33話 ~魔道具屋~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
カトレアに書いてもらった地図を頼りにやって来たのは大通りの中で大きな建物に挟まれたこじんまりとした一軒家だった。
小さくても存在感はかなりあって、壁も屋根も黒一色で、そこに白い波の絵が大きく描かれいるデザイン性に富んだ建物。どこにでもある建物とは違う。ここが目的地で間違いないだろう。
「ここ見てください」
スイリンがそう言って指し示したドアには、白い文字で「ジャニスの家」と小さく書かれていた。それはカトレアに教えて貰った魔武器と魔道具を売る店の名前だった。
ドキドキする。
いよいよ魔武器が手に入る。物語の中では光輝く魔武器を手に入れた英雄はドラゴンと戦い、海を割り、山を切り裂いた。
そんなものに憧れるほど子供ではないといいたいところだが、いま私の心は初めてゲーム機を買ってもらったあの日のように高鳴っていた。やはり男というのはロマンを一生追い続ける生き物なのだ。
精密なワシの彫刻が施されたドアノッカーを二度打ち鳴らした。するとしばらくしてから「入りな」という少ししゃがれた声が聞こえたので、私はドアノブを押し開いた。
そして閉じた。
「どうしました!?」
私の背中に顔をぶつけたらしいスイリンの声が聞こえる。
違和感を感じた。扉を開けた瞬間にお香のにおいがぶわっと来て、真正面にいる巨大な大仏と目が合った。
私は前世の頃から人形があまり好きじゃない。それは多分私の子供の頃の寝床のタンスの上に西洋人形が飾られていたせいだと思う。暗闇の中で人形の青い目と目が合うと、恐ろしかった。
しかも大仏。
私は前世でインチキ宗教の教祖をしていた。今まで意識した事は無かったが、そのことに対して内心で罪の意識を感じていたのだろうか。目が合った一瞬で仏様から一喝された気がした。
「なにしてんだい、さっさと入って来な」
扉の向こうからしゃがれた声が聞こえる。普通なら只の老人の声にしか思えないと思うが、今は何やら恐ろしいもののように聞こえる。
「ポロロッカさん?」
今日は止めとこうかな、そう思った時目の前の扉が一気に開いて、サイドを大幅に刈り上げた長身で金髪の老婆が立っていた。
「なにをビビってるんだよ、魔武器が欲しくて来たんだろ?さっさと入んな」
言い終わる前から手を取られて中に引きずり込まれていく。
すごい笑顔だった。悪意は感じないので振りほどこうという気にはならない、たぶんこの人はただせっかちな人なのだろう。
中に入ればそこは大仏だらけだった。正面には一番大きな大仏がいるのだが、その隣には小さめの大仏がいて、その隣にも大仏がいた。床の木材は黒光りしているしお香のにおいが濃い。外側のおしゃれな雰囲気からは想像できない、あまりにも独特過ぎる室内だった。
「私の家へようこそ、歓迎するよ若き魔法使い」
魔法使いだと看破されている、そう思った瞬間に心臓が高鳴った。今までは出会った瞬間に相手が魔法使いであるかどうか判別することは出来ていたが、目の前にいるイケメンの老婆がどちらなのかが分からない。
恐らくはこのお香のせいだ。
この独特な纏わりつくようなにおいのせいで、魔法使い独特の雰囲気を感じ取ることが出来なくなっているのだ。
「このにおいが気になるかい?」
気になる。
「これは数種類の木や草を調合した特別製のお香なんだ。この香りに包まれていると私はとても落ち着くんだけど、他の人はそうは思わないようだね」
植物の柄の描かれた白のゆったりした服に身を包んだ老婆がニヤリと口の端を上げる。
わかってるならお香なんか焚くなよ、と言いたい所だけどこっちはお邪魔している立場だから言いにくい。においも気になるがこのお洒落婆さんが魔法使いなのかどうかも気になる。さすがに襲って来る事は無いだろうけど。
「私の名前はマリー、昔は探索者なんかやっていたんだけど、今は歌ったり踊ったり、ストレッチをしたり、料理を作ったり、とにかく好きなことだけをやる生活をしているよ」
探索者とは主にダンジョンを探索する者のことを指す言葉だ。一般人にとっては冒険者だろうが探索者だろうが同じだと思っている人も多いらしいが、本人たちにしてみれば大きく違うらしい。
恐らくは過去に探索者で成功して一生分の資産を稼ぐことが出来たのだろう。建物は一等地にあるし、室内の大仏も金が無ければ手に入らないだろう。服装にしても髪形にしても独特ではあるが、余裕のある雰囲気を感じさせる。
と、観察しながら考えながら自己紹介をする。私の職業だが「書道家」と言っておいた。「奇跡の石売り」だとあまりに胡散臭すぎるから、以前から格好いい呼び名が欲しいと思い考えていたのだ。
例えば「大工」などと言ってしまったら大工仕事が出来なければ認められないだろうが、「書道家」であれば紙に文字がかければいいし、弁護士のように資格もいらないはずだ。
しかもなんか言葉の響きが格好いい。だから最近はこういう場面ではそう名乗ることにしている。言われた方がどう思っているのかは分からないが。
「書道家かい、それだったら何か書いておくれよ」
待っていましたとばかりに、1文字1億ゴールドだと告げる。先に値段を言う事で相手を威圧する、これが肝心だ。
「随分と吹っ掛けるじゃないか」
マリーは大きな口で笑った。
「さすがに一億は出せないね。まあいい、それじゃあちょっと待っていておくれ、今からお茶をいれてくるよ」
年の割にしゃきっと背を伸ばしながら、颯爽と部屋の奥へと歩いて行った。なんだか高貴な歩き方に見えるが若い頃は探索者と言っていたからそんなはずは無いか。
残されてスイリンとふたりだけとなった室内では、濃密なお香の中を私達を取り囲むようにして、何体もの大仏がこちらを見ていた。
「なんかこわいですね………」
強いところを見せたくて「気にすることはない」などと言ってしまったので、リラックスしている演技をした。上手くできているかどうかは分からない。
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