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魔が差すと即ち、死を見る。 10

2025/07/31 改

『ヴァドサ・シーク隊長の苦闘の日々 ~親衛隊に任命されてから、うだつが上がらなかった日々が懐かしい時がある~』を大幅に書き直しているものです。

 現在、大幅に書き足している部分です。前回ではグイニス王子の視点はありませんでしたが、今回は付け加えています。

 少年の父親が何かリタ語で言ったが、少年は青年の側を離れようとせず、マントを引っ張ったりしている。


『…おや、おや。懐かれちゃってますな。』


 とうとうベリー医師が出て行った。青年は少し困っているようだ。父親も珍しく困り顔である。


『あ、ベリー先生、この人、だれー? もしかして、グイニスの護衛の人ー?』

『うん、そうですよ。』

『ねえ、これって国王軍の制服? おれ、初めて見るんだよ!』

『正式には国王軍の中でも、親衛隊の制服です。めったに見れないよ。君はついてるね。』


 ベリー医師が側に行って説明する。少年は興奮しきりだ。


『しんえいたいって?』

『王族の護衛専門の部隊のことだ。』


 これには少年の父親が答える。


『へえ、グイニスの護衛だから、特別ってことかー!』


 少年はちょろちょろと青年の周りから離れようとしない。父親が何度かリタ語で催促するが、名残惜しそうだ。


『ねえ、やっぱり剣を抜いたらだめ?』


 少年がしつこく青年を見上げて聞いている。だが、彼は決して剣を抜かなかった。フォーリが微かに身じろぎした。きっと、フォーリも少し意外だったのだろう。あんなに嬉しそうに頼まれたら、ちょっとだけ抜いて見せる人もいるかもしれない。


『残念ながら、剣を抜いて見せることはできないな。』


 青年は少年に視線を合わせて答えた。


『それに、リタ族は強い戦士だから、知っているはずだ。』


 そして、静かに少年に言い聞かせ始める。


『何を?』


 残念そうに少年は聞き返した。よほど剣を見たかったのだろう。グイニスもちょっとだけ残念だった。


『最高に強い戦士というのは、剣を抜かなくても勝てるということだ。』

『!』


 少年が(おどろ)き、グイニスも驚いた。

 剣を抜かないのが、最高の剣士? どうして? グイニスは最近になく、他人に対して興味を持って話を聞いていた。本人は聞くのに一生懸命で、そのことに気づいていなかったが、いつも一番近くにいるフォーリはすぐに気がついた。


(……若様が、初めての人間に興味を持たれている? 確かに王妃の息はかかっていないようだが、なぜ、王妃の息がかかっていない人間を送ることができたのだろう。)


 フォーリにはその事の方が不思議だった。目の前の青年の対応が、彼の本当の姿ならば、どれほどいいだろうか。


『逆に言えば、剣を簡単に抜くのは少し精進が足りないな。お前も精進すれば、最高に強い戦士になれるはずだ。一緒にいるのは、お前の父上か?』

『うん。』

『お前の父上も最高に強い戦士だろう?』


 青年が少年の父親を褒めると、少年は嬉しそうに破顔した。グイニスには、それが青年の父親に対する世辞だと分かったが、褒められた少年は嬉しそうで、それがグイニスには羨ましくて、胸がチクリと痛んだ。


『うん! おれの父さんは最高に強い戦士なんだ! おれの自慢の父さんなんだ!』


 少年に釣られて青年も笑顔になる。楽しそうな情景を見て、グイニスは悲しくなった。自分もその輪に加わりたい。でも、そうはできない。だって、自分は――。


 フォーリが優しく背中を撫でてくれる。グイニスの気持ちを言わなくても分かってくれるのがフォーリだ。


『そうか、良かったな。そうしたら、父上の言うことを聞いて帰らないとな。』

『……うん。』


 少年の勢いが少し弱くなる。まだ、帰りたくないらしい。


『お前は街の森に住んでいるのか?』


 帰りたくなさそうな少年に対し、青年は話題を変えた。


『うん。それと、リタの森と両方だよ。おれも大きくなったら、国王軍に入るんだ!』


 将来の夢を語ることができる。

 そのこと自体が、グイニスには手の届かないことだ。将来のことを夢見てはならない。それが、王である叔父から課せられたものだ。


『そうか。そしたら、軍に入ってくるのを楽しみにしているぞ。お前がちゃんと父上の言うことも聞いて、武術も精進して強くなったら、必ず国王軍に入隊できるはずだからな。そうなれば、この制服も着ることができるかもしれないぞ。』


 すると、少年はびっくりした声で聞き返した。


『おれ、リタ族なのにしんえたいってのに入れるの?』


 それはグイニスも同じ気持ちだった。


『入れる。私の部隊には二人森の子族がいて、そのうちの一人はリタ族だ。』


 青年の言葉を聞いて、少年は興奮してリタ語で何か言った。彼の父親とベリー医師もびっくりした顔をしているようだ。たぶん、リタ族の親衛隊はあんまりいないんだろう。


『ねえねえ、今のほんと!?』

『本当だ。』


 少年はぱたぱたと飛び跳ねてから、父親の元にようやく走り寄った。親子はリタ語で何か話している。その後、父親は少年の手を繋いだ。

 親子で手を繋げる。なんて、羨ましい光景だろう。グイニスはしたくてもできない。叔父も叔母も、そんな手を差し伸べてくれない。そう考えると、胸の中がずっしりと重くなった。


『すまない。息子が迷惑をかけた。時間を取らせてしまった。』

『いいえ、大丈夫です。』


 青年は何でもなさそうに答えた。親子はベリー医師とリタ語で何か話してから行こうとしたのだが、ふと、少年の父親が立ち止まり戻ってきた。


『……聞きたいのだが、その…、君はリタ族が恐くないのか? 多くの人は大抵、リタ族と聞けば最初は怖がる。』


 グイニスにしてみれば、どんな人でも初めて話す人が恐いので、リタ族だろうがサリカン人だろうが、区別はなかった。でも、他の人達は違うらしい。リタ族は恐ろしいという。


『恐くはありません。ただ、どんな人かなとは思いますが。』


 青年の答えを聞いて、少年の父親は何か考えている様子で尋ねる。


『…その、君の部下は君の指示をきちんと聞くのか?』


 リタ族は尊敬している人の言うことしか聞かない。それはグイニスも知っていた。


『はい、ちゃんと聞いてくれます。一応、私のことを隊長と認めてくれているようです。正直者のいい若者です。』


 青年の答えを聞いて、ベリー医師の方が多少驚いていた。ふむ、とその少年の父親は頷いた。



 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

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