81話 爆死
真琴の案内で、広場から出てすぐのところにある射的の屋台へとやってくる。
その屋台は手前のテーブルに射的銃が置いてあり、奥の棚には的となる景品がずらりと並んでいた。
景品は駄菓子から玩具雑貨まで幅広くある。
「一回、弾五発で三十円? へー、安いね」
有料ではあったが、お祭りの催しとしては非常に安価であった。
景品はそこまで高い物はないものの、物によっては一つ取れるだけで元が取れる。
「安いけど、景品落とすの結構難しいぞ」
智香は景品よりも射的で遊ぶことをしたかった為、難易度は特に気にしていなかった。
早速料金を支払い、射的を始める。
射的銃にコルクを填め、構えて景品に狙いを定めると引き金を引く。
ポンっと軽い破裂音と共にコルクが発射され、棚に並んでいたお菓子の箱に当たる。
だが、お菓子の箱は少し揺れただけで、びくともしなかった。
「な」
真琴の言う通り、簡単に落とせるものではなかった。
「コツはな、前の台に身体乗せて、ギリギリまで銃を近づけてから撃つのがいい」
「そんなことしていいの?」
智香が疑問をぶつけると、屋台の店員をしているロボットが言う。
「構いませんよ。細かなルールは台の上に乗っているルール説明を読んでください」
店員が許可した為、智香は台の上に身を乗り出し、射的銃を出来るだけ景品に近づける。
「撃つ場所は上の方がいいぜ」
銃口を上に向け、ここだと思ったところで智香は引き金を引いた。
飛び出したコルクがお菓子の箱に当たり、大きくグラつくが倒れるまでには至らず、揺れは収まった。
「惜しい!」
「もうちょっと上だな」
智香は試行錯誤しながら挑戦を続ける。
その様子を優奈は後ろから眺めていた。
「うむ、いいパンティライン」
智香はお尻を突き出している体勢だった為、ピッチリと貼り付いた浴衣から下着のラインがハッキリ分かった。
「こら! 友達のお尻眺めて喜んでるんじゃないの」
「麻衣ちゃんは、やらないの?」
「銃はこの前、十分撃ったからいいわ。それに難しそうだもの」
「なら他のとこ見に行く? あの様子だと、結構時間かかりそうだよ」
「そうね」
智香達は白熱していた為、麻衣と優奈は近場で他の屋台を見ることにした。
「あれ、何かしら?」
回り始めて早々、麻衣は一つの屋台に興味を示す。
その屋台は屋根の上から沢山の紐がぶら下がっており、紐の先には色んな商品が繋がっていた。
「あれは千本引き、くじみたいなものだね。紐を一つ引いて、繋がってるのを貰える」
「へー、面白そう。あ、でも有料なのね。結構高いわ」
値段は一回二百円と町にしては高めの設定だった。
「高いのは景品がいいからじゃない? 色々凄いの置いてるよ」
紐に繋がる景品にはゲーム機やデジカメ、コンポシステムなど高価なものがいくつもあった。
「大当たりは純金の小判!? すごっ。売ったら、いくらぐらいになるのかしら」
「売るの? 純金は地上ほどの価値はないけど、骨董品ならほぼ買値で取引できるから、数万はいくんじゃない?」
「大儲けじゃないの! 当たりも結構多いし、これで二百円なら安いくらいね」
割がいいと分かった麻衣は早速やってみることにした。
店員ロボットにお金を払い、紐を選び始める。
「一回二百円もするから慎重に選ばなきゃ」
真面目な顔をして紐を選ぶ。
どれだけ真剣になっても紐の途中は見えなくなっているので、勘で選ぶしかない。
「これよ」
麻衣は勘で一本の紐を選んだ。
辺りが出るようにと願いを込めて、そのひもを引っ張る。
すると、奥にある景品のうちの一つが持ち上がった。
それは茶色く悍ましい嫌悪感のある見た目のものだった。
「な、なにあれ……」
麻衣は二度見するが、どう見ても排泄物にしかみえなかった。
「おぉー、あれはリアルうんこだね。うんこを模して作ったジョークグッズ」
「いらないー! 大外れじゃないの」
しかし当たってしまった為、麻衣は店員ロボットからリアルうんこを渡される。
「二百円丸損したわ。ただのハズレよりダメージ大きいわよ……」
「変わり種のインテリアとしていいんじゃない?」
「こんなの飾ったら、他にどんないい物置いてあっても台無しになるわ」
置くだけで全ての景観を損ねる為、置き場所すら困る代物だった。
麻衣は気を取り直して、もう一度挑戦することにした。
二百円を払い、紐を厳選する。
厳選するにしても運でしかないのだが、麻衣は今度は失敗しないようにと時間をかけて真剣に選んだ。
そして一本の紐を決める。
「よし、行くわ」
気合いを入れて紐を引っ張った。
すると、奥の景品の一つが持ち上がる。
それは鼻と髭がついた眼鏡、通称ヒゲメガネだった。
リアルうんこと同じ、ジョークグッズである。
「そんなぁ……」
一発で分かるハズレである。
「ドンマイ」
「……これ、当たりは繋がってないとかないわよね?」
「町は詐欺なんかしないでしょ。地上の夏祭りは、やってると思うけど、ここは違うよ」
その時、二人ところに美咲がやってくる。
「それやったの? 何当たった?」
「これ」
麻衣は無表情でリアルうんことヒゲメガネを見せる。
「ぶはははは! 面白い」
「笑い事じゃないわよ。四百円も飛んでったわ」
「思い出として残るからいいじゃん。おいしいよ」
「こんな思い出いらないわよ……。これ美咲にあげるわ。どうせ、こういうの好きでしょ」
「何気に失礼なこと言われてる気がするけど、有難くいただきまーす」
リアルうんことヒゲメガネを渡され、美咲は喜んで受け取った。
「あたしも一回やってみようかな」
「やるならハズレ引くことを覚悟してやった方がいいわよ」
麻衣が忠告するが、それでも美咲はやるとして店員ロボットに二百円を払った。
そして選ぶこともなく、適当に一本の紐を掴んだ。
「よいしょ」
迷わず紐と引くと、奥の景品の一つが持ち上がる。
それは大きな箱のゲーム機だった。
「嘘ー!?」
当たりを引いたことで、店員ロボットが鐘を鳴らす。
「おめでとうございます。大当たりです」
「やったー!」
紐を取り外し、ゲーム機が美咲に渡された。
大きなゲーム機の箱を抱える美咲。
「当たっちゃった。ラッキー、智香の部屋でやって欲しいと思ってたんだ」
「いいわね。羨ましいわ」
「うんちとメガネ貰ったけど、これはあげないよ?」
「そこまで厚かましくないわよ」
ともあれ、美咲が大当たりを引いたことで詐欺の疑いは晴れた。
「偶々、ハズレ連続で引いちゃっただけだから、もう一回やってみるわ」
麻衣は再びロボットの店員に料金を支払い、挑戦する。
「変に選ぶからダメなのね。ここは適当に……これよ!」
麻衣は紐の束から適当に一本取って引いた。
すると、景品の一つが持ち上がるが、それはペーパーヨーヨーだった。
よく夏祭りなどで見かける伸縮する丸まった紙。
明らかなハズレである。
「「……」」
三連続ハズレを引き、周りも掛ける言葉がなかった。
「……もう一回!」
麻衣がもう一度やろうと財布を開けると、優奈が慌てて止める。
「待って! これ、破産するパターン」
「大丈夫よ。連続でハズレたけど、そんなずっと続くはずないもの。あと数回やれば絶対当たりが出るわ」
麻衣は止まらず、引き始める。
――――
ちーん……
広場の椅子で麻衣は俯せになって倒れていた。
あれから何度も引き続け、数千円突っ込んでも碌なものが当たらなかった。
優奈と美咲は哀れみの目を向けながら、麻衣の手に入れた景品を確認する。
「これ一応当たりじゃない? 多機能懐中電灯。手回しでもソーラーでも充電できるし、ラジオも聴ける。商店街で買うと五百円くらいするよ」
「ラジオってやってるの?」
「いや。まだ」
「この町で懐中電灯使う場所ある? 夜でも何処かしらに明かりあるし、停電なんて起こらないでしょ」
「……」
防災向けの道具だった為、町においては使い道が皆無だった。
「麻衣、元気出しなよ」
美咲が励ますが、麻衣からの返事はない。
つついでも反応がない為、美咲は麻衣の浴衣を捲ってお尻を出させた。
そしてパンツを下げて半ケツにしてから、先ほど貰ったリアルうんこをその下に設置する。
「脱糞した」
美咲と優奈は二人でクスクスと笑う。
二人の会話は麻衣の耳にも入っていたが、反応する気力もなかった。
そんなことをしていると、射的を終えた智香と真琴が戻って来る。
両手に戦利品の入った袋を抱えて二人とも、ほくほく顔であった。
「みんなー、ほら戦利品。一杯獲れたから分けてやるよ」
にこやかな顔で近づいてきた二人だが、麻衣の下のリアルうんこに気付いて驚く。
「うわ! 何そのうんこ?」
「麻衣、そこのくじで破産して脱糞しちゃったんだ」
「えっ、マジかよ……」
二人は引きつつも同情の視線を送る。
リアル過ぎて本当に脱糞したと思われているが、美咲も優奈も訂正しない。
「あたしは、これ当たったんだ」
麻衣のことは放置して、美咲は当たったゲーム機の箱を二人に見せて自慢する。
「スゲー! そういうのって本当に当たるんだ」
「一発で当たったよ。これ、二百円」
「商店街で買ったら何千円もするやつだろ。マジでスゲーじゃん」
その時。
「にゃあああああ!!」
突然奇声を上げて飛び起きた麻衣。
何事かと皆が視線を向けると、麻衣は下に落ちていたリアルうんこを掴み、ゲーム機について話していた美咲や真琴達の方へと投げつけた。
「うわあああああ!」
玩具とは知らない真琴と智香は飛び退く。
それを見て美咲は大爆笑した。
「麻衣っ、何するんだよっ」
真琴が怒るが、麻衣の目は虚ろで明後日の方向を見ていた。
「あびゃびゃびゃびゃ」
おかしなポーズで言葉にならない言葉を発している。
「麻衣ちゃん……」
麻衣の壊れ具合に、真琴達は唖然とした。