プロローグ〜シュナイザーの信念〜
1000年もの長い年月をかけ未だに続いている魔王と人類との大戦争。
その最前線である"ゴッドランド"では、世界中から集まったそれぞれの力を持つ魔術師達が死闘を繰り広げながらも人類の勝利を掲げて戦い続けている。
しかし人類の全体の約半分はマナを持たない人間であり、少しでもマナを持っている人間は全員魔術師になるための教育を義務としていた。
その教育機関である"塔"を、世界中の各地に配置しそこでマナの持つ6歳以上の子供達を教育する制度が開始された。
そしてある3人の魔術師はグリーンバーグにある塔で20人の子供達に魔術を教えていた。
その魔術師の中でもウィリアム・リック=シュナイザーは教え子達からも、その土地の住民からも絶大の人気と信頼を集めた。
それもそのはず、ウィリアムは世界の魔術師の中でも指折りの実力者だった。
子供の扱いに慣れず苦労は絶えないが、周りから重宝され充実した日常を過ごしていた。
そんなある日、塔の入口に横たわる1人の女の子が居た。
なぜここに横たわっていたのかは分からないが、とにかくお腹が空いているようだったので塔の中へ入って食べるものを用意してあげると、バクバク食べた。
誰も取ったりしないというのに。
名前を聞くと、ギアム・リア=チェーンという7歳の少女だった。
その子はマナを持っていた。
そして行く宛てのない魔術師の卵をこの塔で育てることにした。他の教え子達もその子のことを快く受け入れてくれて、同い年ぐらいの子達もたくさんいたからかすぐに打ち解け、馴染んでいった。
ギアムは、同い年の子達の中でも一番魔術に精通していて適応力のあるジュラクよりマナが多い。
なんなら私より多いほどだ。
実力はジュラクや先に塔に入ってきた子達よりはまだまだだが、将来はものすごい魔術師になるに違いない。
老後がとても楽しみだ。
月日は流れ、6年が経過した頃、塔の子供達はすくすくと成長していった。
そうだ、あの子達にもそろそろ黒魔術を教えなければ。
マナレベルももう大体最大値にまで来ている子も居るし、最近はヤンチャ行為をする頻度も減ってきた。
皆も大人に近づいているということだ。
一年前から教育機関内で、「非人道的でおぞましい黒魔術を子供達に教えるのは如何なものか」という考え方が広まってきているが、私は黒魔術こそ伝承して行くべきだと思っている。
私は黒魔術かどれほど脅威的で恐ろしく、強力な魔術なのか、よく知っている。
伊達に子供達に白魔術や黒魔術を教えてきた訳じゃない。
それを覚え、身に付け、身体に馴染ませていくのがどれだけ大変なことか。どれだけの時間と労力を使うのか。
黒魔術はとても繊細なものだ。
選ばれし者しか上手く扱う事はできない。
だからこそ人類には欠かせないのだ。
黒魔術は私達、人類を救うものなのだと、私はそう確信している。
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3年後、様々な問題のあった塔制度は廃止され、学制が施行された。
マナの持たない子供も義務教育を受け、マナの持つ子供は義務教育を受けたあと魔術学校に進学する義務が課された。
そして黒魔術反対勢力の影響が強くなり、人々は皆黒魔術、黒魔導師を毛嫌いするようになった。
黒魔導師は社会的な立場が危うくなるため、自らが黒魔導師であることを隠すようになった。
ギアム・リア=チェーンもまた、その1人である。