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99話 デート

 次の休日。

 優奈は智香を誘い、商業区の水族館へとやって来ていた。


 魚ロボットが泳ぐ水槽を二人で観る。


「今更言うまでもないけど、全部ロボットなんだよ」

「へー」


 智香の気持ちを知った優奈が仕掛けた行動は、デートの誘いであった。

 無論、監視カメラで知ったことは言えない為、優奈はデートとは言わず、遊びとして誘った。


「付き合わせて、ごめんね。あんまり興味ないでしょ」

「ううん。お魚いっぱい泳いでて綺麗だと思うよ」

「でも、ほんとは?」

「興味ない」


 本音を聞いた優奈が笑うが、智香は続けて言う。


「でも普段見ないものだから、つまんなくはないよ」


 智香は気を遣ってくれていた。

 優奈も最初は智香の趣向を考えてデートプランを練ろうとしたのだが、智香の趣味に合わせると、デートスポットとは程遠い場所しか該当しなかった為、諦めて普通のデートプランを実行することにしていた。


「お魚観てると潜水艦のゲーム思い出す。お宝サルベージするやつ。優奈ちゃんと一緒にやったことあったっけ?」

「いや、記憶にない」

「あぁ、夏休み一人でやったんだった。今度一緒にやろ。楽しいよ」


 結局はゲームの話になってしまい、ムードの欠片もなかった。

 遊びとして誘ったので当たり前であったが、優奈としては、それでは困る。


「ねぇ、あれ見てごらんよ」


 何とかしてムードを出したかった優奈は、智香にイワシの水槽を見せる。

 そこではイワシが群を成して、竜巻のような形を作りながら泳いでいた。


「わぁ、凄い」


 その圧巻する光景に、水族館に興味のなかった智香も見惚れる。


「綺麗……」

「君の方が綺麗だよ」


 智香が呟くと、優奈はその言葉を待ってましたと言わんばかりに言った。


「それ、前に麻衣ちゃんにも言ってなかった?」

「うぐ……」


 二番煎じは効かなかった。


「これも全部ロボットなんだよね? 逆に、お金かからない?」

「そうでもないよ。短期的に見たら魚の方が安いけど、生き物は寿命があるし、餌も必要。ロボットなら、ずっと変わらないからね。エネルギーも無料みたいなものだし」

「そっか。生き物だと死んじゃうもんね。あ、だから臭くないんだ。水族館とか動物園行くと、毎回臭いって思ってたけど、ここ全然臭いしない」

「そう。水も完全な純水だから腐ることもないんだ」

「凄いね。実は水族館にあんまりいい印象なかったけど、ここならいいかも」


 興味ないどころか苦手なところへと連れてきてしまっていたことを知った優奈は、地味にショックを受けるが、快適な環境のおかげで悪印象になることは避けられた。



 続けて、二人は哺乳類のコーナーへと入る。


「あ! ラッコだ」


 ラッコロボットを見つけた智香は、ラッコの水槽へと駆け寄る。


「ラッコは好きだよ」

「可愛いよね。ラッコとかアザラシとか」

「アザラシはあんまり」

「そう?」

「前は私も可愛いって思ってたけど、この前、理沙ちゃんと好きな動物の話した時にアザラシの話が出て、目が真っ黒でエイリアンみたいって言われてから、何か気になっちゃって」

「言われてみれば……」


 ぬいぐるみ好きの理沙は動物のことも、しっかり見ていた。


「ラッコは理沙ちゃんも、ぬいぐるみみたいで可愛いって言ってたよ。海に居る生き物の中だと一番可愛いよね。仕草も……あ! ほら!」


 ラッコは顔をモミモミと手で揉む仕草をする。

 中身はロボットだが、本物の動きは完全再現していた。



 二人して微笑ましく眺めていると、もう一匹が近づいて来て手を繋いだ。


「これこれ。ラッコは寝る時、手繋ぐんだよ。可愛いでしょ」


 智香はラッコを見て色めき立つ。

 先日、理沙とラッコの話で盛り上がっていたことで食いつきが良かった。


 優奈はさり気なく手を伸ばし、智香の手を握る。


「あ……ふふ」


 手を握られたことに気付いた智香は、ラッコの真似だと思って笑う。

 だが、おどけたりせず無言で繋ぎ続けると、智香の顔は次第に照れた表情になって行く。


 周りに人はいない。

 水族館は夏休みの中旬からオープンした場所であるが、基本的に静かに鑑賞するところであったので、遊び盛りの子達にはあまり人気がなかった。


「ねぇ、お小遣い稼ぎしない?」

「優奈ちゃん、キスしたいの?」

「うん。ダメかな?」

「しょうがないなぁ」


 智香は優奈の正面に回ると、躊躇いなく口づけをする。

 もう何度もしていたので慣れたものだった。


 そのままキスを続け、暫くしたところで唇を離す。


「これからは、お金なしでいいよ」

「え、何で?」

「貰い過ぎちゃったから。一回千円はやっぱり多いよ。欲しい物は大体買えちゃったし、貰い過ぎた分、還元って訳じゃないけど、お礼に、これからはタダでするよ」

「そんなこと言うと、しまくっちゃうけど?」

「どうぞ」


 智香が笑顔でオッケーを出した為、優奈はすぐにまた、その唇に吸い付いた。


(これはもう実質落とせているのでは?)


 いつでも好きにキスできる。

 それは最早、ただの友達という関係ではなかった。


 それからも優奈は智香とイチャイチャしながらデートスポットを巡った。




 日が暮れ、夕食時になった為、優奈は智香を連れて商店街の一角にある高級レストランへと足を運んだ。


 二人が座るテーブル席に、フレンチのコース料理が運ばれてくる。


「わ、高そう」


 まずはお通しのアミューズからだったが、それだけでも非常に高級そうな雰囲気を醸し出していた。

 優奈がデートの勝負として選んだお店だったので、値段は商店街の飲食店の中でも上位の高さであった。

 その為、店内に他の客は一人もいない。


「奢ってあげるから安心して」

「ううん。自分で払うよ」

「遠慮しなくていいよ。今日は付き合ってもらったから、そのお礼だと思って」

「私も楽しませてもらったからいいって」


 智香は頑なに奢られることを拒否する。

 その態度は以前とは違っていた。

 これまでも遊びに出かけた際は個別で払うのが普通となっていたが、それは三人で出かけた時だけで、麻衣がいない時は割と智香は奢ってもらっていた。

 それが今日になって急に変わったのだ。


 キスでのことも含め、突然お金を受け取らなくなった智香。

 その理由は智香の優奈に対する気持ちの変化である。


「分かったよ。自分の分は自分で払うことにしよう」


 智香の気持ちを察した優奈は折れる。

 好きな相手に金銭負担を掛けさせなくないのなら、その気持ちを尊重しなければならない。



 奢りではなくなったことで、気楽になった智香はメニューを取って見始める。


「ワイン頼んでもいい?」

「あー、えー……出来たら今日は止めて欲しいけど」


 酔ってしまってはムードも何もなくなってしまうと思った優奈は難色を示す。


「じゃあ諦める」


 意外なことに智香はあっさりと諦めた。

 冗談だったのか、残念がる様子もない。



 智香は料理を食べながら周りを見回す。


「この店来る子って他にいるのかな? 今は誰もいないけど」

「入り易そうな感じの店でもないし、いないんじゃないかな」


 今のところ利用者は優奈と智香の二人以外なかった。

 価格もそうだが、お店自体が大人の雰囲気で、女の子達には非常に入り辛いからである。


「優奈ちゃんって結構チャレンジャーだよね。バーやカラオケの時も最初から平然と入ってったし」

「そうかもね。全部、私達の為に作られたお店だから気にすることもないんだけど」

「それでも、やっぱり入り辛いとこは入り辛いから凄いと思うよ」


 智香は尊敬の眼差しを優奈に向ける。

 その瞳には尊敬以外の熱も籠っていた。


「だったら、これからも私がエスコートしてあげる」

「その言い方だと何だかデートみたい」

「デートだよ」

「え?」

「私は最初からそのつもりだったけど? 二人きりで手繋いだし、キスもしたじゃん」

「えっ、えー……。でも、そんなのよくしてるじゃん。今日は偶々二人で遊ぶことになっただけで」


 口では認めようとしない智香だが、モジモジしていて満更ではなかった。


「偶々じゃないよ。智香ちゃんと二人だけで楽しみたかったから誘ったんだ。デートって言ったの、本気だよ」


 優奈は真面目な表情で、智香を見つめながら言った。

 智香は益々照れ、顔を赤くさせるが、そこでハッとすると喜んでいた顔が、みるみる表情が曇り始める。


「麻衣ちゃんから何か聞いたの?」

「? 何が?」

「……」


 優奈が恍けると、智香はそれ以上何も言わず、黙りこくった。

 それから優奈が話しかけても返事はなく、気まずい空気の中、食事が続き、食べ終わったところで即座に智香が立ち上がる。


「今日は楽しかった。ありがと」


 一言残して、逃げるように、その場から去って行った。






 寮の麻衣の部屋。


「むむむ……」


 麻衣は勉強机の前に座ったまま、頭を悩ませていた。


「二人が付き合ったら私、邪魔になるわよね。あの二人が邪険にしてくるようなことはないと思うけど、一緒に居たら居たで私まで汚染されそうだわ……」


 そう思った時、麻衣の頭に夏休みの終盤、甘味処で食べさせ合いをした時の光景が思い浮かぶ。


「もう汚染されかけてる!?」


 違和感なく受け入れていた自分にショックを受ける。


「あーもう! 余計に悩み事が増えたじゃないの」


 智香が目覚めかけたことで、麻衣は未だ苦悩していた。



 その時、玄関の扉が開く音がした。

 音に気付いた麻衣が扉の方に目を向けると、ドシドシと足音がして、部屋の扉が開かれる。

 姿を見せたのはムッとした顔をしている智香だった。


「智香?」


 智香は明らかに怒った様子だった。


「麻衣ちゃん酷いよ! 何で言うの? 信用してたのに」

「何? 一体、何のこと?」

「私が優奈ちゃんを好きになったこと、本人にバラしたでしょ!」

「言ってない言ってないっ。誰にも言ってないわよ」

「嘘。優奈ちゃん知ってたもん。麻衣ちゃんにしか言ってなかったのに……!」


 智香は半泣きで麻衣を責め立てる。

 優奈に知られたのもそうだが、何より仲の良かった友達に裏切られたことがショックだった。


「本当に言ってないってっ」

「恍けないでよ! 今日、デート誘われたの! デートスポットみたいなところ一杯巡って、最後は高そうなレストランで口説かれて、明らかに知ってる感じだったもん」

「えっ……」


 麻衣は慌てて自分の記憶を辿る。

 しかし、身に覚えは全くなかった。

 智香に知らされた日の帰りに、優奈に出会ったことも思い出すが、漏らすようなことは言っていない。


「何で黙ってるの? どうせ気持ち悪いとか思ってるんでしょ! 麻衣ちゃんずっと、優奈ちゃんの趣味のこと悪く言ってたもんね!」

「そんな悪くだなんて……」

「自分は男嫌いだとか言ってた癖に。地上に居た時に、嫌なことされたとか言ってたけど、本当は喜んでたんじゃないの?」

「はぁ!? 喜んでなんかないわよ! 信じられない。言っていいことと悪いことがあるでしょ!?」


 責められる一方だった麻衣だが、智香の言葉が逆鱗に触れた。


「言ったらダメなこと言ったの麻衣ちゃんじゃん!」

「だから、言ってないっつーの! 勝手に決めつけてんじゃないわよ。この馬鹿!」

「馬鹿って……他人の秘密バラしておいて、それ? もういい。麻衣ちゃんなんて絶交だから!」

「こっちのセリフよ。もう二度と喋りかけて来ないで」


 智香は背を向け、麻衣の部屋から出て行った。


――――


 隠し部屋のモニタで、その様子を見ていた優奈。


(あわわわわ。大変なことになってしまった)

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