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魔が差すと即ち、死を見る。 9

2025/07/30 改

『ヴァドサ・シーク隊長の苦闘の日々 ~親衛隊に任命されてから、うだつが上がらなかった日々が懐かしい時がある~』を大幅に書き直しているものです。


 主人公のシークは、これから護衛する王子と対面しに来たが、その前にリタ族の親子と話をすることになり……。

 セルゲス公こと、グイニスはその様子をこっそり見ていた。ニピ族の護衛のフォーリのマントの影から様子をうかがう。


 そもそも、今日は新しい親衛隊の隊長と会う予定ではなかった。ベリー医師が新しくやってきた親衛隊と面会し、戻ってきてからどういう人達か説明し、今後どうするかを話し合って決める予定だったのだ。

 ベリー医師が長い間いなくなるので、その間、知り合いのリタ族の親子が来て一緒にいてくれた。彼らはグイニスが話せる数少ない人達の一人だ。


『まあ、本当に一応、ないとは思いますが良さそうな人だったら、ここに連れてきます。若様がいると話して、一度、先に会って貰いましょう。』


 ベリー医師は冗談のように言って行ったのに、なんと戻ってきて親衛隊の隊長を連れてきた。


『……本当に大丈夫ですか? 王妃の息がかかってないと?』


 フォーリが(おどろ)いてベリー医師に確認した。


『たぶん、あの様子はそうですな。若様の話を聞けば聞くほど、表情が曇っていって暗い顔に。たぶん、あれは心から若様に同情してるでしょうね。』

『……。演技かもしれない。』


 フォーリが疑うと、ベリー医師が軽く笑った。


『そういえば、さっき、彼は危ない発言をしてますな。王妃が目の前にいたら、剣を抜きそうだと。王宮でなくて良かったとか言ってました。』

『……は!? 大丈夫か、そいつ。曲がりなりにも親衛隊なのに。』


 フォーリが驚いている。話を聞いていたグイニスもびっくりした。みんな叔母の機嫌を取ろうとするのに、大丈夫なのだろうか。そんなことを言っていて、叔母に殺されたりしないのだろうか。


『そういうことで連れてきたわけですな。まあ、後は実際に会ってみるしかないと思うよ、フォーリ?』

『……む、ですが、ベリー先生。』


 フォーリはグイニスのことを心配しているのだ。初めての人と会うとなると、恐くてたまらない。震えがきてしまう。だから、いつもフォーリのマントの中に隠れていた。自分でもなんとかしたいと思うが、どうにもできなかった。


『そういうことならば、先に我々が会おう。』


 リタ族の父親が申し出た。


『この子は人を見抜く目がある。怪しげな者には近寄らない。』


 父親は少年の頭に手を置きながら言った。実際にそうであったので、フォーリはグイニスと一緒に遊ばせていたのだ。何度か怪しげな人物を見抜いてフォーリを呼んだことがある。


『それはありがたい。』

『では、我々は先に行こう。挨拶をしなさい。』

『うん。じゃあな、グイニス。』

『若様……。』


 フォーリに促されて、グイニスはようやく顔の半分を出して少しだけ手を出した。


『お、今日は手も出してくれたのか。』

『……う、うん。……あ、あり、ありがと。』


 少年はグイニスの手に軽く触れると、にこにこして手を振った。父親と一緒に歩いて行く。最後にもう一度だけ振り返って手を大きく振った。


『じゃあなー、グイニス! もう会えないかもしれないけど、元気でな!』


 グイニスも少しだけ手を振った。

 親子はすぐに庭の木立の向こう側に行ってしまった。別れというのは、とても悲しくて寂しくなる。


『……若様。』


 フォーリがそっと背中を撫でてくれる。


『すっげー! おじさん、国王軍の兵士!? かっこいいー! おれ、初めて国王軍の制服を見るよ!』


 その時、少年の声が響き渡った。あまりにも嬉しそうな声に、思わずフォーリでさえもびっくりして、向こう側を見てしまったほどだ。

 おじさんって誰のことだろうと思ったが、きっと、新しくきた親衛隊の隊長のことだ。少年がそんなにはしゃいだ声を上げているのを聞いたことがなかったので、少しだけグイニスは興味を引かれた。思わずフォーリのマントを握ると、フォーリがそっと聞いてきた。


『若様も向こうの様子を見てみますか?』

『……。』


 どうしたいのか自分でも分からなかったが、もしかしたら、そうなのかもしれない。さらにぎゅっと握ると、フォーリがグイニスを抱き上げた。


『へぇー!』


 向こう側からは少年の楽しそうな声が聞こえてくる。

 フォーリが絶妙に向こう側からは見えない位置に、しかし、こっちからはよく見える位置に隠れた。フォーリに抱き上げられたままだと余計に向こうの様子がよく見える。


 少年がぐるぐると一人の親衛隊の制服を着た人の周りを走り回っている。やんちゃな子犬のようだ。

 グイニスは親衛隊の兵士が誇り高いことを知っている。その誇りの高さが時に不遜な態度に繋がることも知っていた。

 だから、少年の行動に知らず緊張する。もしかしたら、怒り出すかもしれない。


『おじさん、かっこいいよ!』


 まだ、そこまで歳ではなさそうな青年に向かって、少年はおじさんを連呼した。王宮にいた頃はおじさんの親衛隊員を何人も目にした。グイニスの母リセーナの親衛隊も、おじさんだった。

 それは、まだ子どものグイニスと姉のリイカがいるので、何かあった時、子どもに慣れた子育て経験のある隊員が選ばれていたからだったのだが、グイニスはそんなことは知らなかった。


 だから、グイニスにとっても少し意外だった。想像よりも隊長が若い。

 ただ、グイニスの場合は叔母である王妃による嫌がらせがあるので、わざと若い隊長の部隊を親衛隊に任命している可能性はあった。叔母の手足となって働く貴族達がいるからだ。

 先の親衛隊も若かった。今度も若いから、余計にフォーリもベリー医師も警戒していたのだ。


『こら、おじさんというのは、失礼に当たる。』


 すると、少年の父親が注意した。


『ねえねえ、剣を抜いて見せてよ!』


 少年はお構いなしに言った。グイニスは親衛隊の隊長が怒らないか、はらはらしたが彼は怒らずに穏やかに少年に言い聞かせる。


『…残念だが、それはできない。剣は危ない武器だ。』


 親衛隊の隊長が答えると、少年は明らかに残念そうな顔になった。本気で剣を抜いて欲しかったようだ。


『えぇー。』


 少年が残念がる。ただ、その気持ちはグイニスにも分かる気がした。グイニスはおじさんの親衛隊員しか見たことがなかったし、この間の親衛隊員達は、制服に着られていて品もない感じがした。じきにいなくなったのは、本当は親衛隊員じゃなかったのかもしれない。 今日の彼は、確かにかっこいいと思う。制服が似合っていて、品性も感じられた。そんな人が剣を抜いて立っていたら、さぞかし絵になるだろう。



 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                            星河ほしかわ かたり

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