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6 土曜日の昼に父さんと母さんと智花の父さんと智花の母さんと智花と僕で中華料理を食べにいった

 土曜日の昼に父さんと母さんと智花の父さんと智花の母さんと智花と僕で中華料理を食べにいった。父さんと母さんと僕は僕の家の車に乗っていって、智花の父さんと智花の母さんと智花は智花の家の車に乗っていった。

 中華料理の店は混んでいたので、二十分待った。待っている間、母さんと智花の母さんと智花はアロエの棘の話をしていて、父さんと智花の父さんはジャンプを読んでいた。僕は座る椅子がないので、立っていた。

 テーブルに案内されて座っていると、水を持ってきたチャイナドレスのウェイトレスが、後藤さん、と言った。僕は智花の父さんか智花の母さんか智花のことだろうと思ったが、智花のことだった。

 智花はウェイトレスを見た。

「レイ・ホウライ、ここで何をしている」

「ここは、ワタシの親戚が経営しているレストラン」

 レイ・ホウライは微笑んで、全員の前に水を置いた。

「後藤さんの、ご家族?」

「二人はそう。あとの三人は違う」

 智花はひとりずつを指さした。

「お父さん、お母さん、伸時のお父さん、伸時のお母さん、伸時」

「山田伸時くん。二組の」

 僕はうなずいた。

 席が空くのを待っていた間に注文する料理を決めていたので、すぐに注文した。厨房に戻っていくレイ・ホウライの脚を見ていた父さんが、水を飲んだ。

「今度、智花ちゃんにも、チャイナドレスを買ってあげるね」

「わたし、この中でおじさんが一番嫌い」

 智花の父さんが智花に、智花ちゃん智花ちゃん、レイ・ホウライちゃんは中国からの留学生なの、と訊いた。智花は首を振った。

「日本人。宝来玲(ほうらいれい)。同じクラス」

「どうして、レイ・ホウライって呼ぶの」

「なんとなく、言ってみただけ」

 レイ・ホウライが中華料理をたくさん持ってきた。僕の家族と智花の家族は中華料理をたくさん食べた。

 智花の母さんがビールを飲みながら僕に訊いた。

「伸時くんは、どうして今日は、一言も喋らないの」

「怒っているから」

「どうして、伸時くんは怒っているの」

「昨日、学校に傘を持っていったのに、智花が帰っていたから」

「わたしがいけないの」

 智花がしょんぼりした。みんなもしょんぼりした。

「わたしは、雨が上がったから、伸時はもう来ないと思っていた。でも伸時は来た」

「智花は、ここで待ってるって言ったのに、待ってなかった。僕は、使わない傘を二本持って学校に戻って、何もしないで帰ってきた」

「ごめんなさい」

「許さない」

「そんなに、怒らなくてもいいじゃない」

「もう智花には、傘を持っていかない」

「もう伸時には、傘を持って来てって頼まない」

「ばか」

「ばか」

 智花の父さんが智花の母さんに、お母さんお母さん、伸時くんと智花ちゃん、どっちが悪いの、と訊いた。

「伸時くんは、智花が思ってるよりも偉かったの。でも智花の方が、偉いところもあるの。だから、仲直りをしたほうがいいわ」

「わたしは、もともと伸時のことが好きじゃないわ」

「僕も、もともと智花のことが好きじゃない」

「ばか」

「ばか」

 母さんがため息をついた。

「あれしかないわね」

 智花の母さんもため息をついた。

「あれでいくわ」

 母さんが手をあげた。

「レイ・ホウライちゃん、長いお箸を貸してちょうだい」

 レイ・ホウライが長い箸を持ってきて、母さんに渡した。智花の母さんが肉団子の皿をテーブルの真ん中に移した。母さんが僕に長い箸を渡した。

「肉団子を二つに割って、半分を智花ちゃんに食べさせなさい」

「どうして」

「昔の中国では、仲直りのときにそうしたのよ」

「わたしは、そんな団子食べないわ」

 智花は拗ねて横を向いた。

「早くしなさい」

 母さんがテーブルを叩いた。

 僕は長い箸で肉団子を半分に割って、片方を挟んで持ち上げて、智花の顔の前に出した。

 智花は食べてくれなかった。

「智花ちゃん智花ちゃん、食べてあげて」

「智花ちゃん、伸時の肉団子食べてあげてよ」

「智花ちゃん、本当は仲直りしたいでしょ」

「あんまり言うと、智花は食べないわよ」

 ずっと腕を上げていたら、僕の腕が震えてきた。

「智花、腕が痛い」

 智花は肉団子を食べた。僕は長い箸を置いた。

「これで、仲直り」

 智花は肉団子を飲み込んで喋った。

「これで、仲直りね」

「まだよ」

 智花の母さんが僕と智花の間に手を出した。

「まだ肉団子が半分残っているわ」

「これは、わたしが伸時に食べさせればいいの?」

 智花の母さんは首を振った。

「これを智花が投げて、伸時くんがお口でキャッチできたら、仲直り成立。できなかったら、もう一回やり直し」

「難しそうだけど、たぶん、伸時はキャッチするわ」

「たぶん、僕はキャッチする」

 僕は椅子から立った。智花も椅子から立った。肉団子を手で掴んだ。

「手が汚れたわ」

「あとできれいに拭きなさい」

「はい」

「智花ちゃん、ピッチャーびびってるよ」

「おじさんは、黙ってて」

 僕は口を大きく開けた。智花は胸の前に手を合わせて肉団子を握って、振りかぶって、片足でジャンプして、腕を振った。僕はヘディングで肉団子の軌道を反らした。肉団子は窓に当たった。窓に肉片がへばりついた。

「ナイスヘッドね」

 智花は手を拭いた。椅子に座った。

「いまのは、いままでで一番いいヘッドだった」

 僕は額を拭いた。椅子に座った。

「残念だけど、ヘディングじゃ仲直りは認められないわ」

 智花の母さんが新しい肉団子を半分に割った。

「でもお母さん、伸時はサッカー部に入ったのよ」

「伸時くんは、サッカー部に入ったの?」

 僕はうなずいた。

「だったら、ヘディングの方が、なおいいわ」

「だったら、わたしと伸時は、仲直りしたの」

「智花と伸時くんは、仲直りした」

「よかったわ」



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