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31話

 


「この子は猫風邪を引いてるね」


 お医者さんは言った。


「体に蚤もたくさんついてるし。それと目も結膜炎も起こしているから、このままだと目が見えなくなるかもしれないな」


 子猫を抱いたまま冒険者ギルドに行って、そこにいた冒険者に動物病院まで案内してもらった僕たちは、迷うことなくこの場所までたどり着くことが出来た。


 やっぱりポロロッカの言う通りだった。困った時には冒険者ギルドにいけばなんとかなる。そのためにはやっぱりお金だ。すぐに動いてもらえるような金額を持っていなくちゃ駄目なんだ。


「目!?」


 目が見えなくなるという言葉にカトレアさんはすごくびっくりして、診察室の椅子から跳び上がった。


「治すことは出来るんですよね?」


 頭の上はツルツルで横からだけ白髪の生えている先生に聞く。


 目が見えなくなるという言葉が強かったのでカトレアさんは驚いているけど、先生は「かもしれない」といっただけだ。多分まだそこまで深刻じゃ無いはず。ここは落ち着いて話を聞いた方が良い。


「一番問題なのは目だけど治療すればまだどうにかると思うよ。目薬を毎日投与してカラーっていう目を掻かないようにするやつを付けてあげて、それで目の周りを吹いてあげればよくなる可能性はあるよ。ただ………」


「ただ、なんですか?」


「この目薬が高いんだよね。小さいビンにちょっとだけしか入ってないのに1本1万ゴールドもするんだよ。ただ効果はあるからお金に余裕があるのなら使った方が良いけど、無くてもまあ大丈夫かもしれないね」


「買います!何本でも買います」


 お金なら沢山持っているから大丈夫だ。


「それならよかった。あとは蚤取りの薬も出すよ、それでしばらく様子を見てもらって、症状が変わらないようならまた来てちょうだい」


「わかりました」


 カトレアさんの腕の中では、暴れすぎて疲れたのか始めてくる病院で猫を被っているのか、すっかり大人しくなっている子猫がいる。


 先生に、僕達はふたりとも今まで猫を買ったことが無いので育てることが出来ないんじゃないかと不安だと相談した。


 そしたらこの猫はそこまで重症ではないから、目を清潔にして、目薬を投与して、きちんとご飯をあげれば育てるのはそこまで難しくないと教えてくれた。


「もしどうしても育てることが出来ないのなら、知り合いで誰か引き取ってもらえる人を探した方が良いよ。健康な子猫だったら貰い手は結構あるからね」


 そうか、誰か貰ってくれる人を探せばいいのか。そのほうが誰か拾ってくれる人を待つよりもいい。でも、そしたらカトレアさんは猫とはもう会えなくなってしまう。


 先生は余裕があれば猫用のサークルなどもそろえた方が良いと言って、売っているお店の名前まで紙に書いて教えてくれた。


 僕達はお礼を言って診察室を出た。


「どうしますか?誰か飼ってくれる人を探すのが良いんじゃないかって先生は言ってましたけど」


「うん………」


 カトレアさんは悩んでいるようだ。腕の中では黒い子猫が大人しくしている。看護婦さんに丸洗いされたときに結構暴れていたから疲れて眠くなっているのかもしれない。


「僕はいま宿を借りてそこに住んでいるので飼うことは出来ないんです。だけど買ってくれる人を探すためのお手伝いなら出来ますよ」


「私が」


「え?!カトレアさんが面倒を見るんですか?」


「うん」


 意外だった。


 最初に見た時のカトレアさんは建物のかげから子猫を見て、私じゃない人に飼われた方が幸せになれるからよそに行きなさい、と願っている感じだったから。


「育て方とかは大丈夫そうですか?」


 先生はそれほど難しくないと言っていたけど、カトレアさんには猫を育てたことは無いはずだ。


「聞く」


 ああそうか、知っている人に聞けばいいんだ。この病院に来れたのも知っている人に教えた貰ったからで、同じように誰かに教えて貰えばいいんだ。


「ありがとう」


 すっかりカトレアさんの腕の中が定位置みたいになっている子猫と一緒に頭を下げた。


「どうしたんですか?」


「スイリンのおかげ」


「僕は別に何もしてないですけど」


「スイリンのおかげで落ち着いて考えることが出来るようになった。病院に連れていって、それで、どうしたらいいのかを考える、それが一番いい方法だった。私ひとりだったらきっと、この子を救うことが出来なかった」


 僕自身は本当に何もしてないと思うけど、そう言って貰えるのは嬉しいし恥ずかしい。


 カトレアさんと言えば言葉数が少ないでおなじみだけど、さっきの言葉は今まで一緒にいた中で一番長い言葉だった。きっとカトレアの中の感情が溢れているのだと思った。


「それじゃあカトレアさんのお家で飼うんですね?」


「うん」


 しっかりと頷くカトレアさんの意志は固そうだ。僕なんかが言うのは違うけど、それでもこれならきっと大丈夫だと思った。


「それじゃあ猫ちゃんのためのゲージを買いに行きましょうか」


「うん」


 僕とカトレアさんと子猫は、病院の先生に書いてもらったメモを頼りにペットショップへと向かう。


「その子の名前は何にしましょか?」


 そんなことを話しながら子猫に負担をかけないようにゆっくり歩いて行く。


「ボロンゴ?」


「なるほど………」


「ゲレゲレ?」


「ふむふむ………」


「プックル?」


「おお………」


「チロル?」


「うんうん………」


 なんだかとても独特なセンスの名前ばかりだな、とは思うけど否定はしないように気を付ける。


 これはカトレアさんと子猫の問題なのだから、ふたりが良いと思う名前が一番だと思うから。けど僕的にはゲレゲレがいいなかぁ………。なんか響きが好きだ。


 話しながら歩いているうちに、カトレアさんとの距離が縮まっているような気がした。


 嬉しかった。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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