10話 ~ドン!~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
奴隷商コーストラインの店内には転生者である私ポロロッカと、元奴隷少年スイリン、そして奴隷商店主ウォドラー、宝石商セレモニーがいる。
金持ちの邸宅のような店内にヒソヒソ声が響く。
「はい………はい………はい………」
私がスイリンに耳打ちをしているのは、宝石商セレモニーとの取引を代わりに交渉をしてもらいたいから。
なぜこんな面倒臭い事をしているかと言うと、私の信念として「大事な時には喋らない方が良い」というのがあるから。
しかしながら喋らなければ交渉は出来ないので、苦肉の策として私の弟分であるスイリンにやってもらう。と言っても考えて指示するのは私なのだが。
店主のウォドラーも取引を持ち掛けてきた宝石商セレモニーも、私の行動をただ黙って見ている。普通であれば気まずい時間だが、これに怯んではいけない。
取引というのは相手を威圧することが大事。そのためには相手の態度をよく観察し、自分の弱みを極力見せない。前世でインチキ宗教の教祖だった私はその時の経験で学んでいる。
「あの………先生はもっと詳しい話を聞きたいそうです」
少し声の裏返っているスイリンが言った。
「へ!?」
私ではなくスイリンが急に喋り出したことで、目を真ん丸にして首を前に出し驚いているセレモニー。
これは私の指示によるものだという事は分かっていると思うが、意図は理解できないだろう。
向こうからすれば私は最近名前を聞くようになった石売りで、自分は王都で店を構える宝石商。それなのになぜ直接口を利かないのかと、普通であれば怒り出しても不思議ではない。
「あ、あの、これはどういう状況でしょうか………」
驚きすぎて言葉が出てこない様子のセレモニー。困った様子で隣に座るウォドラーを見つめたが、彼はただにこやかな笑みを浮かべているだけで何も言わない。
今までウォドラーの立ち位置と言うのが私にとって不明だった。宝石商セレモニーを紹介してきたのはこの男だが、その意図が分からなかった。
しかし今のやり取りを見るに、完全にセレモニーの側に立っているわけでは無いと思った。もしそうだとしたら私に対して何か文句を言ってきたりだとかしてもいいはずだ。
「ええと………」
このままでは埒が明かないので、またスイリンの耳にささやく。
「さっきの話では宝石の展示即売会という事でしたが、それだけでは貴方方がポロロッカさんに対して具体的に何をしてほしいのか、どれだけの報酬を払うつもりなのかが、全く分からないと言っています」
セレモニーの戸惑いをすべて無視して取引を進める。果たして向こうはどういう反応をしてくるだろう。
私はセレモニーの表情をじっくりと観察する。喋ることに神経を使わないことでこういったことが出来るようになるのだ。
「あの、ポロロッカさんにしていただきたい内容といたしましては、宝石に奇跡の力を込めて頂きまして」
「一体いくつですか?」
「へ?」
「数です。ひとつでいいのですか?」
「いえ、さすがにそれでは少なすぎます」
「それでしたら最初に数を明言して頂かないと困ります。全てです、先生にしていただきたいことのすべてを話してください。今の所何も言っていないのと同じですよ」
スイリンはきっぱりと言った。
「す、すいません………」
「これはポロロッカさんの言う通りだと私も思いますよ」
ウォドラーが言う。
いまのこの発言は私に味方しているように感じる。喋らないことで取引を有利に進めたいという私の意図を助けるかのような言動だった。セレモニーの表情を観察する限りは、思っていた通りに商談を進められていないことは明らかだ。
「そうですか、そうですね。えーと、私が考えていますのは、まず会場も宝石もすべてこちらで用意いたしますので、ポロロッカさんには事前にそれらの宝石の50個程度に奇跡の力をを注入して頂いてですね、それで当日会場にいらしていただいて、お客様にどういったパワーなのかの説明をしていただいて、実際にパワーを込める所のデモンストレーションのような事もやって頂きたいと思っております」
誰も味方がいないような状況でさらに一人で喋りつづけているうちに、さらに汗が噴き出しているセレモニー。私はその男の目をじっと見る。
セレモニーは石売りをとして最近名をあげてきた私を利用して金を稼ぐつもりなのだろうが、問題は相応の対価を払うつもりがあるのかないのかだ。
利用されるのは構わないが、只働きさせられるのは絶対に許せない。
「そう言ったことを全てして頂きましたら報酬の方を1500万ゴールドほどご用意させていただきたいと思っております」
言い終わった後でセレモニーはポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭う。ハンカチ自体がもうだいぶ湿っているような気がする。
私はまた耳打ちする。
「話になりません」
緊張がほぐれてきたのか、スイリンがスムーズに言葉を発した。
「へ!?あの、話にならないとは報酬のことでしょうか?それとも仕事の内容についてでしょうか」
「両方です」
「へ?」
「先生はお客さんへの説明もデモンストレーションも一切やるつもりは無いし、当日展示会の会場に行くつもりもないと言っています」
「しかしそれでは………」
「それに報酬も少なすぎると言っています」
おお、上手いぞスイリン。相手の言葉を途中で遮って大きい声で掻き消すことは相手に圧力を与えることが出来る。取引と言うのは気圧された方が負けるのだ。どんどん圧力をかけろ。
「でしたらなんとか1700………」
「最低でも桁が一つ足りないと言っています」
「けた、けたですか、けた………」
壊れたロボットのようになっているセレモニー。それにしても今日いきなりやってみたわけだが、スイリンは本当に優秀だなと思う。
人に気に入られる際のはかなりあるなと思っていたが、事前に打ち合わせすらしていないこの状況で、私の意図を理解して動いてくれている。
これは性格のお陰なのか分からないが、スイリンは強いことを言っても、相手にあまり嫌な気持ちを感じさせない喋り方をする。
「桁ということは一億ゴールドということでしょうか?それはあまりにも………失礼ですがポロロッカさんは普段、ひとつ1万ゴールドで石を販売していると聞きました。それで考えますと1700万ゴールドをたった数日で稼ぐことは非常に良い取引だと思うのですが、どうか考え直してはいただけませんでしょうか?」
私はまたささやいた。
「そういう問題ではありません」
「へ?」
「幸運のパワーというのは普通の石よりも宝石に注入する方が格段に難易度が高いのです。ですからその分値段も格段に跳ねあがる、これは当たり前のことです」
「あの、その事なんですが、パワーを注入するというのが私どもには全く分からないのですが、それにはどれくらいの時間がかかるものなのでしょうか」
ささやく。
「それは実際にやってみないと分かりません。数分かもしれないし、100日かもしれません。宝石にはそれぞれ個性がありますので」
「はぁ、なるほど………それでしたら時間に応じて報酬を決めるというのはいかがでしょうか。時間が長くかかった時には多くお支払いするという事で。さすがに億をお支払いすることはお約束できませんけどーーー」
「話になりません」
スイリンは話を遮って言う。
「へ?」
「この国で一番有名な画家は誰ですか?」
唐突な質問にセレモニーが固まっている。
「それはベンニーでしょうか。彼の作品は凄惨な絵が多いので人によって好き嫌いは大きく分かれますが、その分だけ熱心な愛好者が多くいます」
奴隷商のウォドラーが代わりに答えてくれた。
「セレモニーさん、あなたはベンニーの絵を、それを描くのに要した日数で評価するのですか?沢山時間をかけて書いたものはその分だけ素晴らしい絵で、値段も高くなるというように」
「それは………」
スイリンもノリノリだ。
「それは違いますね。私も専門ではないが、絵の値段というのは需要と相場と絵の出来具合を見て美術商が判断したり、あるいはオークションなどで決まるはずですね」
セレモニーは混乱していてあまり言葉が返ってこないので、ウォドラーが答えてくれるのは助かる。
「それと同じことです。奇跡の石は日雇い労働とは違います。セレモニーさんが仰ったことは特殊な商品に対する価値基準として非常に適していません」
「私もそう思いますよセレモニーさん」
「いや、しかしそれは………」
「私が言っていることに間違いがありますか?」
スイリンはさらに追い詰める。
「ええと………それは確かに、それはおっしゃる通りだと思います。ですので先ほどの発言は謝罪させてください」
ウォドラーにまで指摘されて顔を赤くしているセレモニーが頭を下げた。
「それとは別の話なのですが、さきほど当日の会場にポロロッカさんはこないとおっしゃっていましたが、そうすると販売する宝石が本当に奇跡の力が宿ったものなのか、お客様には判断することが難しいと思います」
ふむふむふむ、確かにそれはそうかもしれない。いくら店員が本物だとは言っても嘘くさいかもしれない。
ささやく。
「条件次第では当日会場に行くことはしてもいいけれど、その場合は総売り上げの5割を頂かないといけないと言っています」
「ご、ごわり!?」
セレモニーは咳き込み始めた。
「それはあまりにも………」
「当日会場で宝石を買う人たちは、ただ単に宝石が欲しいわけでは無くて、先生のパワーが入った宝石が欲しいのです」
更にささやく。
「そうでなければお客さんはわざわざ会場に来る必要はなく、いつでも好きな時に好きな店で買うのです。つまり、宝石はただの脇役でしかなくて、主役は先生のパワーです。だからそれくらいは貰う必要があると先生は言っています」
「そえは、それは………それは………」
再び壊れたロボットになっている。その隙にスイリンはに耳打ちをする。
「契約の返事は今この場ですぐにお願いします。2億ゴールドか、売り上げの5割か、そのどちらかです。先生は大変忙しいのですから持ち帰って検討するとか、そういった無駄な時間をかけることはご遠慮ください」
取引の基本、それは相手よりも優位な立場に立つことだと思っていたが私は間違っていた。
優秀な相棒。
私は今まで自分一人でやって来たが、優秀な相棒がいればこれだけスムーズに事を運ぶことが出来るのだと初めて知った。
スイリン、お前は本当に優秀だ。
「さあどうするんですか、条件を飲むんですか飲まないんですか、速く答えてください!」
スイリンはテーブルを叩いた。
「もし条件を飲まないのであれば、無駄に先生のお手を煩わせた罰としまして今後の取引の一切をお断りさせていただきます!」
どうしたんだスイリン。そんなことをやれなんて私は全然指示してないぞ。というか会話の後半ぐらいからスイリンのアドリブがちょくちょく出ていた。
「ほら!早く答えてください!」
スイリンはさらに強くテーブルを叩くとものすごい音がした。
どうやらスイリンは私との二人三脚をやっているうちに、楽しくなってしまったようだ。
音に驚いてセレモニーが跳び上がったのを見てニヤリとしている。
お前、実はそんなやつだったのか………なんだか微妙な気分だが、スイリンの新しい一面を発見した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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