63話 夏休み開始
「これから夏休みに入りますが、何かあれば先生が出てくることもありますので、節度ある生活を心がけてください。また、中間辺りに登校日が一日あります。呼びかけはしますが、くれぐれも忘れないように」
教師ロボットがそう締めくくり、一学期最終日の帰りの会を終えた。
帰りの会が終わると、女の子達がガヤガヤとお喋りを始める。
「夏休みねぇ。去年までは夏休み入るったら大喜びだったけど、普段の学校時間が短かいせいで、そこまでウキウキしないわ」
「休みも多かったもんね」
麻衣達は帰り支度をしながらお喋りする。
学校での時間が短く、授業も楽だったので、長期休暇の有難みが薄くなってしまっていた。
そこで優奈が手を叩いて言う。
「とはいえ、やっぱり長期休暇はいいもんだよ。時間がいっぱいあるからこそ出来ることもあるし。
せっかくの初めての夏休みなんだから、目一杯楽しもうよ」
「ええ。そういえば今日からレジャープールがオープンするのよね? お昼ご飯食べたら行ってみない?」
「賛成ー」
商店街に隣接するレジャープール。
施設の中には巨大なウォータースライダーや水上アスレチック、波のプールに流れるプールなどなど、沢山の遊べるところが作られていた。
カフェテリアや休憩所も設置してあって、長くのんびりと楽しむことが出来る。
「賑わってるわね」
レジャープールにやってきた麻衣、智香、優奈の三人は、周りを見回しながらプールサイドを歩く。
本日オープンだった為、特に示し合わせた訳でもなくクラスの大半の子が、このレジャープールに来ていた。
水着は二極化されており、半数以上の子がスクール水着ではない普通の水着を着ている。
学校の授業と違って水着が指定されていない為、お洒落したい子は好みの水着を、水着にお金を使いたくない子やお洒落に無頓着な子はスクール水着を着ていた。
優奈達三人はお洒落することを選び、ここに来る前にお店で買ってきていた。
優奈はビキニパレオ、智香はフリル付きワンピース水着、麻衣はフリルビキニと、それぞれ可愛らしい格好をしている。
「色々あるけど、どれで遊ぶ?」
三人が最初に遊ぶアトラクションの相談をしようとした、その時。
「ひゃほーい!」
近くのスライダーを滑っていた美咲と真琴が燥ぎながら。下のプールへと落ちた。
「あれ、面白そうね。とりあえずスライダー行きましょ」
楽しそうに遊ぶ二人に影響され、優奈達もスライダーをやることにした。
――――
「きゃー!」
ウォータースライダーから流れてきた麻衣と智香が下のプールへと落ちる。
「めちゃめちゃ楽しいわ、これ。もう一回いっちゃお」
プールから上がった二人は再びスライダーの階段を上って行く。
優奈は早々に脱落して見学に回ったが、他の二人は大ハマりして、何度もウォータースライダーを上り下りしていた。
二人が繰り返し滑る様子を、優奈は一人近くのベンチに座って眺める。
(二人とも、よくやるなぁ)
滑るのは一人で、他の子との絡みもないので、優奈的には、あまり楽しめるものではなかった。
代わりに楽しく遊んでいる二人を眺めて目の保養をしていると、いきなり優奈の顔に勢いよく大量の水が飛んでくる。
「ごぼぼぼぼっ」
顔面に浴びせられ、藻掻く優奈。
水はすぐに止み、優奈が何かと思って飛んできた方に目を向けると、そこでは備え付けの水大砲の前で、指をさして大爆笑している美咲と真琴の姿があった。
「やったなぁー」
優奈はすぐさま反対側の水大砲へと走り、二人に向かって反撃を始める。
二人も攻撃を再開し、双方で撃ち合いして遊び始めた。
優奈が飛ばした水が美咲の股間にぶち当たる。
「うひゃっ」
すると、美咲の手が止まり、攻撃が止む。
「どうした?」
「何か変な感じした」
「?」
続けて、真琴の股間にも優奈からの水が浴びせられる。
「うぉっ。あいつ股間狙ってきてるぞ。気をつけろ」
「う、うん」
二人も反撃の勢いを強める。
燥ぐ真琴とは対照的に、いつも明るい美咲は珍しく神妙な表情をしていた。
その反応で、優奈は勘付く。
(……もしかして感じてる?)
小柄の真琴とは違い、平均より大柄の美咲は身体の成熟が早く、敏感になっていてもおかしくはない。
(こんなの狙うっきゃないっしょ)
優奈は集中的に美咲の股間を狙う。
「……」
美咲は神妙な顔をしながらも逃げようとはしない。
それが快楽とは限らないが、何かしらの感覚は感じているようだった。
暫く続けていると、美咲は急に水大砲から手を離す。
「ちょっと、おしっこ」
そう言って、一人トイレへと駆け込んで行った。
(……やり過ぎちゃったかな)
大柄であっても、美咲はまだ五年生。
小学生の子には刺激が強過ぎたかもしれないと、優奈はちょっぴり反省する。
だが、その後すぐに戻って来た美咲は元通り元気になっており、優奈は一安心したのだった。
「ねーねー、あれやろ」
戻って来た美咲が、飛び込み台を指さして言った。
その飛び込み台は非常に高く、一番高いところは三階建てくらいの高さがあった。
「あ、あれやるの?」
「うん。楽しそうじゃん」
「あれは、ちょっと……」
真琴は難色を示す。
「なになに、もしかしてビビってる?」
「ビ、ビビってねーよ」
「じゃあ、やろう」
真琴は怖気づいているなどとは言い出せず、優奈も特に反対しなかったので、三人で高飛び込みをやることとなった。
美咲に連れられ、三人で一番高い飛び込み台へと上がった。
飛び込み台の先から、美咲が下のプールを覗く。
「おぉー、ちょっと怖いかも」
「なら止めようぜ」
「ここで勇気を出すことが大事なんだよ。レッツ、ジャンプ」
美咲は喋っていたかと思うと、いきなり飛んだ。
そのまま一直線に落ち、プールの水面を貫いて大きな水飛沫を起こした。
「あいつ、すげーな……」
真琴は怯えつつも感心した様子で下を覗いている。
そんな真琴に、優奈が声を掛ける。
「次、行く?」
「いや、あたしは……優奈は怖くねーのか?」
「怖いことは怖いよ」
「じゃあ何でついてきたんだよ」
「真琴ちゃんが面白い反応してたから、最後まで見たくて」
「……いい性格してんな」
真琴は半ば呆れたように優奈のことを見る。
「で、どうする? 怖いなら、止めて下りてもいいと思うけど」
「そんなことしたら美咲に絶対馬鹿にされるだろ。……はぁ、飛ぶしかねーかな。優奈、一緒に飛ばね?」
「一緒にかぁ……。危ない気もするけど、まぁ大丈夫かな。いいよ、一緒に飛ぼう」
女の子が縋って来てくれたのを、優奈が断ることは出来なかった。
万が一、死傷しても、原形が留まっていれば治すことは出来るので、そこまで心配する必要はない。
一緒に飛ぶことにした二人は飛び込み台の先端へと移動する。
下を見ながら真琴は優奈の手をギュッと握る。
優奈はというと、ニヤニヤした顔で真琴を横目で見ていた。
「ほら、危ないから、もっと密着するよ」
優奈は真琴を正面から抱き締める。
「いや、こんな状態じゃ飛べねーよ」
「いける、いける。このまま横に倒れるように落ちれば」
「そっちの方が怖いわっ。普通に手つないで飛ぼうぜ」
優奈は残念と思いつつ身体を離し、先ほどの体勢に戻す。
「よし、いくぜ。いっせーのっ……!」
合図と共に、真琴と優奈は高台の上から飛んだ。
二人一緒に下へと落ち、プールの中へと突っ込む。
程なくして、二人が水面から顔を出す。
「ぶはっ。深っ。このプール深すぎるだろ」
プールの深さは五メートル以上あって、二人の足は床につかなかった。
「高いところから飛び込むからね。浅いと大怪我するでしょ」
「そりゃそっか。めっちゃ深くて、落ちた後もビビっちまった」
二人はプールサイドへと移動する。
プールサイドでは美咲が、しゃがんで待っていた。
「楽しかった?」
「全然。全身痛いし、鼻に水入ったし。もう二度とやらなくていいや」
「えー、あたしは結構楽しかったのに。優奈は? ……って、優奈、おっぱい出てるよ」
指摘されて優奈は自分の胸を見る。
つけていたはずの水着はトップが捲れて、胸が丸出しになっていた。
「いやん」
優奈がふざけた様子で手で隠すと、二人が笑う。
「その水着は飛び込み向けじゃねーな。飛び込みは、これくらいにしておこうぜ」
真琴は優奈の水着も理由にして、再度やらないことを強調する。
美咲は物足りなかったが、二人があまり乗り気ではなかった為、この一回で終わりにすることにした。
飛び込み台のプールに浸かりながら、次どうしようかと話そうとした時、美咲が言う。
「ねね、水の中で口空けても、下向いてたら大丈夫って知ってる?」
「知ってるも何も、当たり前のことじゃね?」
少し考えれば当たり前のこと聞かれ、真琴は呆れ顔で言葉を返した。
「じゃあ、ちょっとやってみてよ」
「別にいいけど」
真琴はその場で水面に顔をつけて口を開ける。
すると、プールに入って潜った美咲が、覗き込むように真琴の下に回り込んだ。
確認でもするのかと真琴が口を開けながら見ていると、下に居る美咲が口から息を吐いた。
気泡となった空気が上へと登り、真上にいた真琴の口へと突っ込んでくる。
「ぶわっ」
水中で噴き出した真琴は慌てて顔を上げて、息を整えながらも口の中の空気を必死に吐こうとする。
「あひゃひゃひゃひゃ」
そんな真琴を水面から出てきた美咲は指をさして爆笑していた。
「げほっげほっ……。お前、最初から、これやるつもりだったなっ。同じことやってやるから顔つけろ」
「やーだよ」
真琴と美咲はじゃれ合いを始める。
その横で優奈は一人、羨ましそうに眺めていた。
二人が暫くじゃれついていると、麻衣と智香がやって来る。
「優奈、探したわよ。二人と飛び込みで遊んでたの?」
「二人も飛んでみる?」
「あの高さは流石に怖いわ」
そこで真琴が、じゃれ合うのを止めて言う。
「このプールもヤバいぞ。めっちゃ深くて、なかなか上がって来れねーの」
麻衣はプールサイドからプールの底を覗き込む。
「うわ、こっわ。私こういうのダメだわ。深海みたいな感じ。前にテレビで見てゾッとした記憶がある」
「ははは、深海こえーよな」
「どこか違うとこで遊びましょ。怖くないとこ」
「そだな」
優奈達は五人で場所を移動する。