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28話 ~賄賂~


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 



 朝露に濡れる道場にはどこか神秘的な匂いがしている。


 大勢の門下生と共にポロロッカ、スイリンは汗を流している。始めは見学だけだった二人が今はもうすっかりと、この道場の一員となっている。


 掃除をして礼をして帰るかと思いきやぞろぞろとスイリンの元に集まって来る。


「シーディーさんどうぞー、フォルダーさんどうぞー、ローパネさんどうぞー」


 そう言って手渡しているのはお洒落な包装紙に包まれたクッキー。門下生たちは嬉しそうな顔をしながら「ありがとうな」「いつも悪いな」などと言って受け取っている。


 知り合いのお金持ちが、会うたびにクッキーを沢山お土産にくれるのだけど、ふたりでは食べきれずに困っているので、みんなに分けている。


 そういう嘘。


 これは師範や道場生たちと仲良くなるためにやっている。


 甘いものが苦手な男たちまで嬉しそうな顔をしているのは、これを持って帰ると奥さんや子供や彼女がとても喜んでくれるからだ。


 それもそのはず、これは王都で一番人気のパティシエ店「タナヴァーネ」のクッキーなので美味しいに決まっているのだ。


 これはかつてスイリンがいた奴隷商コーストラインで、お茶請けとして出してくれるクッキー。これがあまりに美味しいので、店主のウォドラーに頼んで多めに注文してもらっているのだ。


 普通ならばならば並ばなければ買えないのだが、お店が人気になる前からの常連客という事で特別に配達までしてもらえるほどの仲らしいのだ。


 道場に通っているうちに、門下生という剣術ガチ勢ともっと仲良くなりたいと思うようになった。この世界では自衛のための力はあればあるほどいい。


 仲良くなるためにはプレゼント作戦だ。私は元はインチキ宗教の教祖だったのでウソを考えるのは得意なのだ。


 ただ、最初から思い通りいったわけでは無くて、今まで道場でお菓子を配る人なんかいなかったので、最初は眉をひそめていた者もいた。


 クッキーの美味しさがその壁をぶち壊す。


「タナヴァーネ」のクッキーの魔力に一人、また一人とひれ伏していって、いまでは毎週月曜日の稽古の終わりのクッキーお裾分けイベントの際には、貰わずに帰る人は誰もいなくなっていた。


 もしかしたら薄々は私の嘘に気付いているのかもしれない。それでもいい。とにかく貰ってくれて、仲良くなることが大事なのだ。


 そのおかげもあって、通い始めてほんの数か月だというのにあっという間に道場生(剣術ガチ勢)たちと仲良くなることができて、「困ったことがあったら力を貸すから何でも言ってくれよ」なんて言われるくらいにまでなった。


 その言葉を待っていたのだ。危険が溢れかえるこの世界において剣術ガチ勢たちは強力な味方だ。


 仲良くなったのはただ単にクッキーを配っているから、というだけではなくて、剣術にも真剣に取り組んでいるからだと思う。


 特にスイリンは剣術ガチ勢たちでさえも目を見張るほど上達していっている。


 こうなってみるとやはり、前に一度人生を経験してることの重要性というのが分かる。世界が変わっても人間と言う存在は同じなので、何をすれば自分にとっていい方向に向かうのかが、大体わかるのだ。


 ただ、剣術には通用しない。


 私は剣術はもちろん格闘技ですら前世では経験しなかったので、これに関しては全く優位性がない。


 むしろスイリンに軽々と大差を付けられている状況だ。パワーやスタミナでは負けない自信があるのだが、センスにおいては完敗だ。丁寧に教えて貰っても動きを再現することが出来ないのだ。


 それは悔しい、悔しいけど悔しがっている姿を見せるのは嫌だ。なので涼しい顔をしながら、どうすればいいのかを考え続けている。


 強くなる


 たとえセンスで劣ろうとも強ければ良い。私が考え槌画の歯剣を捨て、肉弾戦に持ち込むという戦い方だ。


 普通なら剣術ガチ勢たちの剣の間合の中に入り込むことはかなり難しいだろう。


 しかし私には魔法がある。体の中に魔力を充填させる身体強化。これによる私の踏み込みはかなりのものらしく、タイミングさえ合えば懐に入り込むことが出来るようになってきた。


 剣士が一番強いのは剣の間合いにおいてだ。


 その中に入ってしまえば私の間合いとなる。私は相手の足に自分の足を絡めて引き倒し寝技へと持ち込む。


 こうなればもう剣術の習熟度の差は全く無意味なものとなる。剣士は寝技など稽古していないから、どうすればいいのか分からないのだ。しかも私には身体強化による無尽蔵のスタミナがある。


 そしてテレビやユーチューブで見た総合格闘技の浅い知識もある。相手に立たれないようにへばりついて、腕力を駆使して、なんとかスリーパーホールドまで持って行く。浅い知識しか持たない私が知っている寝技は少ない。


 ここは剣術道場なので剣術を教える道場であるのだが、同時に実戦で戦える剣士を育てる道場でもある。だから私が寝技に持ち込んでも文句を言う事はタブー。


 当然のことながら、実戦では剣術以外の戦い方もあるのだから、それに対応できないのは本物の剣士では無い、文句を言う前に己の未熟を恥じろ、という教えだ。なので私の稽古相手は意地でも中に入らせないようにしてくる。そして私は意地でも中に入ろうとする。


 これが私の戦い方。


 そうでなければとてもじゃないが剣術ガチ勢たちには勝てっこないのだからしょうがない。負けるくらいだったらどんなにみっともなくても勝つ方を選ぶのが私なのだ。稽古相手からかなり嫌な顔をされるのがネックだけれども。


 こうして私は剣術道場に通いながら、剣士とは言えない何かになっていた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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