13話 ~復活のスイリン~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
僕が両手を開いた時、手の平の上には小さな土の球体があった。
ぽつぽつぽつ………とそこに生暖かい涙が落ちてきた。いつの間にか僕は泣いていた。
魔法。
小さい頃から僕の体の中にある力は、土を自由自在に操ることが出来た。穴を掘ったり山を作ったり、今みたいに土を固めたり。
そんな力は消え去って、僕の体の中にあるのは病気だった。僕の魔法はすっかり死んでしまったんだとばかり思っていた。土を見れば何でもできるような気がしていて、あれをやってみよう、次はこれをやってみようと考えて試してみるのが楽しくて一日中遊んでいられた。
病気になってから土は土でしかなくなっていた。生まれた時から近くにいた友達の中身だけすっかり入れ替わってしまったみたいに、話しかけても何も答えてくれなくなった。
毎日夜は寝れなくて、目が覚めてたらずっと具合が悪くて、ご飯を食べれば吐いてしまって、だけど魔法が使えなくなったのはそれよりも辛かったかもしれない。
お腹がチクチクと痛み始めた。
漢方薬を飲み始めて長い距離を歩いても大丈夫になってきたころから、お腹の下らへんを針で指したみたいな痛みを感じるようになった。
その痛みは日数がたつほどに少しづつ強くなっていって、そしてある時から弱まっていった。それくらいからその痛みの場所に、もう一つの心臓みたいに、ドクドクと音の鳴るような感覚を感じるようになった。
信じられなかった。
これは僕が魔法を使えていたころの感じていた感覚。その時よりもずっと弱い感じはするけれど、そこに何かがある感じがした。
魔法が使えるかもしれない。
嬉しかった。
嬉しくて怖かった。
もしこれが勘違いだったら僕は立ち直れないほどのショックを受けることは分かっていたから。だから怖くてポロロッカさんにも言えなかった。
毎日漢方薬を飲んでポロロッカさんに声を掛けてもらう毎日の中で、お腹の下の弱い感覚はだんだん力強くなっていって、もう勘違いでは無いと言い切れるくらいのものになっていた。
そうなって初めて僕はポロロッカさんに相談した。
魔法が使えるようになっているかもしれません。そういうとポロロッカさんはすごく喜んでくれて、僕もすごくうれしかった。
知らば楽二人で喜んだあとでポロロッカさんは言った。それはたぶん魔臓と言う臓器が息を吹き返した証拠だと。
だけどここで喜びすぎてはいけない。
いまの魔臓は赤ちゃんのようにとても弱い状態かもしれない。ここで無理をしてはいけない。魔法が使えるようになったと嬉しくなって魔法を使うと、どうなるか分からい。だからここは、慎重に行こうと。
今まで見てきたなかにはいないほどポロロッカさんと言う人はすごく個性的な人だ。色々な人と喧嘩もしているのでかなり豪快と言うか気持ちの強さを持っている人だとは思うけど、その反対に慎重さも持っている人だと思う。
特に僕の健康のことについてはかなり慎重で、僕が体を動かしても大丈夫そうだと思っても、その気持ちはわかるけどもっと良くなってからにした方が良い、焦って台無しにしてはいけないと言い聞かせてくれる。
だから僕はポロロッカさんの言う通りに、大丈夫そうだと思っても無理はせず、毎日漢方薬を食べ、息が上がらないくらいの運動をすることを頑張っていた。
そして今日、僕は久しぶりに魔法を使った。久しぶりに感じる手の平の中の土の感触。
ドキドキした。
両手で土を握って僕は魔力を込めていく。お腹の下にある所がトクトクと柔らかく音を出すのが分かった。魔力がの流れているのは感じる、あとは土魔法が使えているかどうか。
両手を開いた時、手の平の上には小さな土の球体があった。
それは僕が思い描いた通りの形だった。いつの間にかどこか遠くに行ってしまった友達が手の平の中にいた。真ん丸で固くなったそれに太陽の光が当たって笑っているように見えた。
嬉しかった。
涙はどんどんどんどん流れていくけど嬉しくて気持ちがよくて、もっともっと流れて欲しいと思った。
僕の足元には土があってそれだって思った通りに扱うことが出来るという感覚がある。
魔法は僕の元に戻って来たんだ。
ポロロッカさんは泣いている僕のそばに何も言わないでずっといてくれた。
魔法が使える。
僕は子供の頃に戻ったみたいに周りの景色が色鮮やかに見えた。木の葉っぱの緑色が力強くて、空の青は透き通っていて、雲はモクモクしていて、今までずっとそこにあったのに全部が綺麗に見えた。
僕は笑った、泣きながら笑った。
ポロロッカさんと友達と一緒にこの綺麗な世界を歩くことができる。
それが嬉しかった。
◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
走り去った子供たちの声の余韻が残る宿の庭に、スイリンと私がいる。
毎日漢方薬を摂取しているスイリンは、歩けるようになり、走れるようになり、ついには魔法が使えるようになった。
最初はひどく心配だった。なにせスイリンが体を壊したのは魔法を使いすぎたこのによるものだ。それなのに再び魔法を使わせて良いものか。
スイリンは大丈夫だと自信を持っているようだったが私は不安だった。あの時の息をぜーぜー言っているスイリンの姿はもう見たくない。
しかし私の不安は当たること無く、スイリンは見事に手の中の土から真ん丸の球体を作ることに成功した。体調にも異常はないようだが、魔法を使うのは一日おきにしておこうと提案して、スイリンはそれを受け入れた。
それを繰り返すうちに私もようやくスイリンの魔臓はかなり回復していると確信することが出来た。
私達の目の前にはには土の詰まった金属製のバケツがある。今日はこれを使って、今までよりも多くの魔力を込めた土魔法を使ってみようとしている。
「いきます!」
もうすっかりと血色の良くなったスイリンが気合の入った声をと共にバケツをひっくり返して、地面に伏せた。
まるで丁半博打のようだと思ったがこれを言っても伝わらないだろうし、今はそんなことを言う場面でもない。
スイリンはバケツの底を手のひらでバシバシと叩いた後、バケツを一気に引き上げた。するとそこにはバケツのをひっくり返した形そのままの土の塊があった。
「どうでしょう」
恐る恐ると言った様子でスイリンがその土の塊を軽くノックした。スコップで掘った土を流しいれただけの状態だから、普通であればこんなプリンみたいな形になっていること自体がおかしいし、触れれば崩れてしまうだろう。
崩れない。
「もっと強く叩いてみます」
そう言いながらノックの勢いを強めたが土のプリンは全く微動だにしていない。
「大丈夫そうです」
満面の笑みのスイリンを見ているとこちらまで嬉しくなってくる。
「ポロロッカさんもやってみてくださいよ。叩いても全然固まっていますから」
言われるがままに私もしゃがんでノックしてみたが堅い。徐々に込める力を強くして言っても、それはまるでブロック塀を叩いているかのような感覚だ。
「これでも試してみます」
そう言うと、スイリンは横に置いてあったスコップで、土の塊を打ち付けた。カッカッカッ、という石を叩いているような音がした。
「全然崩れません、大丈夫です!」
飛び上がって喜んでいるスイリンは初めて自転車に乗れたような喜びようで、二人でハイタッチをした。こんなに声をあげて喜んでいるスイリンは初めて見た。
衝撃だ。
スイリンは喜ぶとハイタッチをするタイプの人間だった。
本当は結構パリピなのか?
もしかしたら本当のスイリンは、休日に大勢の友達と河原でバーベキューしながら花火をして、ヒップホップを大音量で流しながらスミノフを飲むような、私が一番嫌いなタイプの人間だったのかもしれない。
友達は全員タンクトップで、金髪で、タトゥーがガッツリ入っている出来損ないの窪塚洋介みたいなやつら。
そういう奴じゃないとハイタッチなんかするはずがない。これはきつい。スイリンに対するイメージが変わった。
イメージと全然違う。
スイリンの土魔法実験が上手くいっていることは嬉しいが、スイリンの本性を知ってしまってせいで、心から喜べない。
「あれ、どうしましたか?」
不思議そうな顔で聞いて来るがお前の本性は分かっているぞと言ってやりたい気分だ。
「あの、土魔法はこの通り思った通りにできたんですけど………」
そういってスコップの先で土の塊を突いて見せてくれる。スイリンのこきゅは正常で表情にも異常は見られない。病が回復してから初めて作った小さな土団子。今回作ったものはその何倍もの大きさの土プリン。
立っているだけでおかしな呼吸をして青白い顔をしていた少年がここまでできるようになったのは、奇跡のようなものだ。
たとえスイリンがクソパリピ野郎だったとしても、良いやつであることに変わりはないのだ。ここはグッとこらえて素直に喜んで褒めてやるのが大人という物だ。
「なんか変じゃないですかポロロッカさん?僕がなんかおかしなことを言いましたか?」
私の対応にかなり疑問を持っているようだが、説明しても伝わらないだろうからここはスルーだ。
しかしスイリン、お前は見事じゃないか。魔臓を壊したせいで医者に見放されるほどの症状だったというのに、恐れること無く魔法を使うその度胸は素晴らしい。
人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士のアームストロングは言ったという。「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ」と。
少し大げさかもしれないが、これはスイリンにとっての大きな一歩だ。
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