表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

4 学校に行く前に公園に行って死んだカラスを見てきた

 学校に行く前に公園に行って死んだカラスを見てきた。

 今日は晴れていたから、死んだカラスの毛もやわらかそうに見えた。さわったら硬くて冷たくて、目がどこにあるかわからなかった。腐敗は遠い。

 休み時間に宮下(みやした)と話していたら、宮下が、サッカー部に入らないか、と言った。

「どうしてサッカー」

「おれは三組の川口が好きだ」

「三組の川口」

川口心美(かわぐちここみ)

「三組の川口は、サッカー部なの」

「サッカー部のマネージャーだ」

「宮下は三組の川口が好きで、三組の川口はサッカー部のマネージャーだから、サッカー部に入る」

「そうだ」

「宮下は、三組の川口と仲がいいの」

「喋ったことがない」

「どうして、喋ったことがないのに、三組の川口が好きだとわかるの」

「喋ったことがないから、喋りたいと思う。だからサッカー部に入って、川口と喋る」

「なるほど」

 僕は椅子から立った。

「三組に行ってくる」


 僕は三組に入った。誰が川口かわからなかったから、近くにいた女子三人に話しかけたら、三人のうちのひとりが、あたしが川口心美なのだ、と言った。

「川口さんは、サッカー部のマネージャーなの?」

「そうだけど、きみは二組の山田(やまだ)くんね」

「そうだけど」

「四組の後藤智花さんと付き合ってる」

「そうだけど」

 川口は僕を見た。僕も川口を見た。

「今日から僕は、サッカー部に入る」

「本当?」

「宮下と一緒に入る。僕は足が速いけど、宮下は背が高い」

「あたし、宮下くんも知ってる」

 僕は二組に戻った。


 僕と宮下はサッカー部に入った。一月の新入部員はめずらしいと言われた。宮下は背が高いからセンターバックになって、僕は足が速いから右サイドバックになった。サッカー部の練習をしていたら、帰る時間が遅くなった。宮下はまだ川口と喋ってない。僕は川口とときどき喋る。

 サッカー部に入って一週間が過ぎて、僕はサッカーの練習をしてから、宮下と豚丼を食べてから、家に帰った。

 家で、父さんと、智花の父さんと、智花が、ポーカーをしていた。ポーカーで負けるとデコピンをされるから、智花の額が赤く腫れていた。

「痛そう」

「痛くないわ」

 僕は智花の隣に座った。智花の父さんが、伸時くん伸時くん、最近帰ってくるのが遅いね、と言った。僕は、サッカー部に入ったから、と答えた。

 智花が、カードを一枚すり替えた。

「だから、この頃帰ってくるのが遅いのね」

 僕はうなずいた。

「伸時は、三組の川口さんが好きなの?」

 僕は首を振った。

「僕は好きじゃない。宮下は好き」

「宮下くんは、三組の川口さんが好きだから、サッカー部に入った」

「宮下は、三組の川口が好きだから、サッカー部に入った」

「どうして、伸時は、サッカー部に入ったの?サッカーが好きなの?」

「わからない。サッカーは好きじゃない」

「どのポジションを、やっているの?」

「右サイドバックの控え」

 父さんが、父さんも昔、右サイドワックだったんだよ、と言った。

 智花の父さんが父さんを見た。

「右サイドワック?」

 僕も父さんを見た。

「右サイドワック?」

 智花も父さんを見た。

「おじさんは、いつも嘘ばかり」

 智花はワンペアで、父さんはツーペアで、智花の父さんはストレートだった。智花は前髪を手で押さえて、思いっきり目をつむった。智花の父さんが智花に思いっきりデコピンをした。父さんが智花に思いっきりデコピンをした。僕は智花に思いっきり輪ゴムをぶつけた。

「いたっ」

 智花は目を開けて、額をさすった。

「いまのは、痛かった」

「いまのは、父さんだよ」

 智花は、父さんをにらんだ。

 父さんは、トランプを配った。

「智花ちゃんも、サッカー部のマネージャーになればいいのに」

「わたしは、サッカー部のマネージャーにはならないわ」

「智花ちゃんは、どうしてサッカー部のマネージャーにならないの?」

「帰ってくるのが遅くなると、エリカの散歩に行けないもの」

 智花はストレートフラッシュで、父さんはツーペアで、智花の父さんはストレートだった。父さんは目を閉じて、服の袖を前歯で噛んだ。智花の父さんが父さんに思いっきりデコピンをした。僕は父さんに思いっきり輪ゴムをぶつけた。智花は父さんに思いっきりテレビのリモコンをぶつけた。父さんの頭からたらたらと血が流れた。

 僕は父さんの頭にティッシュを貼った。

 智花の額にもティッシュを貼った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ