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46話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


「なかなかやるじゃねぇか」


 山賊のような顔で笑ったクワバラさんが僕の背中をバシバシ叩いてきた。


 痛い。やっぱりSランク冒険者というのは基本的な体の強さが普通の人とは違う。


「ありがとうございます」


 僕の目の前には、宿に無理やり入ろうとしていた男たちが泡を吹きながら横たわっている。


「あいつの影に隠れているから気付かなかったが。その年にしては

 なかなかの腕じゃないか。魔武器をしっかりと自分のものにできているのも良い」


「ありがとうございます。けど僕なんかまだまだ全然ですよ。毎日道場に通ってますけど、道場生の皆さんに比べればうまさが違います」


「そういう謙虚な所は良いぞ。そういう奴は伸びる、これからもその調子で行けば間違いなくお前は強くなるぞ」


「ありがとうございます」


 嬉しい。


 ポロロッカさんと出会ってから僕は、ずっと強くなりたいと思っている。


 そうじゃないと置いていかれてしまう。ポロロッカさんは、ある日突然僕の目の前に現れたように、ある日突然いなくなってしまいそうな気がしているんだ。


 だから強くなりたい。


 僕が強ければ、一緒に連れて行ってくれるかもしれない。だからこの国で一番ランクの高い冒険者であるクワバラさんにそう言って貰えたのは嬉しかった。


 置いていた「生絞りピーチ」を拾い上げて、宿野の階段を上がっていく。そしてポロロッカさんの部屋の扉をノックしてから中に入った。


 ポロロッカさんがベッドから起き上がって椅子に座っていたので驚いた。朝に見た時にはとてもそんな元気があるようには見えなかったから。


 そしてクワバラさんの姿を見たポロロッカさんは驚いた後で、露骨に嫌な顔をしていた。だけどクワバラさんは全く気にした様子はなくて、松葉づえを突いたままズンズン進んでポロロッカのベッドに腰かけた。


 そして「お前はなかなか骨のあるやつだ」とか「病院送りにされたのは久々だ」とか嬉しそうに話していた。ふたりの表情が全然違うのが面白い。


 ポロロッカさんは僕が買ってきた「生絞りピーチ」という高級ジュースを美味しそうに飲んでくれた。それを見ると体調はだいぶ良くなってきているらしい。


 クワバラさんに褒められたポロロッカさんは居心地が悪そうに、あれは魔武器のお陰であそこまでの威力を出すことが出来ただけで、素手で殴っていたら手首を折って終わりだっただろうと言った。


 ポロロッカさんにとって昨日の戦いは、自分だけが魔道具を使用したフェアではない勝負だと思っているのだ。


 それを聞いたクワバラさんはさらに嬉しそうな顔をして、魔武器を操ることも才能だから卑怯でも何でもないと言った。


 あの時、ポロロッカさんが魔道具を使っていることは分かっていたが、それでも自分の身体強化なら十分に受け切れると判断したのだから、自分の判断ミスだった。良い攻撃だったと語った。


 その後もしばらく色々と話しをしたり、ポロロッカさんの魔武器である「雷王」を眺めたりして、結構長時間居座ってようやく満足したらしいクワバラさんは「また来るわ」と言いながら、松葉づえを突いて帰っていった。


「………」


 ポロロッカさんの視線が痛い。


 どうしたんですか、と聞かなくてもクワバラさんをここに連れてきたことをちょっと怒っているのだと分かる。


 だけど僕にはどうしようもなかった。


 ポロロッカさんにはすごく感謝しているし、力になりたいと思っているけれど、クワバラさんは優しさからお見舞いに来たのだから、止める理由なんか思いつかなかった。


 だから僕はその視線に気が付かないふりをして、ごにょごにょと「朝よりも体調が良くなっているみたいでよかったです」的なことを言いながら自分の部屋に逃げ帰ることにした。


「あれ?」


 廊下に出たらすぐ、階段を上ってくる足音が聞こえた。誰だろう。この宿に今日から泊まる人だろうか、それとも寄付ゾンビだろうか、宗教の勧誘だろうか、あるいはポロロッカさんに対してなにか恨みがある人だろうか。


「あ、」


 それは前に見たことがある人だった。


「あれ、君は確かスイリン君だったよね」


 そう声を掛けてくれたのは宝石商のセレモニーさんだ。まえにポロロッカさんと一緒に宝石の展示会をやりたいと話を持ち掛けてきた人だ。


「ちょうど良かった、ポロロッカさんにがどこの部屋に泊まっているのか知っているかい?一階には店主らしき人がいなくて困ってるんだ」


 店主がいない?もしかして、さっきの男達に受けた怪我のせいで病院にでも行ったのだろうか。


 だから僕は、ポロロッカはいま体調が悪いので会うことは難しいかもしれないといと答えた。


 本当はさっきまでクワバラさんがいたわけだけど、僕が連れてきたことに対してポロロッカさんは明らかに怒っていた。それなのに2連続で案内するわけにはいかないだろうと思う。


「そうか、体調が悪いのか………」


 かなりがっかりした様子をしていたが、しばらく悩んだ後でまた今度来るから、自分が仕事の用件で尋ねてきた事を伝え欲しいと頼まれた。


 分かりましたと答えると満足したような顔をしながら回れ右をして帰っていった。どうしても会いたいと言われたらどうしようと不安だったので助かった。


「あの、すいません」


 階段を降りようとしたセレモニーさんの背中に僕は声を掛けた。


「どうしたんだい?」


 首だけで振り返って言う。


「最近、強力な魔法を使いましたか?」


「どうしてそう思うんだい?」


「においです」


「におい?」


「魔法を使ったときにするスパイシーなにおいが、セレモニーさんの体からしたんです。それもかなり独特な甘辛いにおいです」


「そうかいそうかい、スイリン君はずいぶんと鼻が利くんだね」


「そうですね、少しは………」


「けど勘違いじゃないかな。いや、もしかしたら煙草の臭いじゃないかな、それかさっき食べたご飯のにおいかもしれない。見ての通り私はあまり魔法は得意じゃないからね」


「そうですか」


「そうさ。それじゃあ私は失礼するよ、くれぐれもポロロッカさんにお大事にと伝えておくれよ」


 そういって大きな体を揺らしながら階段を下りていった。


 僕は音をたてないように、けれど急いでポロロッカさんの部屋に戻った。


 あの時、においを指摘した時のセレモニーさんの笑顔、あれを見た瞬間、僕の背中には寒気が走った。


 普通の人間の笑顔じゃなかった。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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