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44話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 鉄板から白い煙が上がる。


 幸福な煙だ。鉄板でお肉が焼けるジュージューと言う音も豪快で迫力がある。


「ここのステーキは王都で一番美味いぞ」


 ニヤリと笑いながら言ったのは冒険者としての最高ランクであるSランクのクワバラさん。


「食え食え、ステーキは時間との勝負だ。もたもたしてたらあっという間にマズくなっちまう」


 言われるがままにナイフで切って口に入れる。分厚くて噛みしめるたびに肉汁が口の中で溢れた。お肉を食べているという実感が感じられる。固いわけじゃなくて繊維はすぐにほぐれていく。


 美味しい。


「どうだ美味いだろ?」


 クワバラさんはナイフを使わずに歯で噛み切って食べている。巨体で、スキンヘッドで、髭なので見た目は物語に出て来る山賊の親分みたいに見える。


「すごく美味しいです」


「そりゃあ良かった!」


 肉を噛みちぎりながら笑った。


 僕もすぐに続きを食べ始める。実際本当に美味しいのだけど、正直に言えば少し食べにくい。クワバラさんと僕の関係性がよく分からないから。


 昨日のクワバラさんとポロロッカさんとの戦い?は僕の記憶の中に鮮烈に残っている。あれほど迫力のある戦いを見たのは初めてで、同じ人間がやっているとは思えないくらいだった。


 ポロロッカさんと戦ったわけだから敵、なのかもしれないけど。あれは別に憎しみあって戦ったというわけじゃなかった。かといって友達と言うわけでもないし。


 ケンカ友達の知り合い、みたいな感じかな………。


 それにしてもクワバラさんはすごい食欲だ。僕も結構食べる方だけど、僕よりも分厚い肉をもうすでに2枚食べ終わって3枚目だ。お店の人が大急ぎで運んでくるのが分かる。


 松葉づえをつきながらお店に来た時は「あまり食欲がない」と言っていたからステーキを食べるという事だけでも驚いた。これで食欲がないのなら、食欲がある時には一体どれくらい食べるのだろう。


 やはりSランク冒険者というのは普通の人間とは違うのだな、と思う。


 僕がなぜクワバラさんと一緒に食事をすることになったかと言えば、冒険者ギルドから呼び出しを受けて、この前の騒動の賠償金を支払うようにと迫られた。


 僕が困っていたら、そこにクワバラさんが割って入ってきて、1ゴールドも払う必要はないと言い張って、冒険者ギルドと揉めに揉めた。


 そして結局はクワバラさんの言い分がほとんど通って、壊したテーブルと椅子の代金3万ゴールドを払えば良いという事になって解決した。ウサギ耳のお姉さんはかなり悔しそうな顔をしていたけど。


 その後、黙って見ているだけだった僕に、クワバラさんが「腹が減ったから肉でも食いに行くぞ」となぜか誘ってくれたのだ。


 誘ってくれた、といっても事情を知らない人から見れば攫っていった、に見えるかもしれない。


 クワバラさんにしてみれば肩を組んでいただけだったと思うけど、僕自身は担がれているように感じた。それくらいにクワバラさんというのは迫力のある人なのだ。



「あの、大丈夫なんですか?」


 グビグビとエールを流し込むクワバラさんに聞く。


「何がだよ?」


「まだゆっくり休んでないといけないんじゃないですか?」


「休む?俺に黙って寝てろなんて無理な話なんだよ。確かに医者の野郎はあれこれ言ってきたけど関係ねえよ。俺は俺のやりたいようにしかやらねぇ」


「なるほど………」


 さすがはSランク冒険者………。


 なんだかこの感じはポロロッカさんの事を思い出す。ポロロッカさんも他の人に何を言われても自分のやりたいことをやる人だ。


 強い意志を持っているから強くなれるのだろうか。その点で言えばぼくはあまり向いていない。僕はどちらかと言えば自分の意見よりも周りを見てしまう方だ。


「余裕よ、余裕」


 ニッコリ笑ってから見せつけるようにまた流し込む。昨日、入院したはずなのにかなり元気そうだ。


 僕が昨日二人を病院に運んだときにお医者さんから聞いたのは、ポロロッカさんよりもクワバラさんのほうが重傷のはずだった。


 僕の常識では、病人はお酒を飲んではいけないはずだ。ここに来るまでの間だってずっと松葉づえを突いていたのだから。


「肉を喰う時にエールが無いなんて、頭がおかしくなるだろ。それだったらどっちもあった方が健康ってもんだ」


 豪快に笑った。


「それで、あいつはどうしてんだ?」


 あいつ、というのが誰の事なのかは分かり切っているので、聞き返すことはしなかった。


 クワバラさんと言う人はせっかちな人だと思うから、ハキハキ答えないと怒鳴りつけられるかもしれない。こういう人と話をするときには、こっちもできるだけ頭を働かせて無駄に聞き返したりしない方が良い。


「ポロロッカさんは完全にダウンしています。お医者さんの話では7日くらいは動けないそうです」


 朝目が覚めてから一歩もベッドから降りていないし、言葉を出すのも辛そうで、なにも食べることは出来なくて、水を少しづつ飲んでいるような状況だ。


「7日!?何を大げさなこと言ってんだよ、そんなにかかるわけないだろ」


 そう言われてもお医者さんにそう言われたのだからしょうがない。魔力欠乏症は僕も経験しているけど、あれはこの世の地獄みたいに苦しいものなのだ。


「あいつはなかなか骨のあるやつだ。あんな奴は久しぶりに見たね」


 そう言ってまたステーキを歯で引きち切る。


「昨日はすごい戦いでしたからね。ポロロッカさんが殴るたびに大木が倒れるようなものすごい音がしてましたよ。それを全部受け切ったクワバラさんも凄すぎましたよ。男らしかったです」


 僕にはとても真似できない。


「そうだろ?お前良く分かってるじゃねぇか、俺はすげえんだよ。それなのになんでか知らねえけど誰も褒めてくれねぇけどな。なんでだと思う?」


「すご過ぎて褒める言葉が見つからないんですかね?」


「なるほどな、そういう考え方もあるか。確かに俺のすごさは言葉では表せれないかもな。やっぱりお前良く分かってるじゃねぇか、褒めてやるよ」


 満足そうに笑った。


「昨日は俺も驚いたよ。殴り方がいかにも素人で隙はでけぇけど、なかなかの威力だったな。当て感もいいしな。けど俺の身体強化を使えば何発でも耐えれると思ってたら、いきなり足に力が入らなくなって、自分から地面に近づいて行ってるのが見えてんだ、見えてんだけど何もできなかった。体が動かなくなったんだよ。あれにはさすがに驚いたね」


 顔を赤くして勢い良く喋る。たぶんこの人は戦うことが好きなんだろうなと思う。まるで遊びに夢中になっている子供のような顔をしているから。


「そうだ、良いことを思いついたぞ!」


 クワバラさんは勢いよくエールのジョッキをテーブルに置いた。


「今から俺があいつの見舞いに行ってやるよ」


 え?


「俺とあいつは昨日会ったばかりだけどな、拳で会話して分かり合ったんだよ。もう親友みたいなもんだ」


 そうだろうか?ポロロッカさんは喋るのが辛そうなのに、それでもクワバラさんへの文句を言っていた。「こうなったのは全部あいつのせいだ」とか「くたばれ」とか「でかマッシュルーム」とか、とにかくいっぱいいっぱい悪口を言っていた。


「そうすりゃあきっとあいつも喜ぶだろうよ。寝てるだけってのはとんでもなく退屈なもんだからな。もしかしたらそのおかげで早く治るかもしれねぇぞ。な?いいアイディアだろ?」


 巨体でスキンヘッドで髭でのSランク冒険者は豪快に笑った。


 僕にはそのアイディアが良いものだとは思えなかった。僕が知るポロロッカさんはきっと、クワバラさんが部屋に来るのを喜ばないだろう。


 だけど言えなかった。


 だってSランク冒険者と言うのはただ近くにいるだけで圧倒される迫力があって、なかなか反対意見を言いずらい。


 しかも冒険者ギルドに1,100万ゴールドを請求されて困っている所を助けてくれて、それをほとんど無しにしてくれた。それにここの1枚1万2,000ゴールドもするステーキ代も、多分奢ってくれるつもりだろう。


 それにクワバラさんは善意でお見舞いに来てくれると言っているのだから、僕にはこれを断ることなんて出来っこない。


 食事を終えた僕たちは、ポロロッカさんが死にそうになりながら寝ている宿へと向かうことになった。


 ポロロッカさん、ごめんなさい。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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