32話 ~馬との約束~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
小鳥が囀る青空の街をスイリンと一緒に歩く。
向かう先は果物屋。しかも普通の果物屋では無くてこの王都でも名の知れた高級果物を扱う店だ。数メートル手前から甘い香りがしてきて、口が果物の口になっていく。
店頭に到着すると、色とりどりの果物の並ぶ中に「生絞りピーチ」という張り紙があった。
期間限定・数量限定で2000Gと書いてある。並みの職人が一日働いてもらう給料が1万ゴールドだというから、2000ゴールドという金額はけっこうだ。しかしそれが逆に飲んでみたいという気にさせる。
スイリンの分と合わせて2つ注文した。
前世の時から果物はそれほど好んで食べなかったが、その中でも桃は好きな果物だ。高級果物店の2000Gのジュースはさぞかし美味しいに違いない。
感じのいい若い女性が笑顔で注文を受けてくれて、しばらくすると大きめの半透明のグラスにたっぷりと注がれた「生絞りピーチ」が運ばれてきた。
美味い。
一口飲んだだけで爽やかな甘みと酸味と溢れ出すほどの香りが口の中を支配した。甘みと酸味が丁度いいバランスになっていて、時折小さな桃の果肉の食感も感じる。とろみのある液体がするすると喉を流れていくのが心地良い。
「すっごく美味しいですね」
スイリンが目を丸くして驚いているのも納得のクォリティーだ。これなら皮を剥いたり種を気にしなくてもいいので、気軽に毎日果物をとることが出来そうだ。しかしいかんせん今の宿からはちょっと遠い、これはウーバーイーツみたいに誰かに届けてもらうのがいいか。
「ご注文頂いていたお客様ですね。どうぞ奥の応接室の方へお越しください」
生絞りピーチを楽しんでいたら店の奥から疲れた顔をした塩顔のオジサンが出てきて、穏やかな口調で言った。
果物に挟まれた通路を通ってやってきたのは少し狭い応接室。椅子に腰かけると生絞りピーチをの感想を聞かれたので、素直においしかったと伝えると、嬉しそうな顔をしながら自信作だと言った。
塩顔オジサンはそのあと、準備が整ったので注文の品は今日にでも商品を厩舎に送り届けることができます、と言った。
ようやくだ、ようやく約束を果たすことが出来る。
この店に何しに来たかというと、以前競馬場で私は出走している馬たちとパドックで約束をしたのだ。
その約束とは人気馬に「次のレースでゆっくり走ってくれたら美味しいリンゴをあげるよ」というもの。普通なら馬にそんな言葉を呟いたところで意味はないのだが、私は違う。
私の魔法「ネゴシエーション」は言葉と文字に力を与えることが出来る魔法。そしてそれは馬にも当てはまり、私は大穴馬券を的中させて大金を手に入れた。
本当はもっと早く果物を送るつもりだったのだけど、厩舎に問い合わせたところ馬たちのために果物を送ってもらえるのはありがたいが、受け取ることは出来ないという。
それならしょうがないと諦めようとしたところで、果物屋さんを通して送ってもらえるのならありがたく頂きます、ということを早口で言われた。
要するに個人が持って行った果物だと、何を入れられているか分からないから無理だが、お店が持って来たのであれば信用できるのでぜひ送ってきてくれ、という話だった。
本当は馬たちに感謝の言葉を伝えながら食べさせてあげるつもりだったのだが、いわれてみれば納得。というわけで私は王都でも名の知れた高級果物屋に注文を出していたのだ。
なんとなくわかっていたが、すぐには無理だと言われた。なにせ1件につき100Kg、合計12か所の厩舎に送ろうと考えていたので、それだけ大量の果物はすぐには用意できない。準備が出来るまでしばらく待って欲しいと言われ、昨日の夕方にようやく連絡が来た。
贈るものとしてはほとんどがリンゴで、オレンジやカボチャなども入っているという。馬が何を喜ぶのかは厩舎と連絡を取り合って来てもらった。
前金を差し引いた金額を塩顔オジサンに払ってから、生絞りピーチを飲み干して店を出る。
あのレースの日から思っていたよりも日数はかかったが、これで馬たちとの約束を果たすことが出来た。頭の片隅にずっと引っ掛かっていたことが解決してスッキリとした気分だ。
「馬たちも喜んでくれますね」
あれだけ美味しい生絞りピーチを出すようなお店が選んだ果物なのだから絶対に喜んでくれると思う。
「後で厩舎にも行ってみたいです。馬たちがリンゴを食べてるところを見てみたいので」
馬が好きなスイリンも嬉しそうだ。
さて次は、カトレアに紹介してもらった魔武器を売る店へと向かおう。いよいよ私は自分専用の武器を手に入れるのだ。
楽しみでしょうがない。
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