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36話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


「これは………」


 床にしゃがみこみ、ドクロ手榴弾の魔道具から溢れ出た赤い液体に指を付け舐めた長身のイカした老婆マリー。


「大丈夫ですか?」


 心配そうにいうスイリンの気持ちは私も分かる。そんなものを口に入れるなんてとんでもない、きっと毒だからやめておいた方が良いという私たちの言葉を全く聞かなかった。


「これはワインだよ、赤ワイン」


 ニヤリと笑っていう。さすがは元探索者で若い時に十分な金を稼いだ、というだけのことはあってかなり肝が据わっている。


「そうなんですか?」


「しかもかなり上質なワインだね。どうだい、ちょっと味見してみたら」


 そう言いながらさらに指で舐めた。


「僕はお酒が得意じゃないんです。ポロロッカさんもけど」


「なんだそうなのかい、私なんかあんた達よりももっと小さい時から親のワインを黙って飲んでたもんだけどね。最近の子は大人しいね。まあ酒で体を壊した奴らを私は何人も見てきたから、むしろそっちの方が良いかもしれないね」


 立ち上がって言う。


「それにしても一体これはどういう事だろうね。私の知る限りこの魔道具に魔力を込めると冷たい水が出るはずなんだ。それなのにどうして赤ワインが出たのか、これは不思議だよ」


 そう言われても私にわかるはずもない。私の田舎にも魔道具はあったが、それはライターくらいの大きさの火しかつけられない魔道具だった。その程度しか魔道具に触れてこなかった私に聞かれても答えられるはずがない。


「赤ワインは神様の血とも言われているんだ。ポロロッカ、もしかしたらあんたは神様かなんかかい?」


 笑った。


 もしそうだったら死んだときに天使から「このままだとお前は地獄行きだけどどうする?」なんて言われて異世界に来ることにならなかったはずだ。まあ今の所この世界に来てよかったとは思っているけど。


「冗談だよ冗談。さすがに神様がこんな所にいるだなんて思うわけないよ」


 マリーはからっとした声で笑った。悪意を全く感じない明るい笑い声なので、聞いていて心地よい。


「いやー、それにしてもおかしいねあんた達。最初に見た時からおかしな雰囲気は感じていたけど、時間が経つごとにますますおかしいと思えてきたよ」


 更に笑う。


「どうする?その魔道具は持って行くかい?」


 散々笑った後で聞いてきた。


 そう言われても答えに困る。最初は水が出る魔道具なら欲しいと思っていた。この世界にいて気が付いた事なのだけど、日本と比べて水は貴重だ。私が生まれた田舎では汚い水でも平然と使っていたのでかなり驚いた。


 しかし水の代わりにワインが出て来る魔道具が欲しいかと言われても、私は酒が飲めないので貰っても使い道がないと答える。どうやら私が望めばくれそうな感じなので、その気持ちはありがたいが。


「自分で飲まなくたって売ればいいんだよ。あれくらいの質のワインならいい値段で売れるだろうさ」


 なるほど、そういう考えもあるか。しかしこの世界でものを売り買いするためには許可証が必要なはずだ。今の私には10億ゴールド以上の金があるので、許可証を取ってまでそんな商売をしなくてもいいのだ。


「私だって飲みたいよ。床にこぼれた物じゃなくてちゃんとワイングラスに入ったものをさ」


 私には分からないが、いかにも建物から服装から髪型から洒落ているマリーがそういうのだから、相当に良いワインだったのだろう。


 そうだ、それならプレゼントとして知り合いにワインを送るというのはどうだろう。


 瓶とコルクさえあれば、原価はタダだ。しかも売っているワインではないから、他のものと比べてマウントを取られる心配もないし、ワインをプレゼントするなんて格好いいじゃないか。


 今まで世話になった人は結構いるから、暇なときにやって見たら面白いんじゃないだろうか。飲んでもらった後にこれは魔道具で作り出したワインなんだと教えた時の驚く顔が見てみたい。


 マリーにも後でワインを沢山持ってくることを約束して、魔道具を譲ってもらうことにした。


 魔道具と言えばかなりの値段がするものだし、今持っているものはお気に入りで、気に入った人間にしか渡したくないと言っていたのに、あっさり貰ってしまった。


 マリーという人は見た目だけで言えば老人だが、その話し方も立ち姿も活力に満ちていて若者のようだ。きっとこの人は男女とも友達が多い人なのだろうな、と思う。



 しかしドクロ手榴弾にしか見えない魔道具、この見た目だけは何とかならないものか。これのせいでワインというよりも血が溢れ出してきたように見えてしまうのだ。


 それはともかくとして私はついに魔道具を手に入れた。これ一つだけでも十分なくらいに満足。


 ワインを飲んだわけでもないのに、なんだか楽しい気分だ。





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