76話 三チームの戦い
拠点周りにトラップを仕掛けたり、装備を整えていたりしていると準備時間終了のブザーがなり、開戦となる。
優奈と麻衣は武器を抱え、拠点から飛び出した。
「気を付けて。飛び道具だから、どこから撃ってくるか分からないよ」
「肝試しとは違った怖さがあるわね……」
二人は遮蔽物に身を隠しながら、警戒して進む。
暫く進んでいると、曲がり角の先から人影が現れた。
「「!」」
前を歩いていた麻衣が咄嗟にアサルトライフルを向ける。
すると、相手の美咲も麻衣へとサブマシンガンを向けていた。
「おー、映画みたい」
「ふふ、そうね」
互いに銃を向け合うというのは映画のワンシーンのようだった。
「こっから、どうする? 早撃ち?」
「……自信ないわ」
早撃ちは反射神経がものを言う。
遺伝子欠損の修復によって二人の反射神経に大差はなかったが、スポーツ万能で基本的に何でも卒なく熟す美咲相手に、麻衣は勝てる気がしなかった。
二人でじりじりと撃ち合うタイミングを見計らっていると、美咲が気付く。
「そういえば優奈は?」
「私の後ろにいるでしょ。気を逸らせた隙に撃つ気?」
「いないよ。本当に」
「え?」
その時、美咲の後ろから現れた優奈が、美咲を後ろから羽交い絞めにする。
「油断したね」
美咲の首元にはナイフがつきつけられていた。
「ナイス、優奈」
「やられたー。優奈が近くにいるなんて、ちょっと考えれば分かったのに」
美咲はサブマシンガンから手を放し、両手を上げる。
先ほど麻衣と美咲がかち合った際、優奈は咄嗟に物陰へ隠れ、美咲の後ろに回っていた。
「さて、どうしてくれようか」
「お助けをー」
命を握られた美咲だが、切り替えてノリノリで演技していた。
「ふふ、可愛いお嬢ちゃんだ。命が惜しければ、身体を自由にさせてもらおうか」
優奈はナイフを片手に、空いた方の手で美咲の胸を鷲掴みにする。
「おぉ、悪役だ」
「ちょっとっ、優奈」
麻衣が止めようとするが、美咲は面白そうに受け入れていた。
「そのままじっとしていれば、すぐ終わるから」
優奈は胸を触っていた手を下に這わせ、股の方へと持って行く。
「お馬鹿ー!」
手が股へと到達しようとした瞬間、麻衣が優奈の頭を撃ち抜いた。
「あわわわわ」
優奈は痺れてその場に倒れる。
「フレンドリーファイア!? 麻衣、味方撃っちゃったけどいいの?」
「いいわよ、こんなやつ。付き合ってたら行くとこまで行っちゃうわ」
「容赦ないねぇ。けど、これでイーブンだ」
美咲が再びサブマシンガンを向けると、麻衣もアサルトライフルを向ける。
「ゲーム的には困ったわね……」
再び睨み合いの状況となっていた。
だがその時、銃声と共に二人の身体に強い痺れが走った。
頭を撃ち抜かれた痺れで、二人は倒れてしまう。
三人は喋ることもできずに倒れていると、程なくして運搬ロボットがやって来て、三人を乗せてそれぞれの拠点へと運んで行った。
拠点に運ばれた優奈と麻衣はクールタイム終了と共に身体の痺れが消え、ベッドから起き上がる。
「占領されてないわよね?」
周りを見回し、まだ占領されていないと分かると、ホッと息をつく。
「さっきは何が起こったのかしら。私、撃たれた?」
「姿見えなかったから、多分遠くから撃たれたんだと思う」
「智香達ね。美咲に気取られてて、周り見てる余裕なかったわ」
「誰かさんが仲間撃ちしちゃうから」
「誰のせいよっ。美咲のノリがいいからって、あんまりセクハラするんじゃないわよ」
「だってぇ」
「だってじゃないの。今度やったら、また頭ブチ抜くからね」
二人は喋りながらも再び進軍を始める。
「死ぬ度にクールタイム伸びるから、これ以上やられるのは避けたいところ」
「遠くから撃たれることもあるから怖いわね。というか、離れたところから即死の位置攻撃してくるとか、さっき撃ったの絶対智香でしょ。撃つタイミングといい」
「ははは、やっぱり難敵だったね。気を付けないと本当に、あっという間に負けちゃうかも」
「ボロ負けしたら恥ずかしいから、優奈も真面目にやりなさいよ」
二人が喋りながら通路を進んでいると、曲がり角で再び美咲と、かち合った。
二人は透かさず銃を向けるが、美咲は手でストップをかける。
「待った。二人とも共同戦線張る気はない? 智香と真琴、思ったよりも強そうだから、手を組んで先に倒すべきだと思うんだ」
美咲も二人と同じように智香達を危険視していた。
麻衣と優奈は視線を交わすと、銃を下げる。
「同意見だわ。じゃあ智香達を倒すまでは仲間ってことでいいかしら?」
「オーケーオーケー頑張ろう」
優奈・麻衣チームは美咲チームと一時停戦して、協力関係を結んだ。
三人が仲間となり、共に進もうとしたその時。
「ぬぉ!」
先頭に居た美咲が突然、身体を捻らせて仰け反った。
そしてすぐさま物陰へと飛び込んだ。
「二人とも隠れて! 狙撃されてるよ」
直後、銃弾の雨が襲ってきて、麻衣と優奈も慌てて物陰へと飛び込む。
銃弾の雨はすぐに止んだが、美咲は手で二人を止める。
「あそこから狙ってきてる。匍匐して進も」
――――
「うわ、手組みやがった。ずりー」
高台の建物の中から、真琴と智香は匍匐する三人を狙撃していた。
「三人同時に来られたら、ちょっと不味いね」
「どうするんだ? このままだと来ちまうぞ」
二人は狙撃を試みているが、優奈達は物陰に隠れながら進んでいた為、なかなか当てられなかった。
「トラップで行こう。いい仕掛けがあるんだ」
――――
銃弾の雨が降り注ぐ中を優奈達は匍匐で移動していた。
「キャッ……。もー、いつまで撃ってくるよ。これじゃあ本当に戦争してるみたいだわ」
「激しく撃ってくるのは焦ってる証拠だよ。手持ちの回復道具がなくなる前に、辿り着けるかどうかが勝負の分かれ目」
身を隠して動いていたが、僅かに見えてしまった部分や跳ね返った弾のせいで、三人は所々被弾していた。
急所以外ならば即死にはならない為、メディカルキットで痺れを軽減させて進軍を行っていた。
「全然違う話だけど、ここって日本に属していない場所なのよね? 見つかって戦争になるって可能性はないのかしら?」
戦争という言葉で少し不安になった麻衣は、そんな疑問を口に出した。
「ないよ。絶対に」
優奈は即座に断言した。
「ほんとに?」
「技術力考えてみなよ。町からしたら他の国の技術なんて、五百年も前の骨董品レベルのものじゃん。町を感知することなんて、どう足掻いても出来ないし、たとえ見つかって全世界と敵対したとしても、一瞬で決着が着いて終わるね」
ヴァルサどころか、そこら辺に居る作業ロボット一体だけでも、現代において勝てる国はない。
この町は最強で世界一安全なところだった。
優奈の話を聞いた美咲が興味津々に尋ねる。
「おぉー、そんなに強かったんだ。どんな感じに戦うのかな? 映画みたいに、どんどん殺人ロボット送り込んだりして?」
「怖いわ! 変な想像させないでよ」
沢山の教師ロボットが兵器を持って侵略する姿を想像してしまった麻衣は身体を震わせる。
「戦うまでもないよ。管理者は切り離されたネットワークでも侵入可能だから、核ミサイル基地を乗っ取ったり、インフラ設備を暴走させたりすれば、あっという間に全世界を滅ぼせる」
「そっちも怖いわね……っていうか優奈、そんなことまで訊いてたの?」
「いやまぁ、色んなことを想定してね。はは……」
町の軍事のことまで知っていたことを突っ込まれ、優奈は笑って誤魔化す。
そうしているうちに三人は狙撃の圏内から外れ、背の高い建物が並ぶゾーンへと入った。
「よし、抜けたっ」
三人は身体を起こし、普通に歩き始める。
周りは遮蔽物に囲まれ、遠方から射撃できるようなポイントはない為、狙撃される心配はなくなった。
「敵拠点まで後少しだね。このまま行けば三対二で勝てるよ」
「油断しちゃダメよ。智香、多分相当強いから、舐めてかかると殺られるわ」
気を引き締めて進んでいると、曲がり角を曲がってすぐのところに、上から白い布がぶら下がっているのを見つける。
「うん? 何かしら」
左右の建物を通して紐が張ってあり、中央からぶら下がっていた白い布。
近くで見ると、それが女児ショーツであることに三人は気付いた。
「この柄は智香ちゃんの……」
「あからさまに怪しいわね。避けて行きましょ」
「え?」
麻衣が言葉を終える時には、既に優奈はそのパンツを手に取っていた。
パンツが取れて見えるようになった紐の先にあったのは、ピンの抜かれた手榴弾。
「ばかー!!」
直後、手榴弾が爆発し、辺りが炎の映像に包まれた。
爆発によって、一面に煙が漂う。
「みんな、無事ー?」
咄嗟に物陰に飛び込んでいた麻衣が、声を上げて仲間の安否を確認する。
「結構ダメージ食らっちゃったけど、まだ動けるー」
「私はダメかも。死んではいないけど、ちょっと上手く立ち上がれない」
煙が消え、三人の姿が見えてくる。
麻衣と美咲の二人は物陰に隠れていたが、優奈は道のド真ん中で倒れていた。
「死にかけじゃない。そんな状態なら、とどめ刺した方が早いわね」
麻衣は物陰から出て、優奈にアサルトライフルを突きつける。
「また味方殺しするんだ? 麻衣ちゃんの意地悪ー」
「あんたが悪いんでしょ。こんなアホみたいなトラップに引っかかって」
銃口を優奈の頭に向けて引き金を引こうとする。
だがその瞬間に銃声が鳴り、麻衣の身体が崩れ落ちた。
「!? 敵襲!」
美咲は銃を構えて、物陰から敵影を探す。
「敵はどこだ?」
しかしその時、かちゃりと音がして、美咲の後頭部に硬い物が当てられた。
「後ろだよ」
直後、銃声と共に美咲が倒れた。
美咲を倒した智香は拳銃をホルスターに戻し、物陰から出てくる。
同時に前方からも真琴が姿を現した。
「いえーい、作戦成功」
智香と真琴はハイタッチして喜ぶ。
「完璧だったでしょ?」
「ああ、ほんとに引っかかるとは思わなかった」
パンツの罠は優奈の性格を利用した専用のトラップだった。
智香は優奈の性格を熟知していた為、パンツを餌にすればトラップだと分かっていても、必ず取ると踏んでいたのだ。
二人は瀕死状態で倒れていた優奈の手を結束バンドで拘束する。
「捕虜確保。これで二対二だね」
智香は倒れている麻衣と美咲に笑顔を向ける。
痺れで喋ることもできない二人は、悔しそうな顔をしながら、ロボットに運搬されて行った。