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魔が差すと即ち、死を見る。 5

2025/07/17 改

『ヴァドサ・シーク隊長の苦闘の日々 ~親衛隊に任命されてから、うだつが上がらなかった日々が懐かしい時がある~』を大幅に書き直しているものです。大鉈を振るっているので、だいぶ変わってきました。


 主人公のシークは護衛する王子の主治医と話し合い中です。

「どうかしましたか?」


 ベリー医師が考え込んでいるシークに尋ねた。


「いくつか、気になることがあるので。」

「なんでしょう?」

「まず、一つ目。セルゲス公は悪夢を見られた後、悪夢の内容を覚えておられますか? もし、覚えている場合、起きてからも恐くて動けないなどあるかと思いまして。」


 シークの質問をベリー医師は意外そうに聞いていた。


「……いえ、今の所、悪夢を見ても忘れているようです。」

「良かった。」


 思わずシークは漏らした。


「……良かった?」

「…すみません。悪夢の内容を覚えていたら、とても辛いことだと思いましたので。」


 シークの返答を聞いてベリー医師は頷いた。


「まったく、その通りです。」


「もう一つは、セルゲス公からベリー先生とニピ族の護衛を離さないように、護衛をする必要があるなと。三人まとめて護衛し、先生方を戦力として考えてはいけないと思いまして。そのため、護衛の隊形などもよく考える必要がると思います。できれば、直にセルゲス公のご様子を確認するのが一番なんですが……。」


 できないのだから、しょうがない。ベリー医師の話から判断するしかない。


「集団体系は恐いんでしょうか? やっぱり、セルゲス公からしたら、見知らぬ大勢の男に囲まれるわけでしょう。ある程度、距離は必要でしょうか?」


 考え出すと次々に疑問が湧き出てくる。


「…もしかして、馬車は苦手でしょうか? 馬での移動は開放的ではありますが、天気が悪いと移動できないという点が問題です。療養する必要があるのに、雨でもマントで移動して風邪を引いたら大変ですし。」


 ベリー医師はびっくりしたようにシークを見つめていた。


「やっぱり、どうしても囲う隊形にする必要がありますから、セルゲス公に信用して貰えないと、怖がりますよね? ただ、危険が生じた場合に囲わないわけにいきませんし……。少しは仲良くなっておかないと、まずいでしょうか? なんか、おもちゃとか人形とか持ってくれば良かったな。」


 後半は独り言のようになっていた。


「……先生?」


 あまりにベリー医師が黙っているので、シークは聞き返した。


「ああ、いや、失礼。それで、あなたはなぜ、セルゲス公が馬車に乗るのが苦手だと思ったんです?」

「いや、先ほど、監禁されていた話を聞きまして、きっと、狭い場所は苦手だろうと思いました。苦しくて辛い体験を思い出すだろうと。それに、人と話すのが苦手なようですし、大勢に囲まれるのは、きっと緊張するだろうと思います。」


 すると、ベリー医師が笑った。自然に思わず笑ってしまったという感じだ。


「まさしく、その通りです。実は鍵の音と金の音も苦手です。鍵は閉じ込められる時の音、鐘の音は虐待が始まる時の音でしたので。」

「…なんてことだ。」


 話を聞けば聞くほど、シークは王子が気の毒になった。そんなことをされれば、周りの大人はみんな自分に対してひどいことをする人だと思わないだろうか。悪い人ばかりではないと教えてあげたい。

 それに、そんな子がちゃんと無事に大きくなれるだろうか、とても心配である。


「どうしました?」

「いえ、王子かどうかという以前に、そんなに酷い目に遭っていた子がちゃんと大人になれるのか、心配になりまして。生きること事態投げやりになったりしないかと思ったので。」

「その通りです。常にその心配はついて回ります。“自分のせいで”が“自分が生きているせいで”こうなってる、犠牲が出てる、そう思うと危険です。フォーリは有能ですが、やはり一人では限界がありますから。」


 それはそうだろう。どんなに有能だろうとも、人間である以上は休む時間は必要だし、便所にも行かなくてはならない。

 ベリー医師は言った後、何やら一人で真剣に考え込んでいたが、やがて意を決したように頷いた。


「では、今からセルゲス公とフォーリに会って頂きます。」 

「はい、分かりました。」


 と答えてから、シークはベリー医師を凝視した。


「! え、リタの森にいらっしゃるのでは?」


 すると、ベリー医師は深いため息をついた。それはもう、底が分からない沼地のように深いため息だった。


「なんとか、フォーリを宥めすかしてリタの森から出してきました。私がいない間に、さらに奥に行かれたらたまったもんじゃない。そうでなくても、私の隙を突いて、いつの間にかリタの森に行ってたのに。探すのがどれほど大変だったか。その前はサリカタ山脈で、本当に大変だった。とにかく、道なき道を行ったり来たりしないで欲しい。私の安寧のためにも。」

「……。」


 返事のしようがない。シーク達の代わりに苦労してくれたのだ。


「実は今、若様には……。あ、セルゲス公のことを“若様”と呼んでください。妃殿下が“殿下”と呼ぶなと我がまま言ったせいで、若様は“若様”と呼ばれないと、非常に不安がります。妃殿下に“殿下”と言った人が殺されやしないかと。」

「……分かりました。気をつけます。」


 なんていうことだろう。十三歳か十四歳の少年がする心配ではない。


「それで、若様にはコニュータではなく別の隣町にいることにしてあります。街と言えば建物があり、建物は閉じ込められる場所、と記憶づけされてしまっているので。大きな街ほど緊張します。大きな街ほど、多くの人と会わなければなりません。人と話せば、自分が何か悪く言われるのではないか、心配なのです。言葉の暴力も相当あったようで。人と話すことは勇気がいることなのです。」


 注意を受けてから、ベリー医師はシークを案内するために歩き出した。

 シークは思ったよりも早く、セルゲス公と面会することになったのだった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                    星河ほしかわ かたり

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