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突然の出世には裏がある。 2

2025/07/08 改

『ヴァドサ・シーク隊長の苦闘の日々 ~親衛隊に任命されてからうだつが上がらなかった日々が懐かしい時がある~』を大幅に加筆修正した推敲改訂版です。こちらの方が、最初に書いた時よりも読みやすく、分かりやすいのではないかと思います。

 そして、こちらの方が面白いのではないかと思っています。作者としては、こちらの方が面白いはずです。

 でも、前のバージョンを読みたい人は、どうぞお読みください。前のバージョンの方が先までありますからね! ただし、だいぶ変わっていくと思います。そこはご了承ください。

 初めて国王に拝謁(はいえつ)する。

 今の国王はいろいろあるが、国王に違いない。幼い子供の代わりに摂政をしていたが、結局王になった。以前からその役割をしていたのだから、正当な座についただけだという見方もできる。


 王位の正当性を主張する者達も大勢いるが、シークはどちらかといえば、王など誰でも良く、能力がある者がなれば構わないと思う。一応、その血筋であるというのは必要だと思うが。

 だが、その点、今の王は問題ない。なぜなら前国王の弟だ。血筋に問題はなく、その上、前国王の時代から宰相をしていたほどの実力者だ。色々と公に出来ない問題があって、その座に納まったのだろうとシークは想像していた。


 ただ、前国王の子供であるリイカ姫とグイニス王子には多少同情した。特にセルゲス公となったグイニス王子は、まだ十歳になったばかりだったので、ちょっと可哀想だと当時も思った。

 ただそれだけだった。まさか、自分の身に関係してくるとは夢にも思わず。


 国王に呼ばれたシークは久しぶりに緊張した。めったに着ない完全なる正装の軍服姿だ。副隊長のベイルは隊のみんなを集めて待機することになっている。一人、国王の御前に出るのだ。


「隊長、緊張しすぎて粗相しないで下さいよ。」

「失敬だな。そんなヘマをするもんか。」


 と言いながら、シークは床の小さな段差につまずいた。


「! だから、言ってるんですよ……。」


 隊の面々が呆れて心配する。


「ほんと、陛下の前でずっこけないで下さい。」

「いやぁ、ほんと、失敗しないように神に祈っておく必要があるんじゃ。」

「くしゃみを連発して、不敬罪で首切りとかありそうな気がする。ほら、四方将軍が来た時、廊下ですれ違った時にくしゃみして、北方将軍に(にら)まれてたじゃないすか。」


 めいめい好き勝手なことを言っている。


「おいおい、私はそんなに信用がないのか?」


 みんな、一瞬、顔を見合わせて笑い出した。


「ないっすねー。」

「模擬戦とか剣とか仕事の話は、まあ信頼できるけど、他のこととなるとちょっと……。」


 うんうん、と一同は肯定して頷く。結構な言われようで、シークは(ひたい)に手を当ててがっくりした。


「……。分かった。だったら、私が陛下の御前でヘマをしないように、天の神様に祈っておいてくれ。」


 そうやって、みんなに見送られて出てきた。

 謁見室に通されて緊張したまま、ひざまずいて国王が入ってくるのを待った。あまりに緊張していたせいか、いつもより早く足が痺れてきた上に尿意を催してきた。先ほど来る前にしてきたはずであったが。

 そして、王が入ってくる知らせがあり、王と共に、なぜか予定になかった王太子とその護衛まで入ってきた。


「お前がヴァドサ・シークか?」

「はっ、初めて拝謁致します。このたびは、拝謁の栄誉に預かり、誠に恐悦至極でございます。」

「そう緊張するな。あまりに言葉とおりに恐縮しすぎだぞ。」

 ボルピス王が苦笑した。王に苦笑されてシークはどうしていいものやら困ってしまう。礼儀やら何やら今まで学んできたものは一体どこへ行ってしまったのか、すっかり頭の中から消え去ってしまった。


「は、も、申し訳…申し訳ございません。」

「名前からして、十剣術のヴァドサ家の者だな。」

「はい、本家の五男でございます。」

「剣術の試合に出場したことはないのか?」


 内心、聞いて欲しくない話題だ。だが、仕方ない。この名前がある限りついて回る。


「残念ながらありません。」


「十剣術交流試合にもか?」


 王国で認められている十剣術が、お互いに剣術の向上を目的に行う剣術大会のことだ。十剣術交流試合になら、国王軍に在籍中でも出場は許されている。


「はい。何度か剣士に選ばれましたが、間が悪いことに怪我などで出場できなくなりまして。」


 シークは仕方なく言いたくない事実も、少しぼかして答えた。


「…そうか。それは残念なことであったな。」


 王はなんと思っただろうか。十剣術交流試合の剣士として出場したこともない者に、役目が務まるだろうかと考えるだろうか。


「話の本題に入ろう。」


 ややあって王は言った。噂とは違い、王は穏やかな口調で語る人だった。想像以上に静かな人だ。甥を引きずり下ろしたのだから、もっと過激で激しい人なのかと思っていた。


「お前の隊を親衛隊に任命する。」

「は、はぁっ。ま、誠に…。」

「待て。話はまだだ。」

「そ、それは、も…も、もうし……。」

「しばらく黙っていればよい。」


 あまりに口がもつれていたため、今まで黙していた王太子が見かねて口を挟んだ。仕方なくはっ、と言って口を閉ざす。


「護衛するのはグイニスだ。」


 王の口から出てきた王子の名前に、モナの予想通りだったなとシークは思った。


(…これは出世どころか、左遷だって言ってたやつだな。)


「グイニスをセルゲス公に任じた。そのため、親衛隊を送っていたが、問題が生じた。」


 王の話は続いているため、シークはなんとか話に集中した。今は隊のみんなに何て言うかと考えている場合ではない。


「先に送った親衛隊の三分の二がグイニスの護衛に殺された。護衛はもちろんニピ族だ。そんな芸当ができるのは、ニピ族しかいないが。」

「!」


 思わず顔を上げて王の顔を凝視してしまい、慌てて視線を戻す。

 今、とんでもない言葉が王の口から飛び出した。二つの事実が分かる。

 まず、グイニス王子にはニピ族の護衛がついていること。そして、そのニピ族の護衛(おそらくは一人)に親衛隊の三分の二が殺されたということ。一部隊は二十名なので、その三分の二となれば十二名ほどが殺された計算だ。


 ニピ族は大昔から住んでいるサリカン人の兄弟族だと伝えられている。サリカタ王国一、いや、ルムガ大陸一、と言われる武術であるニピの踊りを身につけている。


 シークの家は古い剣術流派の家柄であるため、剣術の指導をしてくれた長老が教えてくれたが、ニピ族は踊りと舞の二つに分かれており、舞の方が古い掟を守って王家にだけ仕えるという。踊りの方はカートン家と契約を交わし、その後、金持ちや貴族にも仕えるようになったという。

 舞にしろ、踊りにしろ、ニピ族は己で自分が仕える主を決め、一生をかけてその主を護衛する。(すさ)まじい生き方をする人々だ。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                                星河ほしかわ かたり

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