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12話 ~熱意~


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 


 窓から煌めく光が降りそそぐ午後3時。


 奴隷商コーストラインの中のいつもの応接テーブルには、店主のウォドラー、宝石商のセレモニーがいて私がいる。


「あのぅ、今日はどういったご用件なのでしょうか」


 丸顔丸眼鏡宝石商のセレモニーが緊張した面持ちで聞く。


「そうですね、ポロロッカさんから声を掛けてもらうなど今まであまりありませんでしたから緊張しますね」


 そう、二人を呼び出したのは私だ。


 それと言うのも緊急かつ重大な事柄の相談がしたかった。今日はスイリンが一緒ではないのはあえてそうしている。これは少年には聞かれたくない大人な話だ。


「大人の話、もしかして「奇跡の宝石店」についてのお話でしょうか。もしかすると中止したいだとか、報酬をさらに上げてくれだとか言う………」


 かなり心配そうな顔をしているセレモニー。その膝を見てみれば小刻みに貧乏ゆすりをしている。心配をする気持ちは分かるが今回の話はそれとは全く関係が無い。


「関係が無い、ですか………」


 あの日私とセレモニーは共同で宝石の展示販売会を開くことを約束した。正直断られるのが当たり前と思うほど無茶な条件の提示だったがセレモニーは何を思ったのか頷いた。


 従って私の中ではもうセレモニーというのは知らない仲ではなくなった。だから今日は相談に乗ってもらおうと思って呼んだのだ。向こうが私のことをどう思ているのかは分からないのだけど。


 緊張する。


 私はあまり自分の事をペラペラと他人に話すのは好きでは無いから、前世を含めて相談というものをほとんどした記憶が無い。しかし今回は、今回だけはどうしても他者の協力が必要だ。そうでなければ上手くいかない予感がしている。


「何を相談されるのでしょうか、ドキドキしますね」


「私も全く同じですよウォドラーさん」


 セレモニーは額の汗をハンカチで拭き、ウォドラーは微笑みながら微笑んでいるが緊張しているのは私も同じだ。


 私は思い切って語る。


 それは………王都の名門娼館「お色気たっぷり♡プリンプリンZ王都本店」のナンバーワンキャストである「りほちゃんZ」のお誕生日に何をプレゼントしたら喜んでもらえるか、ということだ。


「へ?」


 宝石商セレモニーが間の抜けた声をあげた。私が何を言っているのか理解していないような顔をしているのでもう一度説明する。


「お色気たっぷり♡プリンプリンZ王都本店」のナンバーワンキャストである「りほちゃんZ」のお誕生日に何をプレゼントすれば喜んでもられるのかという相談だ。


 二度も言ったというのに二人はまだ固まっている。


「いや………さすがですね」


 ようやく瞬きを開始した奴隷商ウォドラーが手で口元を押さえながら言う。


「まさかそのようなことで呼び出されるとは想像だにせず、完全に虚を突かれました。私はもっと重要なことについてお話しされるのかと思っておりました。いや、さすがですね、素晴らしい」


 ウォドラーは感心しているようだが、私にとってはこれは非常に重要なことだ。だからこそわざわざ二人を呼んで相談したいと言っているのだ。


「そうでしたか、申し訳ありません。確かに何が重要かは人によって違いますからね」


 分かったような顔をしているウォドラーだが、私の心境は絶対に分かっていないだろう。この男は王都の一等地で大きな店を持っているくらいだし、顔もいいので娼館などには興味が無いのだろう。だからこそこんなことを相談するのは抵抗があったのだが、それでも仕方がないと腹をくくった。


 これは勝負だ。


 ついこの前のりほちゃんのお誕生日イベントの「先着1名限定で丸一日りほちゃんZ独占券」を333万ゴールドで購入した私は、初めて「りほちゃんZ」を目に入れた瞬間からその美しさの虜になった。


 さすがは王都で人気ナンバーワンと言われるだけあって、童顔のようでいて大人っぽくて、笑顔が可愛くて、素晴らしい美人だったが、私が特に気に入ったのは彼女の声だ。甘くて柔らかくて一生聞いていたいほど耳に快楽を与えてくれた。


 私にとってあの一日は333万ゴールドなんて目じゃないほどの価値があった。一緒に入ったお風呂の何と心地よかったことか。あれ以来一人で風呂に入るたびに虚しくて仕方がない。


 そしてこれは恐らくだが彼女も私の事を相当気に入ってくれたと思う。しかしながら彼女はナンバーワンキャストであるために狙っている薄汚い男共は大勢いて、簡単に会うことは出来ない。


 店には厳格なルールがあるために金だけで解決できる問題ではないのだ。この店では過去の来店実績よって客をランク付けしていて、Sランクの客の予約は優先的に処理される。


 つまり一見さんお断り、みたいな感じで昔からの客を大事にするというシステムなのだ。何で異世界まで来て京都みたいなやり方で締め出されなければならないのかと腹が立つが、店を出禁になるのだけは嫌なので従うしかない。


 これは最近王都に来たばかりの私にとっては一番厳しいルール。今だとキャンセル待ちをしているやつがキャンセルするのを待っているような状況で、これはもう奇跡を待っているに近いことだ。


 しかし諦めるのはまだ早い。


 来店回数と同じくらいに重要なのが、そのキャストからの逆指名。これさえあれば例え来店回数が少なくてもキャンセル待ち、くらいの優先順位になることが出来るので現実味が出てくる。


 しかしこれは店を利用する者なら誰でも知っている公然のルール。だから男たちは好みのキャストに気に入られようと、様々なプレゼントをする。つまりはそれだけ競争率が高いという事だ。


 プレゼントはいつでもできるというわけではなく、それも店によってルールが定められている。


 それが来週の「りほちゃんZ」のお誕生日プレゼントお渡し会。


 この機会に他の誰よりもダントツで素晴らしいプレゼントを贈って是非とも気に入られたい。今の私にはそれしか無いのだ。


 しかし非常に残念なことに私にはどうやらプレゼント選びの才能が無いようなのだ。


 以前私は好きな女性の誕生日に猫の靴下をプレゼントしたことがある。彼女が猫が好きだという事は知っていたし、靴下はいくらあっても困らないと思って100足プレゼントした。


「靴下ですか、さすがにそれは………」


「そうですね。女性はあまり喜ばないかもしれません」


 ふたりの予想通りに彼女は「え、なんで靴下?」と言い、固まっていた。その後しばらくしてからありがとう、とは言ってくれたけど、私は自分の失敗を悟った。


 そして私が考えついた「りほちゃんZ」へのプレゼントは大きな猫の顔の指輪だ。しかも私とお揃いの指輪。選んだ理由はもちろん、彼女が猫が好きだと言っていたからだ。


 思いついた時にはきっと彼女は喜んでくれるはずだと確信を持っていたのだが、一夜明けてよく考えてみると、これは前と同じパターンだと気が付いた。靴下と指輪と言う違いはあるが猫というのは同じだ。


 このままでは負ける。


 それは断じて許せない。私は前世でインチキ宗教の教祖をしていたような人間であるが、プライドは極めて高い。待合室で見るようなダサキモオヤジなんかには絶対に負けられない。



 もうあの時の「え、なんで靴下?」なんて言いながらのびみょな表情は見たくない。金は2千万ゴールド以上はある。しかし私にはプレゼント選びのセンスが無い。


 となれば解決策は簡単。


 自分で考えられないのであれば、信頼できる他人に考えてもらえばよいのだ。


 つまりは相談。


 この世界では私よりも年長者であり、なおかつ王都でも有数の商店を率いる経営者のふたりであれば、すばらしい贈り物を考えついてくれるに違いない。


 そう思い二人にどうしてもあって話したいと、今回の会合を申し出たのだ。私はその全てを正直に話す。


 本当は恥ずかしい。かなり恥ずかしい。こんなことを他人に相談すれば人によっては馬鹿にしてくるであろうことは分かっている。


 それでもなお、それでもなお私は勝利したい。そしてふたりは私のことを馬鹿にしたりはしないだろうと信じている。


 りほちゃんZという女性は可愛くて、綺麗で、スタイルがよくて、お茶目で、不器用で、真っすぐで、明るくて、楽しくて、一緒にいると心を癒してくれる素晴らしい女性なのだ。


 私は自分の想いを熱く語った。


 そして頭を下げた。


 何が何でも勝利しなくてはならないのだ。その為にどうか二人の知恵を貸してくれないか、この通りだ。


 顔をあげてみる。


 私の熱い思いはーーーどうやらあまり届いていないようだった。






最後まで読んでいただきありがとうございました。


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