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15話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 美しい青空と緑の木々が揺れていく風の中を細切れになった馬券が飛んで行く。


 白い紙に太陽の光が反射したその光景は、桜が舞っているように見えなくもない。


 ああ綺麗だな、なんて思えないのは私の馬券の細切れも仲間たちと一緒に空をひらひらと舞っているから。


 思い出しても腹が立つ、圧倒的本命と思われていた1番の馬がスタートで出遅れて、その後は馬群に前を塞がれて、結局3-4という結果で確定してしまった。


 その結果私は20万ゴールドという大金を失うことも確定してしまった。


「残念でしたね、けど4番のほうは当たっていましたから惜しかったですよね。あの、そんなに怒らないでくださいね」


 スイリンが慰めてくれているが私の腹立ちは収まらない。というのもこの予想は私自身が考えたものではない。競馬場のゲートをくぐってしばらく行ったところのちょっとした高台のような所にいる予想屋のいう通りに買ったのだ。


 あのターちゃんとか言う予想屋め、なにが1-4、4-1だ。あいつのせいで金貨2枚を失ってしまったではないか。許せん、これは許せん、20万ゴールドといえば並みの職人のひと月分の給料だぞ。


「あの、そんなに怒らないでくださいね?」


 本当はやってはいけない行為だとは分かっているけど文句を言いに行こうか。そこで素直に謝ってくれば許してやらんでもないが、もし一言でも言い訳するようなら一発くらいは殴るかもしれない。首も絞めるかもしれない。


 よし、あの予想屋の所に行こう。


「それはやめましょうよ………」


 隣にいるスイリンが私の肩を触りながら宥めるように言ってくるが、お前は分かっていない。


「なにをですか_」


 人間というのは駄目なことだと分かっていても、やってしまう時があると思うのだ。それが人間と言う生き物なのだ。それが人間味なのだ。だからしょうがないんだ。


「あんまりしょうがなくないような気が………あの、それよりポロロッカさん、お腹すきませんか?お腹」


 スイリンがやけに明るい調子で行ってくる。


「この競馬場にはご飯を食べれるところがあるみたいですよ。ほかの人たちはさっきから美味しそうなものを食べていますよ、ポロロッカさんは食べるのが好きじゃないですか?僕と一緒に見に行きましょうよ」


 そう言われて周りを見渡してみれば、レース場に近い所にいるオジサンたちは目を血走らせて叫んだり、競馬新聞を必死になって見たりしているが、遠くにいる人たちは食事をしながら楽しそうに仲間たちと談笑しているのが分かる。


「シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!」


 上品な服装をしている家族たちの中にたったひとりだけ、ヨレヨレのタンクトップを着た歯の無いオジサンが顔を歪めながら悶えている姿がある。


 たぶんこいつもさっきのレースを外したんだろうなと一発で分かる。


「シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!」


 なんてみっともない姿なんだ。周りの人たちに見られていることが分かっているのかいないのか。とにかく自分の中の怒りを発散させることで精一杯のようだ。


 周りを見渡してみればこの世界の競馬場と言うのは、私がイメージしている日本の競馬場とは全く違う違う。


 ここはまるでイギリスの競馬場だ。


 上流階級らしい人たちの姿が多くいる。ビシッとスーツを着こなしシルクハットを被っていて競馬場と言うよりも社交場のようにも見える。


「シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!シギギギギギギギギーーー!」


 そんな中にぽつんといるこのオジサンのなんとみっともないことか。口から白い泡まで拭いて悔しがっている。


 恥ずかしい。


 怒り狂って自分を押さえることのできないその姿は、まるで自分自身を見ているようだ。私は前世でインチキ宗教の教祖をしていたような人間ではあるが、プライドは人一倍高い。


 私があるべき姿というのはこのオジサンではないのだ。たったひとレースが終わっただけじゃないか、この後もレースはあるのだからいくらでも取り返せる。


 深呼吸して怒りを収めよう。


 と言うよりも実は最初からそんなに怒ってはいなかったような気もしている。そうだ、たかが20万ゴールドではないか。私はこの程度の金でグチグチと文句を言うようなそんな安い人間ではないのだ。


 さて、飯を食いに行くか。


「ふぇ!?急にどうしちゃったんですか?さっきまであんなに怒っていたのに」


 この少年が何を言っているのか分からない、私はクールで優雅な英国紳士のように競馬を楽しんでいるのだ。


「なんだか良く分からないですけど、怒ってないのなら良かったです。それじゃあご飯を食べに行きましょうか。さっきから見ていたら大きいソーセージが人気みたいですよ」


 いいじゃないか。こういった屋台の定番と言えばフランクフルト。よく考えたらこの世界に来てフランクフルトは食べた事は無い気がするな、ソーセージはあるけれど。


「あれ、何か落としましたよ」


 ん?


 すぐさま足元を調べてみる。もしかして金を落としてしまったか、せっかく競馬場に来るんだからと今日は大目に金を持って来たのだ。


「これ」


 私が気が付くよりも早くスイリンが拾い上げたのは半円の形をした小さな金属だった。なんだこれ、どこかで見たような気がするものだ。どこかでみた、しかもつい最近だ。


「あ!これって指輪ですよ。ここに入場する時に付けろって言われた魔法が使えなくするための指輪!」


 スイリンの指の間にある半円がキラリと光る。


 そうだ、確かにそうだ。割れてしまって原形をとどめてないので分からなかったが、これは指輪だ。


 と、ここで足元に違和感を感じて見てみれば、もう半分の指輪の欠片が落ちていた。どうやらいつの間にか踏んづけていたらしい。


「これ、どうします?」


 スイリンは割れた指輪を見つめたまま不安そうにしているが、私が思ったことは「よっしゃー!」だ。


 競馬場に入るためとはいえ、魔法を封じられるという事はかなり不安だった。魔法はもうすっかり自分の中であって当たり前の存在になっていて、立ち上がるときも走るときも無意識のように使っているからだ。


「競馬場の職員の人に行った方が良いんじゃないですかね?」


 気にしなくていい。


「けど………」


 私は壊そうとして壊したわけではないのだ。恐らくはずっと使っているうちに壊れやすくなっていたのだろう。これは競馬場のミスだ。


「確かにそうですけど………」


 喋りながら歩いているうちに屋台が並ぶ一角へとやってきた。大きなソーセージだとか芋を揚げたやつだとか、ワインだとかいろいろな店が並んでいる。


 好きなものを好きなだけ食べていいぞ、そういうとスイリンはとても嬉しそうな顔をした。病気が回復してからの彼はとても食欲旺盛で普通の音なの一人前では足りないくらいたくさん食べている。


 そのおかげか、出会った問いにはガリガリだった体格がすっかり健康的なやせ型になっているように見える。


 風が吹いた。


 青芝の香りを含んだ柔らかい風だ。


「僕はやっぱりソーセージにします」


 そう言って小走りで目当ての屋台の前に向かって行ったスイリンを見ているとこっちまで楽しい気分になって来る。何にしようか。私は酒が飲めないので、飲んで楽しそうにしている人を見ると羨ましくなる。


 私もソーセージにしようか。この世界は魔物が沢山いる御蔭で肉料理が豊富なのだ。私はもともと魚よりも肉の方が好きなので嬉しい。たまには寿司が懐かしくなる時もあるが。


 私はケチャップとマスタードが多めの方が好きなので店主にそう注文したらスリンも真似をしてきた。ふたりして服に零さないように注意しながらソーセージを頬張る。


 美味い。


「これすごく美味しいですね!」


 スイリンはすごく笑顔だ。


「食べ終わったらすぐに馬を見に行きましょうね」


 楽しい。


 異世界の競馬場、とてもいいじゃないか。


 ただ一回だけ予想屋ターちゃんの所に行って、ひと睨みしてから行こう。あいつのせいで20万ゴールドを失ったことは、まだちょっとだけ引っかかっているのだ。





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