきた。
それなら最初からそうしていれば痛い目に遭わずに済んだものをと思いつつ扉の壊れた店を出る。
振り返ってみると従業員たちの恐れおののいた表情があった。まるで私が酷いことをしたような雰囲気だが、断じてそんな事は無いと確信を持って言える。
私は地図を片手に暗闇の降りきった街を歩きだした。
怒りは全く収まっていない。
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闇に染まる高級住宅街を歩けば、周囲の視線が自分に向いていることに気が付く。
しかし今の私には関係が無い。誰がどうだろうが私は、私から権利を奪ったものにひとこと言ってやらなければ気が済まない。
該当で地図を照らしながらようやく目的の場所についた。そこはかなり広大な土地を持つ屋敷だ。なかなかに高い外壁の上部には有刺鉄線のようなものまで設置されている。
頑丈そうな鉄の門扉の前には屈強そうな体格の守衛が2名、剣を携え立ちはだかっている。これほど強固に守られているのを見るのは銀行以来かもしれない。
何か言ってきた守衛を吹っ飛ばして門扉に蹴りを入れる。門扉はかなり激しく振動したものの壊れなかった。何と頑丈なつくりなのだろうか。恐らくは魔法使い対策だろう。
下腹部にある魔臓を意識してさらに体内に魔力を充填させる。そしてもう一度蹴りを放つ。
門扉は風に吹かれあ落葉のように敷地内の青芝の上をすごい勢いで転がっていった。それを見て満足感を覚えつつも怒りは全く収まっていない。
素晴らしく整えられた庭園のなかに大勢の男女がいた。どうやら庭でホームパーティーでもしているようだ。何人もの屈強そうな男たちが向かってきたが私はそいつらを全て吹き飛ばした。
悲鳴と怒声の中に「殿下、お逃げください」という声が聞こえた。その呼び名は「プリンプリンZ」の店長が言っていた名前と同じだ。そこを見てみれば明らかにそれっぽい人物がいた。
年齢は20代前半くらいだろうか、他と比べて頭一つ分は背が大きくガッチリとした体格でたっぷりとしたアゴヒゲを生やした熊みたいな男。周囲よりも数段上の風格を持ち、豪奢な椅子に座って私を一心に見つめている。
その周囲にいる男たちは私のことをテロリストだなんだと騒ぎ、女たちは叫び声をあげたりその場に座り込んだりしている。何がテロリストだ、人を見る目がないにもほどがある。
私はその男の目の前で立ち止まった。
私が近づくにつれて周囲にいる者達はすべて声も出せなくなっているが、その男の鋭い眼光は変わっていない。まるで悪党を見るような視線だがそれは違う。
ここまでやって来るまでに多少は暴れたかもしれないが、もとはと言えばすべてコイツが悪い。私は店のルールに従って予約をしていたのだ、それなのに横から掻っ攫っていくのはいくらなんでも悪行が過ぎる。
黙って聞いている熊みたいなその男の隣には、私が今日予約をしていた「りほちゃんZ」がいる。浦東は彼女と甘く爛れた夜を過ごすはずだったのに。
そう考えると私はさらにヒートアップし、正義の言葉を浴びせかけた。熊は黙って私の言葉を聞いていた。
「なるほど、話は分かった」
暫く黙り込んだ後で熊は言った。
「それでお前は私をどうするつもりだ?」
そんなことは聞かれても困る。私はただ一言文句を言ってやろうと思っただけだ。
「すまなかった」
熊は頭を下げた。周囲からはそんな輩に頭など下げなくても………という雰囲気が感じられる。そして私の怒りもだんだんと下がっていくのを感じる。
怒りが爆発しした時は、後先考えずに行動してしまうのが私の悪い癖だ。
「どこへいく?」
振り返った私に対して熊が聞いて来るが、そんなものは帰るしかないではないか。
「帰る前に私の庭園で楽しんでいったらどうだ?見ての通りここには美しい女たちが沢山いる。もうしばらくしたら皆でシャンパン風呂に入ろうと話していた所だ。屋敷の中には準備をしている美女たちがまだいるぞ?」
冗談かと思ったが、この熊は本気でそう思ってそうな顔をしている。私はなんだか不気味に思えてきた。自分だったら突然侵入してきた男に対してそんなことを言ったりはしないだろう。
興味が無いので帰るというと、残念そうな顔をしながら何かあったらここに尋ねてこい、私がいるかどうかは分からないが伝言が届くようにはしておく、と言われた。
「私の名前はバーティー、お前は?」
「………」
「どうせ調べればわかることだ、お前の口からききたい」
後から嫌がらせをされるのが嫌で黙っていようかと思ったが、言われてみれば確かにその通りなので名を告げる。
「ポロロッカか、覚えたぞ。久しぶりに見た面白い男だ、また会おうじゃないか」
何も答えず立ち去ろうとしたところ、振り返った目の前に背の高い女がいて私は思わず叫び声をあげた。
「ポロロッカさん、こちらをどうぞお持ちください」
そう言って金色に輝くカードを手渡してきた。
「これはあの、いかがわしい店のゴールドカードです。殿下には必要のないものかと思いますが、あなたには役に立つと思いますので」
確かにこれはずっと欲しかったものだ。このカードさえあればお店の女の子への予約を優先的に取ることができる。
「この度は殿下が失礼をいたしました」
そう言って頭を下げた後で女が私を真っ直ぐに見据えてきた。
彼女の見た目の美しさには気づいたが、それよりも気になるのはその眼力の強さ。
これだけ暴れまわった私の目の前に立つだけでも大した精神力だというのに、その表情には少しの恐怖も見えない。
私の心はすっかり冷めていた。
背中に熊と女の視線を存分に感じる。
なによりも「りほちゃんZ」の怯えた目が辛かった。
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