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20話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 窓もない競馬場の応接室の中のテーブルには、一枚100万ゴールドの大金貨が詰まった袋が置かれている。


 総額17億6493万8千ゴールド。


 家が何件でも買えるほどの大金。もちろん非常に嬉しいが、少々困ったことが発生した。それはさっき緑スーツ軍人男こと、シュトレーンが言った言葉、「銀行振り込みには対応しておりません」だ。


 つまり競馬場側はこれを自分で持って帰れとおっしゃっているのだ。なぜ?と聞いてみても「規則なので」という日本感あふれる返答が返ってきただけだった。


 それなら一緒に銀行まで来てくれないか、とシュトレーンに頼んでみたら「申し訳ございません」という日本感あふれる回答が返ってきただけだった。


 これは非常に困った事態だ。


 というのも、私とスイリンは朝から最終レースまで競馬場にいるから知っているのだけど、今日のレースは全体的に荒れ模様で、馬券が宙を舞いまくり群衆たちは結構なストレス状態だ。


 そんな状況の中で1700枚以上の大金貨がパンパンに詰まった袋を持った私たちが、応接室から出て来るのを見たらどうなるだろうか。もしかしたらもうすでに何百人もの人間が扉の前で待機しているかもしれない。


「困りましたね」


 スイリンが心配そうに声を掛けてくるが、どこか他人事と言うか本当に困っている感じがしない。この少年は私が不正な手段で馬券を当てたことに納得していないの。


 もともと馬が走る姿を観たくて競馬場に来ているので、ギャンブル自体をよく思っていないのかもしれない。


 若干の苛立ち。


 正義というのは非常に心地が良いものだ。世の中でヒットしている物語のほとんどが勧善懲悪である。人は正義が好きなのだ。しかしながら自分が正義によって糾弾される立場となれば話は別だ。実際にはスイリンから糾弾されているわけではないのだが、微かにそんな雰囲気を感じる。


 走りで行けるか?


 心臓の病から完全復活したスイリンならば金の亡者たる群衆を弾き飛ばして、銀行まで突っ走って、安全な場所に金を預けることが出来るに違いない。


「僕ですか?!ちょっと待ってくださいよ。群衆を弾き飛ばしてって、厳しいですよ絶対に」


 そんなことはないと私は信じている。


「信じてもらえるのは嬉しいですけど、一人じゃ無理ですよ。僕はいままで一人でこんな大金を持ったことも無いですし、銀行に無事到着したところでどうすればいいのか分かりませんよ。お願いです、それは勘弁してください」


 思ったよりも必死に断ってきた。私が本気でそうさせるつもりだと思っているようだ。それはそれで納得できない気持ちもあるが、とりあえずは許してやろうかと言う気になった。


「ご不安でしたら冒険者を雇うという選択肢もありますよ。銀行までの道中の警護をギルドに依頼すれば安全かと思います」


 シュトレーンがどこかすこし笑っているような顔で言う。


 そんな手段があるのなら早く行って欲しかった。というかこの感じだとシュトレーンは最初から分かった上で私たちが戸惑うのを楽しんでいたとも思える。


 こいつは私が不正な手段で金を手に入れたと確信しているので、それに対する恨みか?


「冒険者さんは引き受けてくれるんですかね?」


「それは問題ないと思いますよ。過去に何度も引き受けていただいていますので」


 おいおいおい、それなら何で最初に行ってくれないんだよ。


「ああそうですね、最初に言えばよかったですね」


 うっかりしていました、みたいな演技がわざとらしい。やっぱり恨みか?証拠がないから捕まえられないだけの絶対犯人野郎である私に対しての恨みか?


「いえいえまさかそんな。確かに高額当選者が出たことは競馬場にとっては痛手ですが、そんなことで恨んだりは致しません。私の懐が直接痛むわけでもありませんからね」


 下がり眉の細めで笑っている。


 それを見ると未だに落ち着かないというか、未だに犯人であるという決定的な証拠はないかと探しているようにも見える。


 結局シュトレーンがいうように冒険者ギルドに依頼を出すことにした。彼が言うにはこれは比較的簡単で拘束時間も短いので大人気の依頼だという事だった。


 3千ゴールドを支払えば競馬場のスタッフをギルドに派遣してくれるというので頼むことにした。冒険者のランクによって金額が変わるからどうするかと聞かれたので、一番高いランクの冒険者にすることにした。


 どうせなら強い冒険者とはどんな程度のものなのか見てみたかったし、いくら高くてもせいぜい5万ゴールドまでだというので、17億稼いだばかりの私にとっては端金に思える。


 スイリンは「ごまんごーるど………」と唖然としていた。分かる。競馬場の銀行も王都の中にある以上は移動するのにはそれほど時間は掛からないだろう。


 それなのに5万。バイト募集の壁紙には時給800ゴールド位で描いてあるのをよく見るので、それに比べたら途方もない高額だ。


 だが逆に言えばそれだけの価値があるという事。武力に自信のないものにとっては金で安全が買えるのなら安いものだ。それだけの需要があるから5万と言う強気な額が通用するのだろう。


「十分に気を付けた方が良いと思いますよ」


 冒険者を待っている時間にシュトレーンが呟いた。競馬場の支配人と言うのは暇なのだろうか。この男はさっきからずっと室内にいて色々と話しかけてくる。


「高額当選されたお客様が幸せになるとは限らないようですからね」


 あまりにも気になる言葉だったので、どういうことかと聞いてみれば、高額の金を手にしたものの所には、寄付を求める人間が家に大挙して押し寄せてくるのだという。


 それは前世でも聞いたことのある話だ。宝くじで高額当選の情報はすぐに広まる。あまり記憶は定かではないが銀行員が、バラすのだと聞いた。


「なんか怖いですね………」


 やはりスイリンはどこか他人事のような口調だ。


 気を付けろと言われても、何をどう気を付けたらいいのか分からない。銀行員がばらすのだとしたら、銀行に預けなければいいのか?


 しかしそうすると宿の部屋の中に大量の大金貨を置かなければいけない。そうなれば今度は泥棒に警戒しなくてはいけない。


 いついかなる時も自分の目の届くところに金を置いて、一睡もせず、外出する時にも持ち歩かないといけない。


 さすがにそれは現実的では無いだろう。何かいい方法は無いだろうか。そんなことを考えている間に廊下から足音が聞こえ始めた。


 冒険者が来たようだ。


 もうこの時点でピリピリとした圧力を感じる。


 不安はさておき、いまは高ランク冒険者がどんなものなのか非常に興味がある。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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