突然の出世には裏がある。 4
2025/07/08 改
『ヴァドサ・シーク隊長の苦闘の日々 ~親衛隊に任命されてからうだつが上がらなかった日々が懐かしい時がある~』を大幅に加筆修正した推敲改訂版のような感じです。大幅にリニューアルオープンという感じです。
あんまり変更が多いので、今ある話を書き直すのがかなり面倒だわ。それよりも一から書き直す方がまだましだわ、ということでこうなっています。
相当変わるため、前の文章も残しておきたいという作者の気持ちもありまして、こうなっています。
リタ族の隊員がいるから以外に思い付かないが、それだけはないはずだ。しかし、それ以外のもっともらしい理由をシークは全く考えつかなかった。
「…いえ、分かりません。」
仕方なくそう答える。
「皆が辞退したというのもあるが、それだけではない。グイニスの護衛を務めるには、まず手練れでなくてはならぬ。次にお前達が真面目だという評判だから選んだ。」
(……真面目?)
内心でシークは焦った。どういう話が流れて行ったのだろう。
「街で酔っ払いに絡まれている娘を助けたり、痴呆で家が分からなくなった老人を助けたり、人目につかないところでの真面目な働きがあると聞いている。」
シークは冷水を浴びせられたようにぞっとした。確かにそういうことはした。確かに助けた。シークもだし、隊の全員もそうだ。なかなか出世できなくても、国王軍の制服を着られるだけで憧れの対象なのだ。
だから、その誇りを失わないようにしていただけの話で、つまり、見栄のための行動でもあった。もちろん、それだけではない。部下達のやる気を失わせず、気持ちを保つために善行を積むことを積極的にさせていた。
真面目だと評されたら少し困るような気がした。もし、国王の期待に添えなかったらどうしようかと、シークは焦った。
しかし、実際の所、シークは真面目であり、彼の部隊はおおむね真面目であった。軍律も行き届いており、目立って違反する者はシークの隊は特に少なかった。人は己を基準にするため、シーク自身がいかに真面目なのか、正当に判断できていなかった。そのため、シークは自分の行動は不純な動機があると思っていたのだ。
それはそれとして、隊が真面目でなくてはならない理由。
(王子の護衛のニピ族に殺されないようにするためだろう。……大丈夫かな、あいつら。)
シークの胸の中に一抹の不安がよぎる。
「分かっているとおり、今度、お前達がニピ族の護衛の目から見て、グイニスに欲情したと思われたら殺されるのみならず、完全にグイニスの足取りがつかめなくなる。二度と我らの前に出て来ることがないだろう。そうなっては困る。だから、決して失敗するな。」
今のは国王からの命令だ。
「ははっ。承りました。」
背筋を伸ばして口を開いた。
「何か他に質問はあるか?」
王に聞かれてシークは必死に頭を巡らせた。それはもう、己の人生において今までにないほどの必死さで、頭を回転させた。
後で確認できないのである。聞きたくても、任務に出てからでは遅い。何でもいいから、とにかく考え出さなければ。そして、一つ、確認しておいた方が良いことを思い付いた。
「…もし、合流致しました場合、どこに行けばよろしいのでしょうか? 一つ所にということは、どこか屋敷に逗留できるようにされるということでしょうか?」
シークの質問に王は、あぁ、そうだった、という表情を浮かべた。
「そうだ。合流した後はノンプディ家が用意した屋敷で療養するように。後で詳しい場所は伝える。他に何かあるか?」
王が答えている間にもシークは質問を思い付いた。そして、その質問は普通の神経の持ち主ならば、遠慮してしなかっただろう。しかし、シークは自分でも思っていなかったが、以外に鈍かったのもあり、また、生来の真面目さ故に王の怒りを買うかもしれない、などと思わなかったのである。
そのため、王太子とそのニピ族の護衛がぎょっとするような質問をした。
「…その、大変、申し上げにくいのですが、もし、誰かが仮に……セルゲス公に直接的な害だけでなく、淫らな思いを抱いたとはっきり分かり、そのような行為に出た場合はいかが致しましょうか? もう、その場で処断してもよろしいのでしょうか?」
故リセーナ王妃は大変な美女だったと聞いている。その肖像画も出回っているので、見たことがある。外国の使節が王妃と知ってか知らずか、求婚して口説いたというほどだ。もちろん、使節は王妃だと知らなかったと言ったが、知らなかったわけがないと大勢の者は思ったらしい。
とにかく、王妃の美貌を一目見た結果、外国の王子が自国に帰ってから妃と離婚したとか、恋煩いになってしまったとか、そんな逸話が山ほど残っている。そんな王妃の生き写しだという王子に、淫らな思いを抱く者が出て来るのではないかと、先の親衛隊の失態を聞いてから思ったのである。
「……そうだな。」
王は一息つきながら目を瞑り、開いてからはっきり言った。
「お前の判断で処断せよ。お前に全権を与える。もし、グイニスに欲情した者がいて、そのような行為に出た場合、すぐに殺せ。王室を辱める行為だ。グイニスは私の甥である。そこは決して忘れることのない
ように。」
シークは全権を与えると言われて、かなり緊張が走ったが、さらに確認した。
「仮に貴族の子弟などが、そのような行為に出た場合は――。」
「誰であってもだ。」
最後まで言い切らぬうちに王が言った。
「誰であっても、仮に八大貴族の領主の誰かであっても殺せ。グイニスを辱める行為は私を辱めるのと同じだ。分かったな?」
隣の王太子が瞬きもせずに父を凝視している。
「は、承知致しました。」
「もちろん、あの子を殺そうとする者は尚更だ。裁可を待つ必要はない。」
まるで子を守ろうとする親のような感情が王の中に見えた気がして、シークは小さな違和感を覚えた。
(陛下は、セルゲス公を守ろうとされている。そのようにしか見えない。噂のように本音では死んで欲しいと思っているようには決して見えない。)
「それと、当然だが定期的に報告を送るように。グイニスには規定に従って、療養するようにと伝えよ。」
「はっ。」
「後はタルナスに任せる。王太子に聞け。」
王は言って立ち上がり、シークは敬礼して見送った。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語