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84話 追跡の果てに

「くそー、せっかく捕まえられそうだったのに」

「仕方ない。そこの先、ショートカットできるから次で決めよう」

「ああ」


 再度挟み撃ちをやるべく、真琴は横道へと入る。

 優奈はそのまま智香の後を追うが、その表情からは疲労の色が見えてきていた。


「はぁはぁ……」


 前を走っている智香はまだ元気一杯な為、二人の距離が徐々に離れてきてしまっている。


(疲れてるのは思い込みだ。私はまだまだいけるはず……!)


 優奈は自己暗示するように自分を鼓舞して気合いを入れる。

 体力も身体能力も根本は皆と変わらない。

 疲れているのは、昔の身体の感覚に引き摺られて思い込んでいるだけである。



 疲れを無視して必死に走っていると、先回りして来た真琴が智香の前に飛び出た。

 前を塞がれた智香は慌てて足を止める。


「さっ」


 真琴は両手を広げてガードする。


「ぜぇぜぇ……」


 優奈も息を着させながらガードのポーズを取った。

 前方の真琴と後方の優奈を交互に見た智香は、後方へと走り出し、優奈の横をすり抜けた。


「あっ」


 そのまま智香は先へと逃げて行く。

 二人は慌てて、その後を追う。


「ご、ごめん。大分疲れてて……」

「相変わらず体力ねーな。やれるだけカバーはするから、次で捕まえられるように優奈も力振り絞ってくれ」

「うん。頑張る」


 再び脇道へと入る真琴。




 暫く追いかけていると、今度は智香が横道の前を通る直前のところで、真琴が飛び出してきた。


「わー」


 走る智香に抱き着き、拘束しようとする。


「やだー」


 智香は拘束から逃れようと抵抗する。

 真琴も逃さないよう必死に食らいつくが、その時、藻掻いていた智香の拳が真琴の目の前に近づいた。


「うおっ」


 当たりそうになった訳でもなかったが、真琴は驚いて引っ繰り返り、手を離してしまう。

 拘束が解かれ、智香が自由になる。


「やべっ」


 智香は逃げ出そうとするが、そこで後ろから追っていた優奈が追いついた。


「ぜぇぜぇ……むん!」


 力を振り絞って飛び掛かり、智香の身体に抱き着いた。

 しかし全然力が入っていなかった為、布団を剥すみたいに剥されてしまう。


 真琴は急いで起き上がろうとするが、それよりも先に智香が逃げだしてしまいそうだった。

 このままでは間に合わないと思った真琴は指をさして声を上げる。


「あ! あんなところに面白そうなゲームソフトが落ちてる」


 すると智香が足を止めてキョロキョロし出す。


「どこ?」


 その間に体勢を立て直した真琴と優奈。


「今だ!」


 二人して飛び掛かり、智香を取り押さえる。


「捕まえたぞっ」



――――



 遡ること少し前。

 診療所で気付け薬を貰って来た麻衣は優奈達の姿を探していた。


「どこ行ったのかしら……。ここって意外と広いわね」


 麻衣は完全に見失っていた。


 探しながら歩いていると、クラスメイトの子達を見かける。


「ねぇ、智香か優奈見かけなかった?」

「見たよ。トイレに行くとか言って、真琴さんと一緒にあっちに走ってった」

「そう、ありがと」


 麻衣は教えてもらった方向へと走り出す。


(真琴も手伝ってくれてるのね)


 これなら合流すれば、すぐに解決できそうだと思いながら走っていると、智香の声が聴こえてくる。


「やー! はなしてー!」


 路地の方から聴こえてきた為、麻衣がすぐさま声の方へと向かう。

 すると、その先に見えたのは智香を押さえつけている二人の姿だった。


「おらっ、大人しくしろ!」


 真琴が後ろから羽交い絞めをして、優奈が正面から取り押さえている。


「はぁはぁ、智香ちゃん、はぁはぁ……」


 優奈の浴衣は乱れており、智香も半裸状態だった。


「ななな何してるのよ!」


 麻衣は慌てて優奈を突き飛ばす。


「ごばっ」


 疲弊していた優奈はあっさりと倒れてしまった。


「おおおお、おいっ」


 一人で取り押さえている状態となった真琴。

 焦った拍子で手を緩めてしまい、その隙に智香は拘束から脱してしまう。

 智香はすぐさま逃げ出した。


 だが麻衣は追わずに優奈に向けて鬼の形相をする。


「あんた、捕まえる振りして何やってるのよ!」

「な、何って……はぁはぁ、捕まえようとしか、してないよ」

「嘘おっしゃい。浴衣脱いでるし、はぁはぁ言ってるじゃない」

「浴衣? はぁはぁ、これは取り押さえてる時に脱げた。息が荒いのは、走り回って疲れてるから」

「あ」


 納得いく説明と酷く疲れている優奈の様子を見て、麻衣は自分が間違っていたことに気付く。


「麻衣、何で逃げさせたんだよ」


 起き上がった真琴が非難するように言う。


「優奈が襲ってるように見えたの。智香が本気で嫌がってたから勘違いしちゃって。……ごめん、私も酔っぱらってるみたい」


 少し考えれば分かることだったが、麻衣もまた酔っぱらって判断能力が落ちていた。


「麻衣ちゃんってば、早とちりなんだからー」

「まぁ、やっちまったことは仕方ない。気を取り直して追いかけよう」



 三人で智香が逃げて行った方向へと走る。


「ぜぇぜぇ……私、もうそろそろ動けなくなりそう」


 優奈はもうヘロヘロだった。


「結構前から大分ヤバかったもんな。あたしも疲れてきた」

「もう捕まえられる気がしないんだけど……。智香ちゃんが変人扱いされるようになったら、麻衣ちゃんのせいってことで」


「うぅ……」


 過失を自覚していた麻衣は何も言い返せなかった。



 走っていると、突き当りの神社前にまで到達する。


「どっち行った?」


 道は左右二手に分かれており、どちらにも智香の姿が見えなかった。


「あっ、あれ!」


 優奈が神社の境内を指さす。

 そこには地面に引っ繰り返って倒れている智香の姿があった。


 三人は慎重に智香へと近づく。


「……寝てる」


 地面に大の字で横になっている智香は、すやすやと寝息を立てて完全に寝ていた。


「燥ぎ疲れたのかな?」

「気付け薬使う?」

「今使うと起こすことになっちゃうから止めておこう。使わなくても、起きた時には酔いは醒めてるはずだから」


 追いかけっこが終わったと理解した三人は、その場に座り込んで息をつく。


「何とかなったな。無駄に走っただけのような気もするけど」

「疲れた……。今日はもう動けないや」

「暫くここで休憩しようぜ」


 三人は座り込んだまま休憩をする。


 境内には屋台は一つもなく、提灯で僅かにライトアップされているだけであった。

 ロボットも配備されておらず、他の女の子の姿もない。

 外から祭囃子は薄っすらと聴こえているだけで、全体的に静けさが漂っていた。


「神社は何にもないのね。何で、ここだけ静かなのかしら」


 不自然に境内だけ静かなことを麻衣は不思議に思う。


「全部が全部、賑やかだと煩くなっちゃうからね。祭の喧騒から離れた休憩所的な? あとはお楽しみ場として使ったり」

「お楽しみ場って?」

「それはね……」


 優奈は訊いてきた真琴の前へと転がり、覆い被さるように、その身を近づける。

 そして真琴の片足を上げて股を開かせると、そこに腰を押し付けた。


「はぁはぁ」

「何しようとしてんの!」


 麻衣が優奈の頭を引っ叩く。


「疲れたとか言ってたのに、なに仕出かそうとしてるのよ。まったく……」


 麻衣は怒っていたが、やられた真琴は顔に?を浮かべて、理解していない様子だった。


「また何かのネタ?」

「そんな感じ。さっきは麻衣ちゃんの勘違いだったけど、それで終わるのは可哀そうかなと思って」


「余計過ぎる気遣いだわ。さっきのことは全面的に私が悪かったから、もう言わないで……」


 笑いが起き、和やかな雰囲気となる。



「今日、これからどうする? まだ寝るには早いけど、美咲寝ちまったし」

「一緒に遊ぼうよ。元々、私達オールするつもりだったし」


 すると、麻衣が言う。


「優奈、大丈夫なの?」

「多分、途中で倒れる。寝たら宿屋まで運んで」


 優奈の体力は限界間近だったが、それでも女の子との交流を取り止めてまで休もうとは思わなかった。


「倒れるまで遊ぶってか。いいぜ。付き合うよ」


 優奈と真琴は固く握手し、それはまるで戦いに行く前のような面持ちであった。


 その晩、三人は文字通り倒れるまで夏祭りを楽しんだ。

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