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突然の出世には裏がある。 3

2025/07/08 改

遅くなって申し訳ありません。

「お前も噂で聞いているだろう。グイニスの容姿は先の王妃と生き写しで大変整っている。そのため、あの子に欲情したという理由で殺された。その上、護衛はグイニスを連れて行方をくらました。」


 王はこともなげに言った。行方をくらましたと。あまりに自然だったため、そこは問題点ではないのかと錯覚しそうになった。


(……行方をくらましたって、行方不明ということだよな。行方不明……。行方不明!?)


 シークは必死に考えた。行方が分からない人を一体どうやって護衛するというのか。


「…お、恐れながら、セルゲス公は行方不明でいらっしゃいますのに、どのようにして護衛をしたらいいのでしょうか?」


 あまりに子供っぽい質問だったが、本当に混乱していたのだ。王が苦笑した。


「他の隊も皆、そう言って辞退した。お前も辞退するか?」

「……そ、それは。」


 背中にすーっと汗が流れる。本当は辞退した方がよさそうだが、辞退できない空気が王と王太子から醸し出されている。


「王妃が私情のままにグイニスに刺客を送っている。私とてあの子を殺したいわけではない。」


 王の言葉にシークは引っかかりを覚えた。冷酷に甥を追いやったようにしか見えないのに、王の今の言葉には甥を慈しむ感情の欠片が見え隠れしたように思ったのだ。


「…何か方策がおありでしょうか。セルゲス公を見つけ出すための…、その、何か情報なりとも……。」


 思わず発言してからシークは後悔した。もう後には引き下がれない。やるしかないのだ。


「宮廷医が一人、後を追っている。」


 シークは耳を疑った。親衛隊でも何でもなく宮廷医が追っている!?


「まあ、カートン家の医者だが。こういう時、足が軽いのはカートン家しかいない。他の家柄の医者共はなんだかんだ言って、面倒な仕事を何一つしない。」


 カートン家、という名を聞いてシークは納得した。

 踊りの方のニピ族と契約を結んでおり、護衛して貰いつつ医師へのニピの踊りの指南をして貰う。その代わりにカートン家はニピ族をいつでも診療するのだ。そのため、カートン家は武術ができる医師が揃っている。


 他にもカートン家はまだ特徴があった。二百年間宮廷医を輩出している家門だが、他の古い家柄の家門の医者からは、毒使いだと言われて敬遠され、馬鹿にされている。

 その昔、毒と解毒薬が欲しければカートン家に向かえと言われ、暗殺の裏にはカートン家がいるとまで囁かれていたのである。


 さらに遺体を解剖することでも有名である。身元不明の遺体を発見したらカートン家に送られることになっている。誰も調査をしたがらないが、唯一、カートン家のみが引き受けて調査する。そのため、余計に嫌われる要因になっていた。


 貴族や古い家柄ほどカートン家を敬遠する傾向は強い。だが、その腕は確かで、いつでも誰でも身分に関係なく無料で診療する方針だ。これは後に王国に戦争が起きて資金の確保が難しくなるまで続いた。


 無料診療を続けるために、手広く商売も行って資金調達をしている変わった医師の家門だ。しかも、門戸を開いて学校を創設し、多くの優秀な学生を集めて医師を養成している。今やカートン家の努力の甲斐あって、庶民は医者と言えばカートン家だという認識に至り、信用されている。


「そのカートン家の医者の話によると、護衛はグイニスを連れてリタの森に行ったそうだ。どうやら、ずっとサリカタ山脈やリタの森の間を行き来しているらしい。私としては、セルゲス公に任じた以上、一カ所に留まって貰いたいと思っている。だが、刺客のせいで逃げるしかないと説明されれば、護衛を送るしかあるまい。」


 リタの森、と聞いてシークはめまいがしそうだった。

 森の子族と呼ばれる昔から山林で暮らす一族がいる。その森の子族の中で最も激しい戦闘民族として知られているリタ族が住んでいるから、リタの森だ。


 その一方でリタ族は草木に詳しく、カートン家と交流があり、コニュータという街の建設に手を貸してくれたり、街の森(街に住む人が使う木材を植林している森。薪から家の建築、船用など何でも用途別に育てる)の管理に携わったりして、最も街に出てきている森の子族でもあった。


 さらにリタ族は容姿が美しいということでも知られている。褐色の肌に灰色の目をしており、一見、男か女か分からぬような柔和な面立ちをしているが、討ち取った敵将をバラバラにすることでも有名だ。おそらく、見た目と行動がかなり違うので余計に怖れられたと思われる。


 シークの隊にも一人、リタ族の隊員がいる。もしかしたら、それで選ばれたのかもしれない。しかし、リタの森に逃げたのなら、カートン家の医者しか追っていけないだろう。そして、自分達もリタの森に行けというのだろうか。だが、広大な森をどうやって探せというのだろう。


 様々な疑問がシークの頭を巡っていた。


「そこで、私の護衛のつてで、どの辺にいるか突き止めた。」


 王太子タルナスが口を開いた。この王太子は父王ボルピスの行動に反感を持っており、王妃である母カルーラとも激しく喧嘩をするほど、両親と仲が悪いという噂だ。


「カートン家の医者の情報を元に、知らせを送って貰った。護衛が送られてくるというのなら出て来るそうだ。さすがにグイニスをずっとリタの森に隠しておくわけにもいくまい。」


 そこで、また王が口を開く。


「ところで、なぜ、お前達が選ばれたか分かるか?」



 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                    星河ほしかわ かたり

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