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34話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 美味い。


 リンゴの爽やかな酸味とクリームの滑らかなコク、そしてタルト生地からはバターの香り。


 私とスイリンは「ジャニスの家」という魔道具や魔武器を売る店にやって来たのだが、店主であるマリーがお茶請けとして出してくれたリンゴのタルトがめちゃくちゃ美味しい。


 部屋中に鎮座する大仏も、濃密なお香の香りも、全てが気にならなくなるくらいだ。残念なのがもうあと一口分しか残っていないという事、これだけで胃の中を満たしたい気持ちだ。


「すごく美味しいタルトですね、僕こんなに美味しいの始めた食べましたよ。どこのお店で売っているんですか?」


「そんなに気に入ったのかい?これは私の手作りだよ」 


 イケメン老婆であるマリーが高らかに笑いながら言った。


「ええぇ!?手作りですか?これだけ美味しいのを自分で作れるものなんですね」


 スイリンが驚くのも分かる。お店じゃないのにこれだけの味を出せるというその料理の腕はすごい。と同時に残念なのは食べたくても買うことが出来ないという事だ。


「これは私の友達に作り方を教わって、その通りに作っただけなんだ。だからその友達がオーナーをやっている店に行けば私のより、もっと美味しいのを食べることが出来るよ」


「ちなみにそのお店の場所って………」


「それなら地図をかいてあげるよ」


 良いことを聞いた。マリーは性格が明かるくてさっぱりしていて心地の良い人だ。きっと友達もたくさんいるのだろう。なんだか憧れる。私にはなれそうもない。


 地図を描いてもらったことだし、さっそく行ってみよう。


「ちょっと、どこに行くんだい」


 立ち上がったところでマリーに言われた。


「あんたたちは魔武器が欲しくて私の所に来たんだろ?それとも最初からタルトが目当てだったのかい?」


 そうか、そうだった。リンゴのタルトがあまりにも美味しいものだから、すっかり忘れてしまっていた。私はすぐに腰を下ろした。恥ずかしい。スイリンの視線を感じて私の顔はきっと赤くなっているだろう。


「ずいぶんと面白い男だね、あんたは。さすがはカトレアが紹介してくるだけのことはあるよ」


「僕たちが来ることを知っていたんですね?」


「もちろん知っているさ。私は基本的に新しい客は信用できる客からの紹介なんだ。だから大げさな看板も掲げてないよ、誰彼構わず入ってこられたら困るからね」


 そういえば店名の看板はかなり小さかった。お洒落でそうしているのかと思いきや、一見さんお断りだったらしい。


「そうなんですね。カトレアさんはそんなこと一言も言っていませんでした。普通のお店を紹介してくれたのかと思っていました」


「あの子は少しマイペースな所があるからね」


「確かにそういう感じはありますね。今日も本当は一緒に来てくれるはずだったのに、猫ちゃんが離れたくないって言っているから行けなくなった言っていました」


「全くあの子らしいじゃないか。剣士としての才能は間違いなくあるし、悪い子じゃないんだけどね。猫を飼い始めたのは良いことだと思うよ。あの子の成長のためにはね」


 マリーは笑った。


「私が昔探索者をしていたことはさっき話しただろ?その時に一生暮らして行けるだけの金は十分に稼いだから、客を選ばせてもらっているのさ」


 それだとなかなか売れないんじゃないだろうか。知り合いの知り合いで尚且つ気に入った相手が魔武器を買えるほどの金持ちである可能性はどんなものだろう。


「私は金なんか受け取らないよ」


「そうなんですか!?」


「いま私の手元に残っているのは本当に気に入っている品だけ。だからこそ気に入った相手にあげたいのさ」


「なるほど」


 つまり我々はいま、魔武器を渡すに足る人物かどうか観察されているという事だ。


 これは困った。


 私は今まで困った時には金で片を付けてきた。それはこの世界に来てからも同じだ。それなのに金が必要ない人間が相手では、どうしたらいいのか分からない。


 さっき「書道家ならなんか書いてくれ」と言われた時に、「一文字一億だ」なんてことを言ってしまったけど、こんなことなら言い方を考えれば良かった。


 私はタダ働きという言葉が何よりも嫌いなので、それをさせないために先手を打ったつもりだったが、それが自分に突き刺さって来るとは思わなかった。


「心配しなくても大丈夫」


 マリーは笑った。


「あんたたちは合格さ」


 そうなの?


「私が見えているのは人間性と魔法使いとしての実力だよ。その両方が無くちゃいけない。私は悪い奴は大嫌いだからそんな奴に私の大切な魔武器は死んでも渡したくないし、心が弱い魔法使いは魔武器に取り込まれるからね」


 取り込まれる………。


「なんか怖いですね、僕は大丈夫かな」


「大丈夫だよ、あんたたち二人はいい意味での頑固さを持っていそうだからね」


 頑固さか、それなら自信がある。誰に何を言われようとも自分のやりたいことだけをやって生きて、そして死んだ。その頑固さには自信がある。


「悪魔が何かささやいて来ても、踏みつぶしてやるくらいの気持ちでいればいいのさ」


 魔武器には悪魔の魂が宿っているという。マリーが言っているのはその事だと思う。魔武器は強力な力をもたらすが、その分だけやはりリスクはある、か………。


「がんばります」


 スイリンはきっと大丈夫だ。不安そうな顔をに向かって言う。ちゃんと実績がある。スイリンは毎日あの漢方薬を食べて病気を治した精神力の持ち主だ。悪魔の魂なんかにはきっと負けない。


「ありがとうございます」


 少しは不安が解消されたらしく笑顔が見えた。


「なにそんなに怖がることは無いんだよ。危なそうだったら使うのを止めればいいだけなんだからね」


「なるほど、確かにそうですね。使ってみて危なかったら使わなきゃいいんですもんね」


「さあそれじゃあ、私のお気に入りを受け取っておくれ。ただし早死にしない事、これが条件さ。そんなことになればまるで私が殺したみたいになって寝ざめが悪いことこの上ないからね。どうだい、守れるかい?」


 もちろん守れる。ほとんど強制的だったとはいえもう一度命を貰ったのだ。早く死のうなどとは思うはずがない。


 そんなことよりもマリーが気になった。


 さっきまで宝塚の男役のように凛としていたマリーの笑顔に抑えられない哀しみが見て取れたことが、あまりにも意外だった。


 きっと彼女は誰か親しい人を早くに失くしたに違いない。


 そう思った。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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