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22話 ~推理~


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 17億6493万8千ゴールドを無事に銀行まで持って行こう!


 競馬で超大穴3連単を見事に的中させた私こと、ポロロッカは不正調査を見事に乗り切った。支払方法がなぜか現金直渡しのみだったため、冒険者を雇い大金を抱えたまま銀行を目指す。


 もう数時間ほどはいる応接室の扉を開けて外に出た。


 疎らな人影。正直言って拍子抜けだ。私が大金を的中させたことを嗅ぎ付けて待ち構えている不届き物が居るかと思っていた。しかし競馬場の広い通路はがらんとしている。


「なんだか静かですね」


「静か」


 私の後ろにはスイリンがいて、その後ろにはカトレアがいる。本当ならば冒険者ギルドの紹介でやって来た護衛のカトレアが一番最初に外に出るべきなのだが、それをしようと言う素振りは毛ほども見せなかった。


 私が言うべきだったのだろう。カトレアが魔法使いとして優れていることは纏う魔力で分かる。あいさつ代わりとばかりに見せてくれた剣技も見事なものだった。それならなおのこと、カトレアが先頭に立つべきだ。


 しかし気付いていて言わなかった。私は前世でインチキ宗教の教祖をしていたような人間ではあるがプライドは人一倍高い。護衛とは言え女子に対して、前を歩いて私を守れ、とは言えなかった。


 スイリンとカトレアはなぜかこの短時間ですっかり仲が良くなっているように見える。


 ここがスイリンのすごい所だ。


 私は出会ってから毎日スイリンとは顔を合わせているが、こいつは誰とでも仲良くなれる。よく行く飯屋、パン屋、喫茶店、そこにいる人たちと短時間で簡単に仲良くなってしまう。これは私に全く無い能力だ。


 と言うわけでこのまま私が先頭でレースが全て終わった競馬場を行くとしようか。


 最終レースが終わってからだいぶ時間が立つので、ほとんどの人はとっくに帰ったらしい。競馬場に来たのは初めてなので知らなかったが、祭りが終わった後と言うかコンサートが終わった後と言うか、そういった独特の寂しさがある。


 あれほど人の臭いと欲望の声に満ちていた場内が、わずかに時間がたっただけで、これほど変わるものかと驚きを感じるほどだ。


 手の中に確かに感じる17億6493万8千ゴールドという重さを持ちながら歩く。魔法が無かったらこれを持ち運ぶことは中々に大変だったかもしれないと思うほどの重さ。


 もちろん嬉しい。


 椅子でうなだれたり床に這いつくばったりしている人を除けながら歩く。彼らは誰もこちらを見ていない。私が億を超える大金を持っていると知ったら彼らはどうするだろう。


 これは自分がレースの結果を変えたせいなのだ、という罪悪感も少し感じる。スイリンの表情を見てみれば私よりもその感情は大きいように見える。


「お、お、スイリン、スイリンじゃねえか、やっとみつけたよ、探してたんだぞ」


 歩いていると、でろんでろんの酔っぱらいが大声を上げながら近寄ってきた。冒険者ギルドからやって来た護衛のカトレアが前に出ようとしたところを手で遮って止める。


「キースケさん、転んだら大変ですから座っていた方が良いです。お酒飲み過ぎですよ」


 そう言ってそのオジサンの体を支えるスイリン。


「聞いてくれよスイリン、俺はお前に言わなくちゃいけないことがあるんだよ」


「どうしました?」


「ヤラワゲルウェンの複勝に全財産賭けて、それで酒を飲む金も無くなった俺に、お前は酒を奢ってくれたろ?」


「はい」


「だから嬉しくなって飲めるだけ飲んでたらよ、いつの間にか寝ちまって、そんでさっき起きたんだよ。そしたらよぉ、なんか知らねえけどポケットの中に金貨が入ってたんだよな、金貨」


 真っ赤な顔とアルコール臭を放つキースケの手の平の中には金色の輝きがある。


「いや、俺な、自分が金を持ってることなんか本当に知らなかったよ、本当だよ?」


「もちろん僕は信じますよ」


「ありがとうな。だけどよぉ、いくら知らなかったっては言っても、金を持ってるくせに無いって言って奢ってもらうのは良くねぇことだろ?それはウソつきだろ?俺はウソツキは嫌いなんだよ、だから考えたんだよ、逆にお前に奢ってもらった分を奢り返してやればチャラだってな。だからよ、俺はここでお前のことをずっと待ってたんだよ」


 充血した目を真っ直ぐにスイリンに向けて喋る。多少はたどたどしいがそこには本当のことを言っている人間の真摯さがあった。


「気持ちはありがたいですけど、その金貨は取っておいてください。僕は今日かなりお金をもうけたので御馳走しただけですから」


 スイリンがオジサンの肩を軽く叩きながら言う。


「よくねえよ!だってよ、それじゃあ俺がウソついたみたいになるじゃねぇか。俺はそんなケチなことはしねぇよ。俺はウソツキは嫌いなんだ。俺は金がねえって思ってたから奢ってもらったんだ」


「キースケさんが嘘をついてない事は、ちゃんと分かってますよ。レースが終わってもここでずっと待っててくれたのが何よりの証拠じゃないですか」


「本当か?」


 真っ赤な顔を見周りみたいに輝かせているオジサン。


「本当です。それよりその金貨、僕に使う位だったら奥さんに何か買ってあげてください」


「んも?」


 牛みたいな顔をしながら停止した。


「キースケさん言ってたじゃないですか。一昨日は奥さんの誕生日だったのにうっかり忘れてて怒られたって。今日はその埋め合わせのプレゼントを買うために勝負しに来たって」


「そうだ、そうだよ、おれはポピーの誕生日プレゼントに良いものを買ってやるためにここに来たんだよ。そうだよ、忘れてたわけじゃねぇぞ」


 驚いてジャンプしているその様子を見る限り、全てを忘れていたようだ。このオジサンはかなりの駄目男だな。気持ちはまあまあわかるけど。


「そうですよ、だからその金貨は奥さんにプレゼントを買うために使いましょうよ」


「プレゼント………そうだよな、金貨があればかなり良いものをやってやれるなぁ。けどなんだか悪いなぁ、だって俺はお前に奢り返してやるつもりだったのにさぁ」


「僕のことは全然気にしないでくださいよ。キースケさんの気持ちは十分に伝わりましたから。それよりもまずは奥さんにプレゼントを買って仲直りすることが一番大切ですよ」


「お前、お前は子供なのにずいぶんしっかりしたやつだよな。礼儀正しいし優しいし賢いしよぉ。すごいよお前は!」


 キースケはスイリンの背中をぱしぱしはたく。


「ありがとうございます」


「お前を見てるよ、昔の俺を見ているようだよ。いまなこんなんだけど昔は神童なんていわれてたんだからよ。俺にそっくりだよお前は」


「そ、そうなんですか」


「そうよ、そっくりだよそっくり。お前は可愛い顔をしてるな、そんなとこも俺とそっくりだよ。俺も昔は神童なんて言われてたんだ」


「ありがとうございます」


 その後もしばらく二人のやり取りがあった後、キースケはスイリンに勧められるまま、酔いを醒ます為にベンチでひと眠りを始めた。


「足を止めさせてしまってすいません」


 スイリンは頭を下げた。そして再び歩き出そうとしたところでやや緊迫した声が響いた。


「どうしてそんなことを?」


「え?」


「今の話を聞くにスイリンさんは、競馬で全財産を失ったあの方に酒を奢ったようですが、それはどうしてでしょうか?」


 王立ミミグット競馬場の支配人のシュトレーンがアゴを手で摩りながら聞いた。


 先ほどまで私の馬券について不正が無かったか調査していた人物だけに、その場に緊張感が走る。


「なぜって、それはキースケさんがお酒を飲むお金も無くて困っていたからですよ」


 一行は再び歩き始めた。


「彼とは今日ここで初めて出会ったのですか?」


「そ、そうですけど、なにか?」


 言葉こそ丁寧だが、それはまるで尋問をする刑事のようだった。


「知り合いでもない年の離れた相手に酒を奢るというのが、私にはなんだかとても不自然なことに思えましたので」


「そうですかね?」


 シュトレーンはベンチでいびきをかき始めたキースケの姿を凝視する。


「不自然です。競馬で負けて全財産を失くした人ならいくらでもいます。ほら、あそこにも地面を殴りつけている人がいますよ」


「そうみたいですね」


「もしスイリンさんが全財産を失った人を助けるのが好きな人なら、向こうの人に対して見向きもしなかったのはおかしい」


「別に見向きもしなかったわけでは無いですけど………」


「キースケさんは魔法使いなのですね」


 シュトレーンの視線はスイリンには向いていなかった。


「そ、そうなんですか?」


「ほら見てください。指に魔力を抑制するための魔道具を身に付けています。施設から出るときには外されますが、ここはまだ施設の中ですから」


「なるほど、たしかに指輪をしていますね」


 顎を摩りながら刑事のように考えこんでいる。


「魔法による不正防止の調査は、高額配当を換金しにきたお客様だけを対象としています。今日のように大きなレースでは何万人ものお客様が当施設にいらっしゃるので全員を調査することは出来ないからです」


「そうなんですねー」


「もし、指輪を他人のものとすり替えることが出来るとしたら、我々の調査には何の意味もないという事になります」


「え!いやでも、だけど、指輪は専用の魔道具を使わないと外すことは出来ないんですよね?」


「そうです。だからこそあの魔道具は警備の要なのです」


「だったら心配しなくても大丈夫じゃないですか?」


「とある物語を思い出しました」


「?」


「魔道具を生み出す魔王のお話です」


「魔王ですか?」


「そうです。いまも世界各地で発見される魔道具は、そのすべてが一体の魔王によって生み出されたもので、魔王は魔道具を使い世界を支配したという物語です。もしそんな存在がいるのならば指輪を付けることも外すことも自由なはずです」


「そうですかね………」


「例えばこんなことも出来ますよね?全くの赤の他人に酒を飲ませ、泥酔したところで不正された指輪と正常な指輪をすり替える、とか。さき程も言いましたが、指輪の真贋調査は高額的中者のみが適応されます。ですのでアイディアとしてはそういう事も可能だと思いますが、どうでしょう?」


「ど、どうでしょうか、ぼく、僕にはわかりませんし何も知りません」


「そうですか………」


 スイリンの表情は明らかに狼狽している。


「はい」


「ところで………スイリンさんは実に素直なかたですね」


「そ、そうですか?」


 急に話が変わり、とまどうスイリン。


「スイリンさんは最近この競馬場で不正行為を目撃したことはありますか?」


「ふ、不正行為なんて僕は知りません!」


「なるほど。ところでいま気付いたのですが………スイリンさんは嘘を付くと鼻の頭に血管が浮き出てしまうようですね」


「ふぇ!?」


 慌てて鼻を押さえるスイリン。


「どうやらここでお別れのようですね。私がご一緒できるのは施設の中だけですから」


 そう言って立ち止まるシュトレーン。


「今日は大変楽しかったです。もしまたいらしてくださいね」


 困り眉で鋭い眼光をしている為、感情が分かりにくいのだが何かすっきりした表情にも見える。


「その時は仕事を休んでお供させていただきます」


「そ、そうですか………」


「また大穴馬券が出そうな気がしますから」


 夕暮れに差し掛かった大きな雲を強い風が運んでいく。ポロロッカとスイリン、そして護衛のカトレアは長い影を持ちながら競馬場を去っていった。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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