9話 ~語る宝石商~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
ポロロッカさんは不思議な人だ。
僕がいた奴隷商コーストラインはこの王都の中でも一流のお店で、その店主のウォドラーさんに対しては兵士の人たちも顔色をうかがいながら話しかけてくる。
それなのにポロロッカさんは対等かそれ以上にも見えるような感じで話していた。なので最初は貴族様なんじゃないかと思ったくらいだ。
それなのに宿に連れて行ってくれるときには、僕を「おんぶ」してくれた。貴族様であれば僕みたいに身分の低い人間にそんなことはしないはずで、僕は混乱してしまった。
体調が良くなって外にご飯を食べに連れて行ってくれるとき、ポロロッカさんは高そうなお店をよく選ぶ。僕なんかはお店の前を通り過ぎるだけで少し緊張してしまうようなお店でも平気な顔をして入る。
何度かはそれでお店の人に断られたり嫌味を言われたこともあるけど、その時のポロロッカさんは一歩も引かずに怒鳴ったり、あるいは投げ飛ばしたりする。
そんなことをすれば周りの人たちの注目を浴びてしまって、僕はドキドキするのだけど、ポロロッカさんは全然そんなことは気にしていないようだ。
普通の人の精神力じゃない、と思う。
やっぱり貴族様なのかなと思うけど、それなのにテーブルマナーとかはあまり得意じゃないようで、一度それを遠くから店員の人に笑われた時なんかは持っているフォークを投げていた。
普通なら届はずもないくらいの距離だったけど、その店員の人の顔の横の壁にフォークが半分以上突き刺さっていた。
これが魔法の凄い所だ。
魔法使いが物に魔力を込めると、それは立派な武器になるんだ。移動距離も速度も威力も、何もかもが普通の状態とは変わってしまう。
技術としては難しいはずだ。魔法と言うのは自分自身の体を強化する身体強化が一番簡単で、それ以外の物に魔力を通すのは難しいと言われているから。ポロロッカさんはそれを一瞬でやった。やっぱりかなり強力な魔法使いだと思う。
ちなみにその店員の人は突き刺さっているフォークを見てその場にへたり込んで、じょぼじょぼとオシッコをし始めたので、僕達はお金を払わずに店を出た。
毎日一緒にいるのに僕はまだポロロッカさんがどういう人なのか良く分かっていない。
話している最中とか、歩いている最中にポロロッカさんはよく固まる。多分何かを考えていると思うけど、何を考えているのかは分からないし、急にひとりで笑ったりもする。
分からないけど面白い。
多分何か今日も面白いことが起きると思う。
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いつもの通り朝の散歩を終え、宿で朝食を食べていると知らない子供が訪ねてきた。
「これ………」
ぶっきらぼうな感じの男の子が手渡してきたのは手紙。
話を聞いてみればこの子は奴隷商店主ウォドラーの使いらしい。小遣いを渡して帰った後で、その中を見てみれば仕事の話があるので店に来てくれないかと書いてあった。
「ウォドラーさんから手紙なんて初めてですね」
スイリンの言う通り結構意外だった。ウォドラーの店にはこれまで何度も訪ねているから用があるのならわざわざ手紙にしなくてもいいと思う。
私がウォドラーの店に行く目的は、スイリンの病気が改善していることを知らせるため。そしてもうひとつは、この世界のことを勉強したいから。
私はこの世界に生れてもう何年も経っているから、常識的なことについてはある程度は分かっているつもりだったが、王都で生活していると、それはただのつもりでしかないという事を、毎日のように実感している。
例えば法律的な事。この世界では身分の低い人間が死んでも大して捜査もされないなど、日本との差が大きすぎる。なので王都の一等地の店で店主を立派に務めているウォドラーに色々と勉強させてもらっている最中なのだ。
「すぐに行くんですか?」
そのつもりだ。今まではこちらが訪ねていくことばかりだったが、今日は向こうに呼び出されている。詳しいことは書いてないがなんだか少し気が引き締まる思いがする。
いままで私はウォドラーについては良い印象しか持っていない。それがもしかしたら今日で一変するかもしれない。
「なんかちょっとドキドキしますね」
さすがはスイリンだ、感度がいい。
感心しながら私は野菜のスープを飲み干した。やはりキャベツは野菜スープにもってこいの野菜だ。茎が甘くて美味しい。
勝負だな、そう思った。
「それじゃあ準備してきますね」
スイリンもスープを飲み干し、少し緊張した笑顔で言った。
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「ご足労かけて申し訳ありません」
奴隷商コーストラインの押戸を開いてすぐに店主ウォドラーのキレのある声が聞こえた。
「あ、どうも………」
その隣にいるのは丸い体をした眼鏡のおじさん。身なりからしてかなり裕福な人だという事が分かる。
たぶん商人だろうと思った。もしこれが貴族なんかだとしたら、会った瞬間に平民である私に頭を下げたりはしないだろう。
前にも使ったことのある丸テーブルにスイリンと共に腰掛けてしばらくしたらドアの開く音がして、そこから台車を押した美しい女性がやって来た。
心臓が高鳴る。
春風に乗って桜の花びらが舞い降りたかと思った。白銀色の髪彼女は前も紅茶を持ってきてくれた女性だ。
「こちらはこの街で宝石商を営んでいらっしゃる商人のセレモニーさんです。実は今日ポロロッカさんに来ていただいたのは、商売仲間であるセレモニーさんから是非とも「奇跡の石売り」であるポロロッカさんと商売の話をさせて頂きたいとお話を頂きましたので、勝手とは思いましたがご紹介させていただきました」
とくとくとく………とティーポットからいい香りのする紅茶がゆっくりと満たされていく。下を向く彼女の睫毛は長い。
「セレモニーと申します。ウォドラーさんが今全部言ってしまったので私が言う事はあまりないのですが、最近巷の噂で大変に力を持った石を売る「奇跡の石売り」の評判を聞きまして、ご一緒に商売ができればお互いに大きなメリットがあると思い、知り合いだと噂のウォドラーさんに半ば無理矢理頼み込んでこのような場を設けさせていただいたのです」
「セレモニーさんは王都で最近特に勢いのある宝石商さんでして、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いといった様子です」
「いえいえそんな、私など新参者でたまたま少しは上手くいっているという感じで、王都で何代にもわたり奴隷商を営むウォドラーさんには足元にも及びませんよ」
「何をおっしゃいますか。なんでも行く角も貴族方々から宝石を買いたいとお声が掛かっているとの噂は聞いていますよ」
ふたりのオジサンが笑顔で何やら言っているが正直言って全く脳に入ってこない。
何しろ私は紅茶を淹れている芳しき女性に全ての神経を集中していたから。窓から降り注ぐ光に白銀色の髪が煌めいていて美しい。陶磁器のように滑らかな指先から腰の曲線に至るまですべてを記憶したいところがだが、私には気になって気になって仕方のないことがある。
服装。
この前彼女はメイドさんだった。しかし今日は柔らかそうな素材の黒のワンピースを着ている。
衝撃だった。
本物のメイドさんだとばかり思っていたのだが、これはどういう事だろう。もちろんワンピースという服装もかなり好きなので涎が垂れそうなことは間違いないのだが、これは極めて重要だ。
メイドさんなのか、メイドさんのコスプレをしている人なのか、メイドさんのコスプレをしろと命令された人なのか。それがとにかく気になってオジサン同士の話なんか耳に入ってこない。
しかし残念なことに前回と同様に、彼女はお茶をいれてくれた後で礼をして去っていってしまった。
嗚呼、何という悲劇だ。素晴らしい時間と言うのはあっという間に過ぎ去ってしまう。この世界にも永遠は無いと知った。
彼女がいなくなってからしばらく余韻に浸った後で、ようやく話が耳から入ってきた。聞いてみれば大したことのない話のようだ。ようはこのセレモニーという男も、最近王都で話題の石売りに寄ってきたらしい。
私は黙ったままセレモニーという名の商人を見つめる。これはビジネス。こういう時には焦ってはいけない。とにかくゆったりと余裕を持って利き手に回り、出来るだけ相手に喋らせることが重要だ。
周囲を観察してみれば、隣に座っているスイリンは緊張した顔をしている。普通の子供は商談の場にいることなんかないから当たり前だろうな。
「踏み込んだ質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」
私は何も答えない。
「ええと、あのぅ………」
セレモニーが戸惑っているのは分かっているが私は何も喋らない。質問したければ勝手にすればいい。
「質問させていだきますが、奇跡の石とはずばり、ポロロッカさんの魔法の効果によるものと考えてよいのでしょうか」
確かにかなり踏み込んだ質問だ。普通なら魔法使いは自分の魔法の事を気軽に語ったりはしないはずだ。
「そうでなければ短期間でこれほどの評判になるという事はあり得ないと考えます」
このセレモニーと言う商人はオドオドしているように見せてなかなか強引だ。私は質問してもいいなどと言っていないのに、どんどん話を進めてくる。この辺りはさすがに王都に店を持つ商人と言ったところか。
「しかもここ最近は奇跡の石売りが姿をあらわす頻度が少なくなっていると聞きました」
良く調べているなと感心する。その通りだ。
「そのために評判を聞いた人が手に入れようと思ってもなかなか邸はいらないのだとか。それによって元々1万ゴールドだった石がいまや10万ゴールドにまで高騰し取引されていると聞きます」
拾った石が10万か、それは知らなかった。しかし起こっている現象自体は私の期待通り。
「そこで私が考えましたのは、奇跡の石売りであるポロロッカさんと、私どもの商売は非常に相性が良いという事です」
ウォドラーを見てみれば相変わらずの微笑みを浮かべている。この男は一体何を考えているのだろう。
もしかしたら私の役に立ちそうな伝手を繋げてあげようという親切心のつもりなのだろう。
「私は宝石商です」
ポケットからハンカチを出して汗をぬぐっている。
「ですので、どうでしょう。ポロロッカさんのお力をお借りして特別な宝石の展示即売会を開かせていただきたいと考えております。奇跡の宝石の展示即売会です」
なるほどな………。
「ですので「奇跡の力」を、私どもの宝石に付与して頂きまして、それを付加価値として大々的に販売致します。もちろんポロロッカさんにも謝礼の方をお渡しいたします」
セレモニーの前髪が汗で濡れてカールしている。
さてどうするか………。石を売るよりは宝石を打った方が高く売れるだろう。そうなれば入って来る金額も大きくなる。金は欲しい。面白いことをやるためには金が必要なのは間違いない。
ウォドラーに紹介を頼めるくらいであるから、このセレモニーと言う男の宝石店はこの王都である程度の規模の商人だろうから、今まで寄ってきた有象無象とは格が違う。
しかし根本は同じで私を利用しようとしている。
利用がされるのは良いが、良いように利用されるのは面白くない。それは私自身の感情でもあるが、見ている神様も面白くは思わないだろう。
漫画がそうだ。間抜けだったり頭が悪いキャラクターと言うのは、そうそう人気が出ないように思う。金は必要ではあるが、美味しい話に無理に喰いつかなければいけないほどは困っていない。
仕掛けてみよう。
ここは話が破談になっても構わないという覚悟で、強気の交渉に臨むべきだろう。利用するつもりで来た商人をこっちが食ってやる。それなら見ている方も面白いはずだ。
方針は決まった。
しかし私はこういう時にはあまり喋らない。
喋らないで交渉をするためにはどうすればいいか。その答えは簡単だ。私以外に交渉役をやらせればいいのだ。
適任はこの場に一人だ。
僕はこの話にはあまり関係ないです、みたいな顔をして隣に座っているスイリンの肩を指でちょんちょん叩いた。
「ふぇ!?」
驚いているその耳にヒソヒソ話を始めた。
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