75話 サバゲー場
夏休みの昼下がり。
「優奈ー、暇してる? よかったら、どっか遊びに行かない?」
自室に居た優奈のところに、麻衣が遊びの誘いに来ていた。
「いいけど、麻衣ちゃん最近よく来るよね」
「そう?」
麻衣は肝試しをしたあの日から、頻繁に遊びに誘いに来るようになっていた。
「大丈夫? 肝試しのことトラウマになってない?」
「ちょっと、本気で心配しないでよ。大丈夫だから。ただ、一人でいるよりは誰かと居ないなって思うだけ」
「やっぱり肝試しの影響じゃん」
「そりゃ、あんな目に遭ったんだから、ちょっとは引き摺るわよ。全然平気なのは優奈ぐらいじゃないの?」
「私は麻衣ちゃんばかり見てたからね」
優奈の言葉を聞き、麻衣は溜息をつく。
「さっさとリタイアしとけば良かったわ」
怖いのが苦手な子も参加していたが、そういう子は早々にリタイアした為、逆にダメージは薄かった。
なまじ耐性のある子が後半まで行ってしまい、特大の恐怖を味わう羽目になったのだ。
優奈はアフターケアとして、皆が食べる食事にさりげなく精神安定剤を投入し、恐怖の記憶を弱める措置を施した。
ただ、狙い撃ちできるものではない為、女の子の精神や人格形成上で重点となった記憶などへの影響も考えて、完全に消し去れるほどの効力があるものは使えなかった。
「気にしなくなるまで一緒に居てあげるよ。トイレの中でも何処まででも」
「……お断りよ」
「あ、今、一瞬迷った?」
「迷っても答えは同じよ。トイレは確かに、あのこと思い出して少し怖いけど、優奈と一緒になんか入ったら、別のトラウマ植え付けられそうだし」
「植え付けるのは甘美で淫靡な記憶だよ」
「悍ましいわ……」
その時、部屋のチャイムが連打される。
二人が玄関の扉を開けて出ると、そこには智香と真琴がいた。
「大変、大変! 凄いことになった」
智香は興奮気味に騒ぐ。
「どうしたの?」
「そのな。えーと……兎に角ちょっと一緒に来てくれ。あ、美咲も呼ばないと」
事情も言われぬまま、二人は真琴達に連れて行かれる。
美咲も連れ出され、五人でやってきたのは商店街のゲームセンターであった。
真琴がグローブをはめて、パンチングマシンの前に立つ。
「見ててくれよ」
真琴は構えると、大きく振りかぶる。
「えいや!」
勢いよくパンチを繰り出し、パンチングマシンを強打した。
パンチの威力が測定されるが、それよりも三人は真琴が殴れたことに驚く。
「できるようになったの?」
「ああ、いつの間にか、な。多分、肝試しの時にお化けと必死に戦ったからだと思う」
真琴がトラウマを克服できたと分かり、みんな喜ぶ。
「やったじゃない。良かったわね」
「これで色んなところで遊べるねー」
喜んでいると、智香が手を上げる。
「それで早速だけど、実は皆で行ってみたいと思ってた場所があるんだ」
そして智香に連れられてやってきたのは、レジャープールなどがある商業区に建てられていたサバゲー場だった。
サバゲー。
それはサバイバルゲームの略で、エアガンを撃ち合って遊ぶ戦争ごっこのことである。
サバゲー場はドーム会場のようになっており、中は小型コンクリートジャングルや人工林などのフィールドが作られていて、そこでサバゲーを楽しめるようになっていた。
「こんなところあったんだ」
「あたしも知らなかった。商店街の店、増えすぎて、もう把握しきれねーわ」
スローペースになったとはいえ、日々開発は続いていたので、もう女の子達でも全ての店を把握できていなかった。
「面白そうでしょ? せっかく真琴ちゃんも出来るようになったんだから、皆でやってみようよ」
「サバゲーって、銃の撃ち合いするやつでしょ? いきなりは難易度高過ぎない?」
克服したばかりでサバゲーをやるのは、問題があるのではと麻衣は心配する。
だが、真琴は張り切った様子で言う。
「いや、今なら何でもできるような気がする」
心配する子もいたが、当の本人がやる気満々だった為、五人でサバゲーをやることにした。
ステージとして都市フィールドを選び、入口で準備を行う。
入口の待機室には武器や道具がずらりと並べれていた。
智香は掛けてあった拳銃を取り、説明を始める。
「セフティを外して引き金を引くと撃てる。反動はあるけど、出てくる弾は映像で、実際には何も出ないから。映像だけで、どうやって戦うかというと、これ」
テーブルの上に備え付けてあった首輪を手に取って、皆に見せる。
「この首輪をつけると首の神経に接続されて、弾やナイフの攻撃が当たると、痺れたり、神経が遮断されて動かなくなるんだ」
「それ、大丈夫なの?」
「ビックリするけど、全然危なくないよ。後遺症の心配は一切ないって説明受けたし。試しに体験してみる?」
一度試す為、麻衣達は首輪をつける。
全員が付けたところで、智香が皆にマシンガンを向け、躊躇いなく引き金を引いた。
スライドさせるように全員に弾を浴びせる。
「ひゃあああああ」「うわあああああ」
弾を受けた子達は崩れるようにその場に倒れた。
「こんな感じ」
智香がテーブルの上にあったリモコンを手に取り、復帰ボタンを押すと、皆の痺れが一瞬で消え去った。
倒れた子達はむくりと立ち上がる。
「ビックリするわ。めっちゃピリピリした……」
痺れは非常に強かったが、後に残るダメージは一切なかった。
「完全に動けなくなったら死亡扱いになって、ロボットが拠点まで運んでくれるんだ。モードによるけど、そっからクールタイムで復活して、また戦えるようになる。それで戦いながら、先に相手の拠点を制圧したら勝ち」
「おもしろそー!」「ああ、すっげー楽しそうだな」
説明を聞いて、美咲と真琴はますます乗り気になる。
早くやりたいとのことで、早速チーム決めへと移った。
「五人だから一人余っちゃうね。どうしよっか?」
すると、美咲が手を上げる。
「はい、はーい! あたしソロ希望」
「えっ、三チームでやるの?」
「三つ巴の戦いの方が燃えるっしょ」
「それだと防衛が……。うーん、拠点なしの遊撃部隊にするって手もあるけど」
「それでいいよ」
三チームで戦う為に、美咲は一人チームとなった。
あとは残り二チームをどう振り分けるかであったが、今度は真琴が挙手して言う。
「あたしと智香で組んでもいい? 一緒に戦いたいからってのもあるけど、智香を敵に回すってのは、まだちょっと勇気ないから」
暴力へのトラウマと智香への恐怖。
共に解決したことだったが、同時に行うのは真琴も些か不安があった。
「二人が反対じゃなければ」
「いいわよ」
優奈も頷き、チームが決定する。
「おぉ、肝試しの時と同じ組み合わせだね」
「確かに。あの時と同じだわ」
「よーし。じゃあ、肝試しのリベンジだ」
美咲達は意気込む。
偶然にも肝試しと同じチーム分けとなったので、リタイアしてしまった三人にとっては、ある意味、雪辱戦であった。
始めることとなり、五人はチームごとに分かれて、それぞれの拠点へと移動する。
各拠点はテントのような作りとなっており、中には死亡時に運ばれるベッドや痺れ軽減やクールタイム短縮効果のある救急道具が設置されていた。
武器道具の箱もあるが、今回選んだモードでは与えられたポイントを割り振って、使える武器や道具を選ぶ方式を取った為、全てのものを自由に使える訳ではなかった。
テントに着いた優奈と麻衣はポイントを割り振って、使う装備を決めて行く。
「強い銃にする? それとも安めのやつ沢山選ぶ?」
「とりあえず最初はバランスよく選ぶのが無難じゃない?」
「オッケー」
強い武器はポイントを多く消費する為、そればかり選んでは使用できる武器の数が少なくなる。
弾にもポイントが必要で、武器と同じく威力が高い弾はポイントも高いので、そこも考えなければならない。
「ゲームやってたおかげで、どれが強い銃とかすぐに分かるわ」
「テレビゲームの知識が使える遊びだね。戦いも似たような感じになるのかな」
「そうなると智香が強そうね。私達なんかより、ずっとやってるから」
「美咲ちゃんも意外と厄介そうじゃない? 運動神経いいし」
「……もしかして私達のチーム、一番弱くない?」
「頑張ろう」
リベンジに燃えていた麻衣達だが、早くも暗雲が立ち込めていた。