3 智花がペットボトルのふたを集めているから僕も集めている
智花がペットボトルのふたを集めているから僕も集めている。
缶のジュースよりペットボトルのジュースを買うし、人が飲んでいたらもらう。ゴミ箱に入っていると拾う。三十個集まると、洗面器にお湯を張って、古い歯ブラシできれいに洗って、一日外に干してから、袋に入れて、智花の家に持っていく。
昨日で三十個集まったから、洗面器にお湯を張って、古い歯ブラシできれいに洗って、ざるに入れて外に干して、袋に入れて智花の家に持っていった。
智花は部屋にいた。星占いをしていたが、僕が入ってくると僕を見た。
「ペットボトルのふたを持ってきた」
「ちょうだい」
智花は右手と左手をくっつけて上に向けた。僕は智花の手にペットボトルのふたをひとつずつ置いていった。智花の手は小さいから、ペットボトルのふたは十四個しか載らなかった。残りの十六個は袋に入れたまま、智花の机の上に置いた。智花は手の上のペットボトルのふたを袋に戻した。
「これを見て」
智花は引き出しの中から白い紙を出して僕に渡した。紙には『後藤智花さまのおかげで2.7人分のワクチンができました』と書いてあった。
「ペットボトルのふたから、ワクチンができたみたい」
「ワクチン」
「ポリオワクチン」
僕は智花に紙を返した。智花は紙を引き出しの中にしまった。僕は絨毯に座った。智花も絨毯に座った。正座をした。
「ペットボトルのふたは、ポリオに効くの?」
「そうみたい」
「どのメーカーが、一番効くの?」
「たぶんだけど、サントリー」
「チェリオは、効かないの?」
「チェリオは、ポリオには効かない」
「チェリオは、何に効くの?」
「わからないわ」
智花の髪には、寝ぐせがついていた。僕は自分の髪をさわった。僕の髪にも、寝ぐせがついていた。
「ワクチンは、誰が使うの?」
「外国の子どもよ」
「ワクチンは、注射なの?」
「飲み物よ」
「僕と智花は、子どものころに、ワクチンを飲んだの?」
「わたしは飲んだけど、伸時は飲んでない。だからポリオになる」
「僕はポリオになる」
「伸時はポリオになる」
「ならないためには、サントリーを飲むしかない」
「そう。それも絶対じゃない」
僕は絨毯から立った。
「帰るの?」
僕はうなずいた。
「サントリーを買うの?」
僕はうなずいた。
「ワクチンを買えばいいわ」