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16話 ~叱る~


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 美しい青空と緑の木々が揺れていく風の中を馬券が舞って行く。隣にいるオジサンたちから呪詛が聞こえる。ビリビリになった私の馬券も仲間たちと一緒に呪詛の空を舞っている。


「ポロロッカさん、大丈夫ですか?」


 許せない、断じて許すことが出来ないぞ予想屋ターちゃんの野郎め。何が次は絶対に大丈夫だ。6が来るなんてことをお前は一言も言わなかったではないか馬鹿野郎この野郎。


 せっかく競馬場に来るのだからと多めに持って来た財布の中がスカスカになっている。体が熱い、頭が熱い、脳味噌が熱い。このままでは帰れない。せめて一回だけでも当てないと帰れない。


「一回落ち着きましょう、お水どうぞ」


 そう言って水を差しだしてくるスイリンの右手にきらりと光ったのは金属製の指輪。


 そうだ。この競馬場に入るために魔法を抑制する魔道具とやらを付けることになったのだった。そしてなぜか私がはめていた指輪は早々に割れてしまって、いまはポケットの中に入っている。


 そうだ………。


 つまり今の私は魔法が使い放題だ。


 今まで賭けたレースはすべて外れている。かなり手堅く一番人気を中心に買っているというのに全部外れている。


 そんな時に光輝いたこの指輪、天啓としか思えない。ポロロッカ君、君はかなり頑張ったからそろそろ魔法を使ってもいいよと神様が言ってくれているのだ。


 魔法で当てる。


 次のレースは財布を中身を全てぶちまける大勝負にいく。複勝なんかのしょうもない価値じゃ満足できない。3連単だ。もっとも倍率の高い3連単狙いで行く。今はただ競馬場に金を預けてやっているだけだ。破産させるほど儲けてやる。


「え!?」


 知らないうちに言葉に出てしまっていたようで、となりにいたスイリンが目を真ん丸にしている。ちなみ彼は馬が走っている姿が好きなので順位にはあまり興味がないんです、とか言っていた。


 勝負は勝たないと塵だ。


 どれだけド汚い手を使っても勝てばいい。勝てば官軍負ければ賊軍だ。問題はそのための方法である。魔法を使って勝つことは確定。私が走るわけじゃないから身体強化は使えない。


 とすると残ったのは特殊魔法。私の魔法「ネゴシエーション」は言葉と文字に力を与えることができる。これをどのように利用するか、その方法を全レースが終了する前までに考え、実行しないといけない。


「あ、あの………ポロロッカさん」


 スイリンが私の肩を指でちょんちょん叩く。


「ズルをするのは良くないんじゃないですかね………」


 スイリンが非常に間違ったことを言ったので私は彼のために厳しく説教する。「馬鹿もん!なにを言っているんだこの腑抜け!金なければこの世界は渡っていけない、これは生きるための戦いなのだ」と。


「は、はぁ………でも………」


 正直言って彼を叱ることは辛いことなのだ。怒ると叱るというのは似ているようで全く違う。私はスイリンを正しい道に導くために教えてあげている。つまりこれは怒っているのではなく叱っている。これは年長者の務めなのだ。


 魔法というのは神様の力の欠片。


「え、どういうことですか?」


 私の言葉に対してスイリンは理解が悪い。スイリンは非常に賢い少年だ。それなのになぜ今日は理解できないのか、まったく信じられないことだ。


 とにかくこの世界で魔法と言うのは神様の血からの欠片だと信じられている。


 ということは私が魔法を使うことは神様によって認められているという事。だからいつ何時でも使いたい時に使う。


 競馬場では使わないでくださいね、なんていうのは人間が勝手に決めたルール。それは神に対する冒涜であり、裏切りであるという事だ。


 駄目な時は神様が教えてくれるはずだ。だからいまだって魔法を使ってもいいのだ。負けを取り戻す為に使ってもいいのだ。金を儲けるために使っていいのだ。


 それが神様の御意思なのだ。


「それはどうですかね、少し話しがおかしいような気もするんですけど………」


 溜息。


 これだけ丁寧に説明したというのにスイリンにはあまり響いていないようだった。


 まあそれも仕方がない、確かに彼は賢く控えめな性格であるが、あまりにも生きてきた年月が短すぎるのだ。きっと大人になればわかってくれるだろう。


 というわけで考える。馬に怪我をさせたりするのは絶対にしてはいけない。なにかないか、言葉と文字に力を与える魔法。これを使って何か………。


「パドックはどうしますか?」


 スイリンが聞いてくる。今まではすべてのレースで事前に馬の状態を確かめるパドックは見に行っている。しかし見れば見るほど私に目には全部が同じ馬に見える。


 予想屋ターちゃんに聞いたところ、馬の艶だとか、歩き方だとか、汗のかき具合だとかで判断するらしいのだが、そう言われても全く分からない。そして今まで馬券を買った全てのレースで馬券を破り捨てている。


 それなのにまた見に言って何か意味があるのだろうか?かといってそれじゃあ競馬新聞だけで当てられるのかと言われれば全く自信は無い。


 それにこんな人混みで酸素が薄い所では何も考えられない。何にしても場所を移動した方が良いだろう。


 パドックを見に行くことにした。


 その道中でまたしてもスイリンは「ズルは良くないと思いますよ」と言って来た。相変わらず私の考えを分かっていないではないか。


 次は今日のレースの中で一番のメインレースの開催だ。会場は静かに、しかし確実に盛り上がっていくのを感じながら石段を登っていく。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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