64話 レジャープール
ぶらぶら歩いていると、水上アスレチックが面白そうとのことで、そこで遊ぶこととなった。
水上アスレチックはその名の通り、水上に建てられたアスレチックである。
水被りバケツやシャワー通路、渡橋など、水を利用した遊具が沢山あり、レジャープールならではのアトラクションであった。
水上アスレチックに来た五人は、まず渡橋で遊び始めた。
「どわっ」
渡橋を渡っていた優奈が足を滑らせてひっくり返る。
そしてそのまま下のプールへと落ちた。
「あはは、何やってんのよ」
「ここ滑り易いよ」
優奈はそう言って、麻衣の足首を掴む。
「きゃ」
足を掴まれた麻衣はバランスを崩してプールへと落ちる。
「もぉ、私まで道連れにしないでよー」
麻衣は頬を膨らませるが、特に怒ってはおらず、面白そうにしていた。
「戦じゃー!」
声を上げた美咲が真琴に張り手をする。
「危なっ」
真琴はギリギリのところで躱した。
「最後まで落ちなかった人が勝ちね」
「いいぜ。その勝負、乗ったっ」
二人は相手をつき落とそうと、やり始めた。
その後ろで、忘れ去られていた智香がオロオロしている。
そんな智香の足元から、麻衣が小声で言う。
「智香、智香、やっちゃいなさい」
「えっ……いいのかな?」
智香は躊躇いつつも、二人に近づき、前に居た美咲の背中を押す。
「えい」
「のわー!」
不意打ちを食らった美咲は足を滑らせてプールへと落ちた。
そして残ったのは智香と真琴。
智香と真琴は向かい合って構える。
智香は自信のない顔をしているが、真琴の方は硬い表情で冷や汗を流している。
構えたまま二人は睨み合う。
暫しの睨み合いが続いたかと思うと、智香が先に動き、手をつきだした。
「やっ」
「うわっ」
すると真琴はビクッと身体を仰け反らせ、その動きで足を滑らせて勝手にプールに落ちた。
「優勝は智香だー! 何というダークホース! 意外なことに、最強の座に輝いたのは智香でしたー」
美咲が声を上げて優勝者である智香を称える。
「智香やるじゃない」
智香は祝福を受けるが、特に戦った実感がなかった為、喜ぶこともできず微妙な困り顔をしていた。
「自滅してんじゃん」
美咲が落ちた真琴を突いて揶揄う。
「いやまぁ、智香には勝てねーよ」
真琴の頭には酔った智香を相手した時の恐怖が植え付けられていた。
突然の勝負が終わり、落ちた皆が渡橋の上に上がったところで、優奈が言う。
「次はドンケツゲームやろう」
「何それ」
優奈は説明の為に美咲を連れて、渡橋横に浮いていた少し大き目のフロートへと移動する。
そこで優奈と美咲が互いに背中を向けて立つ。
「立ったら、こうやってね。お尻で……押す!」
優奈が軽くお尻を突き出すと、そのお尻が当たった美咲がふらつく。
「おっとっととと」
美咲はバランスを取り、持ち直す。
「お尻だけを使って戦うんだ。さっきと同じで相手をつき落とした方が勝ち」
「おぉー。面白そう」
美咲や真琴はその遊びに興味を持って目を輝かせるが、麻衣はまた変な遊びをと呆れた顔をしていた。
早速、実戦してみることとなり、再度優奈と美咲が背中を向かい合わせる。
「「いざ勝負!」」
二人は同時に勢いよくお尻を突き出す。
お尻同士がぶつかり、押し勝ったのは美咲の方だった。
「うわあああ」
体格差により押し負かされた優奈は前に吹き飛び、下のプールへと落ちた。
それを見ていた麻衣と智香は吹き出して笑う。
自分から提案しておいて即行負けている、いつものパターンだった。
「智香かもんかもん」
さっきの優勝者とのことで、美咲は智香を次の対戦相手として呼ぶ。
指名された智香は戸惑いつつも、フロートの上へと移動した。
そこで二人は互いに背中を向ける。
「さぁ、いざ尋常に……勝負!」
二人は同時にお尻を突き出す。
「きゃっ」
突き飛ばされたのは智香の方だった。
優勝者だったのに、あっさりとプールに落ちてしまう。
「あれー? 全然、弱いじゃん」
「身体がデカい美咲が有利だろ。同じ力で押しあったら」
「そっか。じゃあ二人一緒にカモーン」
対等な勝負ではなかったと分かった為、美咲は真琴と麻衣を同時に呼ぶ。
「お、三つ巴か。麻衣、やってやろうぜ」
「ええ」
二人も乗り気で、フロートの上にあがって来る。
そして背中を向けて三つ巴の戦いを始めた。
「うりゃー」
「うおっと、させねーよ」
三人はお尻を突き出し合って戦う。
乱戦で上手く力が分散され、いい勝負となっていた。
「うーん、良い眺め」
そんな三人の戦う様子を、優奈はプールに浸かりながら、にこやかに眺めていた。
その後も暫く五人で水上アスレチックで遊んでいると、優奈がギブアップした為、麻衣と智香も抜けて再び別行動をとることになった。
優奈達は休憩がてらレジャープール内のカフェテリアへと入る。
レジャープール入口の更衣室やシャワー室などがある建物の二階にあるカフェテリア。
レジャープール内には飲食ができるところがいくつかあり、カフェテリアはその一つである。
飲食の代金はレジャープールの入場料に含まれている為、全て無料だった。
これはレジャープールで遊ぶのに邪魔にならないよう、財布を持たせる手間を省く為の措置でもある。
三人はそれぞれアイスやパフェなどを頼み、店内のテーブルでお喋りしながら食べる。
「優奈って身体使う遊びの時、割と途中離脱するわよね。体力ないの?」
「ないって訳じゃないけど……。強いて言うなら、気力の差かな」
「?」
精神年齢が違う為、子供の遊びを長くやっていると気疲れするからなのだが、そんなことを他の子に言えなかった。
「精神的に疲労するのが早いってだけだから、私のことは放っておいていいよ」
精神的という言葉から、二人は過去に何かしらのトラウマがあったのだろうと察する。
「何言ってんの。一緒に遊んでるんだから、そんなことする訳ないでしょ。疲れたのなら、こうやってお喋りに切り替えればいいだけだし」
智香も同意するように強く頷く。
優奈が気に悩まないよう、親身になって励ましてくれている。
とても良い子達であった。
優奈はちょっぴり後ろめたさを感じながらも、二人の優しさに感動する。
その時、下からの階段から理沙のグループが上がって来た。
「優奈さん達じゃん。休憩中?」
「そんな感じー」
理沙の水着は学校指定の旧スクではなく、白と青色の南国チックなタンキニ水着だった。
他の二人の子もお洒落な水着を着ている。
理沙は優奈達が食べているものを覗き込む。
「小腹空いたから軽食取ろうと思って来たけど、スイーツもいいなー。……ん? 何そのアイスとかについてる顔」
優奈達が食べているアイスやパフェには一様に、動物のキャラクターのデコレーションが施されていた。
「レジャープールのマスコットキャラ・アザラシ君。ここの食べ物、
全部こんな感じにレジャープール仕様になってるよ」
優奈はテーブルに立ててあったメニューを広げて、理沙達に見せる。
そこに載っていたのは、アザラシ君がお風呂に入っているように見立てて作られたカレーや、布団で寝ているアザラシ君の形をしたオムライスなどであった。
「えっ、可愛いっ」
メニューを見た理沙グループの子達から黄色い声が上がる。
愛くるしいそのメニューは可愛い物好きの女子には好評だった。
「……」
他の二人が黄色い声を上げる中、理沙は一人無言だった。
しかし、その顔は綻んでおり、視線はメニューに釘付けとなっている。
「理沙ちゃん、こういうの好きなの?」
「え!? 別に。好きと言えば好きだけど、人並みにね。そんなことより! 優奈さん大人っぽい水着着てるね。パレオついてて、凄く可愛いというかカッコいい」
理沙はあからさまに話題を変えた。
その話題に乗って麻衣が言う。
「優奈ってズレてるところもあるけど、基本的にファッションセンスいいのよね」
「へー、流石美人さんだけあるわ」
「でも偶にとんでもなく古臭いの選んだりするから、参考にはしない方がいいわ」
「あはは、そうなんだ」
優奈の話をする二人だが、本人は先程の理沙の反応が気になって、神妙な表情で考え込んでいた。
「優奈さんどうしたの?」
「いや、ちょっと考え事してた」
「?」
理沙は首を傾げる。
「気にすることないわ。どうせ碌でもないことでしょうから」
相変わらずの麻衣の厳しい態度に、理沙達は笑った。
「ところで麻衣さん達、いつまでここで遊ぶ?」
「まだ決めてないけど、夕方くらいまでかしら」
「やっぱり、そんなもんだよね。値段変わらないから長く遊びたいけど、いつまで留まってもいいのかなって思って」
その疑問に優奈が答える。
「いつまででも。ここも二十四時間営業だから、夜はライトアップされて普通に遊べるよ」
「ということは、居続けたら何日でも追加料金なしで遊べるってこと?」
「そうなるけど、寝る場所に困ると思うよ?」
「あー、寝る時のこと忘れてた。ここベッドないもんね。いい考えだと思ったんだけどな」
「するなら徹夜で遊ぶくらいだね。別にそんなこと考えなくても、十分安いから」
「そうだけどねー。これから毎日休みだから、お金のやりくりが今まで以上に大変」
理沙の言葉で、麻衣達もこれからのお金のやりくりのことを気付かされる。
「あ、そっか。私も気を付けないと」
今の時点で麻衣や智香は金欠だったので、割と重大な問題だった。
「夏休みだから、八月分増額されたりしないかな?」
「しないよ。やりくりも勉強のうちだから頑張ることだね」
「つらー」
そこで理沙の連れが理沙の腕を突いて言う。
「ねぇ、お腹空いた」
「おっと、うちら食べに来たんだった」
軽食を摂りに来たことを思い出した理沙達は、慌ててカウンターへと向かって行った。
その後も食べながらお喋りをした優奈達は、日が暮れるまでレジャープールで遊んだ