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11 六時間目の体育がサッカーで僕は二点取った

 六時間目の体育がサッカーで僕は二点取った。一点目はペナルティエリアの左側までドリブルをしてから、ゴールの左隅に転がして入れた。二点目は左からワンバウンドで来たクロスに右足で合わせてキーパーの手をはじいてゴールの上の方に入れた。それで僕はとてもいいイメージを持ってサッカー部に行ったのに、今日の練習はコーナーキックで、レギュラーのチームが攻撃で、控えのチームが守備だった。せっかくいいイメージがあるのだから、今日は攻撃がしたかったけど、僕は右サイドバックの控えなので、守備をした。守備をしているときにキャプテンに押されたので、僕はキャプテンの目に指を刺した。キャプテンは、山田、いまはいいけど試合中にそれをするとレッドカードものだぞ、と言って目をこすった。僕は、キャプテン、僕は右サイドバックの控えなので、試合に出る前からレッドカードものですよ、と言った。キャプテンは、ちがうちがう、山田、それはちがうぞ、と言いながらヘディングをした。僕はキャプテンがヘディングしたシュートを背中でブロックした。


 家に帰る前に、宮下と森下と三人で豚丼を食べてから、家に帰った。家に入ると居間のこたつで、父さんと、智花の父さんと、智花が、三人で2001年宇宙の旅を見ていた。

 智花の父さんがテレビを一時停止して、僕にあいさつをした。

「伸時くん伸時くん、もうごはんを食べたの?」

「豚丼を食べてきた」

「おいしかったかい?」

「早かった」

 父さんが僕の肩を何回も叩いた。

「父さんは、豚丼よりも、早いぞ」

「わたし、おじさんが喋ると、何か知らないけど、いらいらするわ」

 智花がため息をついて、こたつから出て帰ろうとした。僕は歩きかけた智花の右足の靴下のかかとに、大きな穴が開いているのをみつけた。父さんと、智花の父さんも、同時にみつけた。みんなで智花のかかとを見ていたら、智花は膝を曲げて足をくっつけて、かかとが見えないようにした。

「そんなに、見ないで……」

 僕は智花の父さんを見た。

「智花の家は、意外と貧乏だった」

 智花の父さんは首を振った。

「うちは、結構金持ちだよ」

「どうして結構金持ちなのに、智花に穴の開いた靴下を履かせる」

 僕は智花の父さんの首を絞めた。

「この、甲斐性無し」

「やめて、伸時」

 智花が僕の髪の毛をひっぱった。

「お父さんは、悪くない」

「じゃあ、お母さんが悪い?」

「お母さんも、悪くない。わたしが最近買った、学校に行くときに履く靴の革が硬いから、かかとがこすれて、穴が開くの」

「あの茶色い靴が、そんなに硬い」

「あの茶色い靴は、まるで軽石でできているよう」

「そんな靴は、履くのをやめたほうがいい」

「でも、デザインがすごく素敵で、わたしは気に入っているわ」

「でも、あの靴を履いていると、靴下がもたない。やわらかい革の靴を買ったほうがいい」

「そんなの、わたしの勝手」

 智花が強い目をした。僕は下を向いた。

「おこられた」

 父さんが畳に顔をくっつけて、智花のかかとを覗こうとしていた。

「智花ちゃん、智花ちゃんの靴下の破れたところから見えてるかかと、かわいいね。ちょっとピンク色で、ぷにぷにしてそうで、すごくかわいいね。ちょっと、ちょっとだけでいいから、おじさんにさわらせて」

 父さんが智花のかかとに手を伸ばした。智花の父さんが、娘のピンチ、と言って慌てて、父さんの手を掴んだ。

 智花はさわられなくて済んで、ほっとしていた。

「おじさんは、マニアックすぎて、怖いわ。隣に住んでいることが、不安になるくらい、怖いわ」

「でも、僕も、智花の靴下の破れたところから見えてるちょっとピンク色のかかとは、かわいいと思う」

 智花は嫌そうな顔をした。

 父さんはうれしそうな顔をした。

「伸時も、父さんの気持ちが、わかるようになってきたか」

「なってきたかも」

「さわらせてもらえ」

「さわらせて」

 僕は智花のかかとに手を伸ばした。智花は僕の手を蹴った。

「この、へんたい親子」

「うへへ」

「うへへ」

「この、マニアック親子」



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