66話 山を散策
草むらを掻き分けて、雑木林の中へと入って行く。
「地上だったら絶対入らないところだわ。こういうとこ普通、虫めちゃくちゃいるでしょ」
「ははは。普通の女子にはキツいところだよな。ここには虫ロボットはいねーのかな」
「いたら、即戻るわ」
「しっかし、懐かしいな。ここに来る前は、こういうところでよく遊んだんだ」
真琴は近くの木の枝に掴まって上へと登る。
「危ないわよ」
「余裕」
田舎で育った真琴にとっては木登り程度はお手の物だった。
「いいね。木登り」
美咲が続こうとしたその時、草むらの先から鹿が出て来た。
「鹿だー!」
鹿の登場で、その場に居た皆の視線が鹿に釘付けとなる。
真琴が木登りを始めたので、もしもの時に助ける為、近くに来たのだった。
美咲は鹿に近づいて、まじまじと見る。
「これもロボット?」
「そうだよ。暴れたりはしないだろうから安心して」
真琴も木の上から降り、皆で鹿を近くで見る。
「結構、可愛いかも」
麻衣達は鹿ロボットを触って撫でたりする。
そこで美咲が優奈に訊く。
「ねね、背中に乗っていいと思う?」
「いいんじゃない? ロボットは丈夫だし」
「ひゃっほーい」
美咲は即座に鹿ロボットの背中へと飛び乗る。
鹿ロボットはいきなり背中に乗られても微動だにしなかった。
「よし、前に進めー」
美咲は馬に乗るみたいに跨り、鹿ロボットに指示を出した。
すると、鹿ロボットは指示に従い、前に歩き出す。
「おぉー」
本当に従ってくれるとは思わなかったようで、みんな驚いていた。
「言うこと聞いてくれるんだ」
「まぁロボットだからね」
動物ロボットの仕事は監視と緊急時の救助であるが、常時ほぼ待機状態みたいなものなので、従っても問題なかった。
「こうして見てみると、何だか遊園地のパンダ乗り物みたいね」
「確かに」
鹿ロボットに乗る美咲からパンダカーを連想して、麻衣達が笑う。
野生動物みたいに激しく動くのではなく、運ぶように優しく動いてくれている為、子供が乗る乗り物みたいな動きであった。
「でも、動物と遊べるっていいな。本物の動物だったら、こんな乗ったりできねーぞ」
「ね。森の中、行くのあんまり乗り気じゃなかったけど、ちょっと楽しくなってきちゃったわ」
「じゃあ、もっと探そうぜ」
皆やる気になって散策を再開する。
「あ、猪だ」
「後ろに瓜坊いる! 可愛い!」
森の中を歩いていた五人は、次々と色んな動物に出会う。
皆が動物に会いたいとのことから、優奈が密かに命令を出して動物ロボットを集結させていたので、サファリパークみたいな状態になっていた。
以前は動物ロボットに否定的だった麻衣達であるが、あっという間に受け入れていた。
「お、あそこに動物っぽいのいるよ」
草むらの先に茶色い影を見つけた美咲が、指をさして皆に教える。
すると、その茶色の影が草むらから出てきた。
「熊ー!?」
それは全長二メートル近くもある熊のロボットだった。
鹿ロボットに乗っていた美咲は熊だと分かると、飛び込むように地面に倒れる。
「みんな早くっ。死んだ振りして」
「お、おう」
美咲に急かされ、真琴達も死んだ振りをしようとする。
「って、ロボットだろっ。一瞬ビビったけれども」
「あ、そうだった」
言われて思い出した美咲はむくりと起き上がる。
見た目は本物そっくりだったので、ビックリした拍子に忘れるのも無理はなかった。
「本物だったとしても死んだ振りとか意味ないから」
立ち上がって美咲は早速熊ロボットへと向かう。
「くまー、くまー」
一応、警戒しつつ距離を詰めて行く。
熊ロボットは皆を驚かさないように動きを止めていた。
熊ロボットの目の前にまで接近した美咲は素早く、その後ろに回り込み、背中に飛び乗る。
「ライドオン!」
背中にしがみつくように乗り、騎乗を果たした。
熊ロボットは乗り易いように少し前屈みになってくれている。
「おぉー、やべー」
熊に騎乗する。
地上じゃ有り得ない光景であった。
皆が熊ロボットに騎乗する美咲に注目していると、智香がさりげなく、空いた鹿ロボットの背中に乗った。
途中で気付いた優奈と目が合うと、智香は照れ隠しをするように笑う。
「ちょっと乗ってみたくて」
「全員分の乗り物探す?」
すると、美咲が言う。
「いいね。そいで揃ったら、皆で人里に下りて寮を襲撃しよう」
「みんなビビるから」
止めつつも真琴はちょっと面白そうと思ってしまう。
「襲撃はしないけど、私も何か乗ってみたいわ」
「私は乗られたい」
優奈がどさくさに紛れて変態発言をした。
「乗られたい?」
真琴が聞き返すと、優奈は笑顔で頷く。
そんな優奈を麻衣はいつもの呆れた顔で見ていた。
「乗って欲しいなら、あたしが乗ってやるよ」
真琴がおぶさろうとすると、優奈は四つん這いになる。
その恰好を見た真琴は「あぁ、そっちか」と笑って背中に乗った。
優奈は背中に柔らかなお尻の感触を感じる。
「おふっ……。最高」
その顔は、とても幸せそうであった。
「優奈って、ちょっとよく分かんないところがあるよな」
「分からない方が幸せよ……」
麻衣が遠い目をして言うと、真琴は首を傾げたのだった。
皆はそのまま動物に乗った状態で先を進む。
「動物は結構見つけたけど、植物はあんまり目ぼしいのねーな」
周りを見回しながら真琴が言った。
すると、乗られている優奈が尋ねる。
「どんなのが欲しかったの?」
「食べれたり蜜吸えるやつ。流石にないか」
「そりゃね。全部、人工物だから」
シェルター内の草木は全てレプリカである。
生きた植物は水や栄養が必要な他、時間経過で枯れたりもするので、管理の手間が桁違いだった。
景観の為だけに労力を割くのは割に合わないとのことで、レプリカで再現することにしたのだ。
「動物がいるだけでも楽しめるから、贅沢は言えねーな……ん?」
地面に光る何かを見つけた真琴は優奈から降りて屈み、その光るものを手に取った。
「何だこれ? 緑の石?」
「それは宝石の原石だね。エメラルドかな?」
優奈が答えると、麻衣がバッと振り向く。
「何でそんなの落ちてるの!?」
「宝石の原石って、基本山で採れるものじゃん。埋まってることが多いけど、この山は掘れないから上に撒いたんじゃない?」
「じゃ、じゃあ、拾ったら持ち帰ってもいいのかしら」
「いいと思うよ。山のもの持ち帰るなとか、どこにも書いてないし」
「探しましょ!」
麻衣は即座に地面を這いつくばって探し始める。
「おぉー、お宝探しだ」
他の子も乗り気になって、宝石探しが始まった。
「見つけた!」
暫く探していると、麻衣が見つけたようで声を上げた。
その手には水色の原石がくっついた石があった。
「この宝石は何かしら?」
「これはアクアマリン」
「へー、綺麗」
麻衣は、うっとりしてアクアマリンの原石を眺める。
「君の方が綺麗だよ」
「馬鹿じゃないの。そのふざけた口、閉じてなさいよ。一年くらい」
「長すぎっ。ちゃんと本心で言ってるのに」
「だから性質が悪いのよ……」
二人がいつもの馬鹿話をしていると、今度は智香が見つける。
「あった!」
手に入れたのは赤色の原石がついた石だった。
「ルビーかガーネットだね。適当な、お店のロボットにでも訊けば教えてくれるよ」
「これって売れるかな?」
「売れないでしょ。どれも原石自体は小さいし、無料で手に入るものだから」
「そっか……」
智香と麻衣のテンションが一気に下がる。
「でも、加工してアクセサリーにできたりするから、価値ないことはないよ」
すると、麻衣が目を輝かせる。
「もしかして、小さい置物とか作れる?」
「出来るんじゃない? 加工費は多少かかると思うけど」
「本物の宝石で作れるとか最高じゃない! 滅茶滅茶価値あるわ」
萎えていた麻衣はまた一転してやる気を出し始めた。
智香も麻衣が欲しがっている物だからと、やる気を取り戻す。
「よーし、がんがん見つけるわよー」
みんな張り切って原石探しを続ける。
そして山を歩き尽くした頃には、みんな十分な量の原石を手に入れることが出来たのだった。