45話
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
Sランク冒険者クワバラさんと僕は宿へと向かって歩く。
僕が手に持っているのは「生絞りピーチ」というジュース。これはポロロッカさんお気に入りのとても美味しいけど2,000ゴールドもする飲み物なのだ。
ポロロッカさんはいま魔力欠乏症のせいでとても苦しんでいて、朝からお水しか飲んでいない。なのでこれだったらもしかしたら飲んでもらえるかもしれないと思って買ってきた。もし無理だと言われたら僕が飲むことにすればいいと思った。
しかし、ここで大問題。
「なんだあいつら?」
松葉づえを突きながら歩くクワバラさんの視線の先には、悪そうな男たちがたむろしていた。そしてその場所というのが僕たちが寝泊まりしている宿で、男たちに囲まれているのが宿の店主のムロヤスさんだ。
僕はすぐに分かった。あの男たちが本当に用があるのは僕達で、ムロヤスさんはそれを止めようとしてくれているに違いない。
「よし、いっちょ俺が片づけてきてやるよ」
僕が考えていることを説明したらクワバラさんは嬉しそうな顔をして松葉づえを突く速度を上げた。どうやら助けてくれるつもりらしい。
僕は慌ててその前に立ちはだかった。
「どうしたんだよスイリン。このままだとあいつ等はポロロッカが寝ている部屋まで入っていくぞ?」
「僕が止めます」
昨日お医者さんに入院を言い渡された人に助けてもらうのは、さすがに申し訳ない。
「止める?会ういう奴らは止めてくれって言ったら、止めるような連中じゃないぞ?」
「それはもちろんわかっています」
世の中には話の通じない人がいることは僕も知っている。
あポロロッカさん競馬で大金を当てた時には、どこからかそれを聞きつけた人が宿にきて、「寄付をしろ寄付をしろと」人の迷惑を考えずに騒ぐ人が大勢きた。
だから僕は「生絞りピーチ」を地面に置いて、腰に下げた魔武器「隠者」を引き抜いた。
「戦えるのか?」
「少しだけなら………」
「それなら行ってこい。もしヤバそうだったら俺が助けに入ってやる」
嬉しそうな顔をしながら送り出してくれたので安心した。
クワバラさんがお医者さんから入院を命じられたことは知っているから、いくらSランク冒険者とはいえ、戦ってもらうわけにはいかない。
僕がやるしかない。
昨日のクワバラさんとポロロッカさんみたいな迫力ある戦いが出来るとは思わないけど、それでも僕だって毎日のように剣術の道場に通って稽古をしているんだ。こういう時にやれないのならその意味がない。
息を思いきり吸い込んで心を戦いに切り替える。そして男たちが作る輪の中へ入った。
僕を見つけて驚いているムロヤスさんに「逃げてください」と言ってその背中を軽く押す。だけどムロヤスさんはフライパンを構えたまま「こいつら私の宿を壊すつもりだ」と言って中々逃げようとしない。
それでも僕が「ここは僕が何とかしますから大丈夫です」と言うと、少し迷った後でようやくクワバラさんがいる方に逃げてくれた。
笑ったり怒鳴ったりする男たちの標的は完全に僕になって色々と言ってくる。その内容は僕が想像していた通りに「ポロロッカを出せ」という事だ。
僕は魔武器「隠者」を持ったまま何も答えない。初めから要求に従うつもりは無いのだから会話にはならないし、戦う時に口数が少なくなるのはきっとポロロッカさんの影響だ。
僕が魔力を込めると「隠者」から一気に植物が噴き出した。これがこの魔武器の持っている特別な力なのだ。僕が持っている木刀が魔武器だと気が付いた様子の男たちが一斉に騒ぎ出した。
恐怖を感じない。
クワバラさんに比べれば男たちの持つ迫力など無いも同然だった。僕とクワバラさんが戦えば手も足も出せずに負けてしまうだろう。だけどそれと同じくらいの差が、僕と男たちの間にはあるだろう。
男達の体は僕よりも大きくてガッチリとしているけど、それにしても筋力と魔力には出せる力に大きな差がある。
僕は何も言わず、何も聞かず、植物に覆われた「隠者」を横に薙ぎ払った。
魔力を帯びた植物は鞭のように撓り、男たちの顔を打ち付けた。風を切る音と、重さと、打ち付けた時の手応えで十分な威力があることは分かった。
一斉に地面に吹き飛んでいった男達。その中のひとりのふところからナイフが落ちた。きっとこれでポロロッカさんのことを襲うつもりだったのだろう。
それなら手加減は無用だ。
僕は罵りながら立ち上がろうとしている男に向けて「隠者」を振り下ろした。
まるで鉄の鞭。
強烈な音、そして叫び声。服が破け、その下にある皮膚を切り裂く。さっきよりも魔力を多く込めたから威力も上がっているはずだ。
戦いの場で初めて使った「隠者」だけど、不安はない。この魔武器は僕が思った通りに動いてくれる。
あの時見たムロヤスさんの口の端からは血が流れていた。
この男たちにやられたのだと思う。この男たちの狙いはポロロッカさんと僕のはずだ。それなのに無関係なムロヤスさんを傷つけたことが許せない。
叩く。
叩く。
叩く。
男達から意識がなくなるまで叩き続けた。
僕は驚くほど冷静だった。
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