92話 キッズパーク2
一頻り遊んだ優奈達は下級生三人組と別れてエアードームを出る。
「あの三人、皆いい子で可愛いわね」
「でしょ。麻衣ちゃんも、やっと分かってきたようだね」
「優奈が思ってる感情とは違うから」
麻衣が抱いたのは小動物や赤子を可愛がるような感情で、優奈が抱く愛欲に満ちた感情とは似ても似つかなかった。
「つれないねぇ。でも、あの三人組って私らみたいで親近感湧かない?」
「分かる。タイプは違うのに噛み合ってる感じなのが似てるわよね。うちら程ヤバくないと思うけど」
「え? 私達ってヤバいの?」
「普通にヤバいわよ。レズの変態にズボラアル中でしょ。真面なの私くらいよ」
「それ言ったら麻衣ちゃんも大概だよ。くじで破産したり、お金に執着してたり、簡単に乗せられてパンツも見せちゃったりもするし」
「うぐ! ……この話題止めましょ。心が抉られるわ」
優奈の反撃で一撃ノックダウンした麻衣は話を終わらせ、三人は次の遊具へと向かった。
次に優奈達がやって来たのは、壁際に作られたボルダリング場。
壁に沢山の出っ張りがついており、そこでボルダリング、ロッククライミングが出来るようになっていた。
「……結構な高さあるわね」
ボルダリングの壁は施設の天井付近にまで続いていたので、ちょっとしたビルレベルの高さがあった。
「怖い?」
「こ、怖くないわよ。ただ、落ちたら怪我が心配って思っただけ」
「その点は問題なし。そこの命綱リングをつければ、天辺から落ちても怪我なんてしないよ」
優奈が指さす先には、リングが沢山入ったケースがあった。
ケースの上には、登る前に必ず両手足に着用するようにとの注意書きがされている。
三人はそこへと近づき、リングを手に取る。
「これが命綱?」
そのリングは、ただの腕輪にしか見えなかった。
「それつけて、試しにジャンプしてごらん」
優奈に言われ、麻衣は試しに自分の手足にリングをつけてジャンプしてみた。
普通に跳び上がったが、落下の瞬間からスローモーションになったかのようにゆっくりとなる。
「何これっ。凄っ」
「磁力の反発を利用した重力軽減装置だよ。落ちる時だけゆっくりになるから、一番上から落ちても怪我しないって訳」
「おもしろー。これだけでも遊べるわね」
麻衣はジャンプを何度もして、リングの効果で遊ぶ。
「ちょっとちょっと、ここはボルダリングがメインなんだから、まずはこっちをやろうよ」
「あはは、そうね」
優奈と智香もリングをつけ、三人は壁を登り始めた。
出っ張りを掴み、どんどん上へと登って行く。
「これ、紐がついてないから、何もつけてないみたいで怖いわ」
「スリルがあっていいよね」
「こういうスリルはあんまり求めてないわ。落ちないってのは分かってるけど、いきなり手滑らせたりしたら……きゃっ」
言った傍から麻衣は手を滑らせて、壁から落ちる。
「おっと」
だが、落ちるスピードが遅い為、隣に居た優奈が咄嗟に麻衣の腕を掴んで助けた。
「ほらー。いきなりだと死ぬかと思って、ほんと吃驚するわ」
「それも面白さってことで」
「普通に心臓に悪いわ」
安全は保障されていたが、その方法がハイテク過ぎて実感し辛かった。
「麻衣ちゃん麻衣ちゃん。ファイトー」
「?」
麻衣は優奈が何をしたいのか分からず首を傾げる。
「そこは、いっぱーつでしょ」
「何それ?」
「あっ、知らないのか。もうCMやってなかったもんな」
通じないことが分かった為、優奈は普通に麻衣を上げてリカバリさせる。
麻衣達は訳が分からなかったが、またいつものことかと思い、気にしなかった。
それからも登り続け、三人は上層部へと到達する。
「ぜぇぜぇ……」
只管、登り続け、麻衣と智香は息を切らせていた。
「ねぇ、思ったんだけど、遊びに来たのに何で、こんな大変なことしないといけないの?」
「私は最初から思ってた」
二人は登ることへの楽しさを見出せず、ただ疲れるだけだった。
「大変だけど、登り切れば達成感を味わえるんだよ。もうすぐ頂上だから、あとちょっと頑張ろ」
「何で優奈が一番元気そうなよ。他の人より体力ないはずでしょ」
「二人のパンツ覗きながら登ってたら、あんまり疲労しなかったみたいな」
「……聞いて損したわ」
優奈のおかしな生態は、一般庶民には到底理解できるものではなかった。
「達成感とかどうでもいいから、私もう降りるわね。こんなところで体力使ってたら、他で遊べなくなるもの」
「私も、もういいや」
麻衣と智香は手を離して落下を始める。
「えぇー、下からのアングル、良かったのにな」
パンツが覗けなくなった為、優奈はあっさり登るのを止めた。
三人でゆっくり地面へと落下する。
「こっちの方が圧倒的に楽しいわ」
リングの効果で降りるその様子はスローのスカイダイビングをやっているみたいであった。
「うん。これやる為なら登ってもいいかも」
遊びを意図して作ったものではなかったが、二人は降りる方が気に入ったようだった。
下まで降りてボルダリングを終えた三人は、またすぐに他の遊具へと向かった。
それからも色んな遊具を遊び回り、疲れてきた三人はボールプールで休憩をする。
「はー、遊びまくったわ。年甲斐もなく、満喫しちゃった」
「あそこ面白かったよね。傾いてる塔、歩いて上ってくやつ」
「あれ、床は真っ直ぐなのに壁が斜めだから、感覚おかしくなるわ」
ボールプールに身体を埋めながら、遊んだ遊具の話に花を咲かせていた。
喋っていた麻衣が、ふと視線を下に向けると、スカートが捲くれ上がった智香の下半身が見えた。
だらしなく股を広げてボールプールから出していたので、パンツが丸見えになっていた。
麻衣は徐にポケットからカメラを取り出すと、智香のパンツにレンズを向けてシャッターを切った。
「これで十円?」
「友達を売るなんて酷い奴だなぁ」
「優奈から言ってきたんでしょ」
優奈はそんなことを言いつつも、財布から十円を取り出して麻衣に渡す。
「ここで智香の撮りまくったら無限に払うの?」
「同じアングルのはダメ。アップしたり、見えてる部分が違うのじゃないと、同じ子のは買い取れないね」
「むぅ、面倒臭いわね」
「自分の撮れば? 自分のなら、ちょっと手動かすだけで色んなの撮れるでしょ」
「そんなんでいいの?」
「うん。自分で撮ったパンチラ写真って、何かエッチじゃん」
「……その言葉聞いたら、急に撮り辛くなったわ」
軽く考えていた麻衣だが、自分のパンチラ写真を優奈が、どんな目で見るのか理解して急に及び腰になる。
「大丈夫、大丈夫。ほら、撮って」
優奈はニヤニヤしながら撮るように促す。
「やっぱり止めるわ。撮ったら、それ以上のものを失う気がするから」
「ちぇ。つまんないの」
麻衣は撮影自体するのを止め、カメラをポケットにしまった。
「にしても、ほんと楽しいわね、ここ。また今度、連休の夜中にでも行きましょうか」
「何で夜中?」
「他の時間は下級生いるじゃない」
キッズパークの遊具を存分に堪能した麻衣だが、子供っぽい遊具のところは人目が気になって、全力では楽しめなかった。
「そんなの気にしなければいいのに。私達も、まだまだ子供だよ?」
「自分で子供とか言う? 子供は子供だけど、高学年として気にするものは気にするわよ」
「そういうもんかね。私には全然分からないけど」
「優奈は羞恥心も何もなさそうだものね」
「何おう!?」
優奈はふざけて隣の麻衣に覆い被さった。
そして腰をカクカクと振り始める。
「だから、それは止めなさいって!」
「ぐはっ」
麻衣は蹴り上げて、優奈の身体を引き離した。
「ある意味、あんたが一番子供っぽくないわ。悪い意味でだけど」
「その言葉は聞き捨てならないね。私は子供だー!」
「何の意思表示よ。もう訳分からないわ……。兎に角、次行くときは夜中ね」
麻衣は余程気に入ったようで、強引に次行く約束を交わす。
その後、休憩を終えた三人はまた遊具で遊び始め、日が暮れるまで遊び倒した。