61話 スカート捲り再び
レーンを転がってきたボールが並んでいるピンを吹き飛ばす。
「やったっ」
残っていたピンが全部倒れ、麻衣は喜ぶ。
スペアをとった麻衣を他の子達は拍手で褒め称えた。
麻衣の番が終わり、次の智香へと交代する。
ベンチに戻った麻衣は座りながら言う。
「ボウリング楽しいわね。全部倒すのは難しいけど。これ当たりだわ」
「だろ」
気に入ってくれた麻衣に、真琴は鼻高々に返事した。
「夜遊びはボウリングで決定ね」
ボウリングを初めてやった麻衣達は即行で気に入り、四人で楽しんでいた。
「しかし、これだけ盛り上がると罰ゲームつけたくなるな」
呟いた真琴の言葉に、優奈が食いつく。
「おっ、やる?」
「やらねーよ。優奈がいると危ないからやらないって約束しただろ」
即座に断られ、優奈は項垂れる。
そこで麻衣が口を挟む。
「優奈以外でやったら? 罰ゲームはスカート捲りで」
「スカート捲り、めっちゃ気に入ってるじゃん」
「え? そんなことないわよ?」
口では否定するが、気に入ってる麻衣であった。
「けど、仲間外れにするのはダメだよ。あたしらだけで盛り上がったら優奈に悪いじゃん」
真琴が反対するが、そこで優奈が言う。
「いえいえ、私のことはお気になさらず。寧ろ、是非やっていただきたい」
「優奈はいいのか?」
「見てるだけでもプライスレスです」
優奈は笑顔でサムズアップして見せる。
「そ、そお? でも、あたしスカートじゃないからできないんだけど」
短パンだった真琴はスカート捲りすることが不可能であった。
しかし、麻衣が間髪入れずに言う。
「ずりさげればいいじゃない」
「えげつねーな……。別にいいけど」
スカート捲りをしたくて堪らなかった麻衣は積極的だった。
その後、智香も了承したので、優奈を除く三人はスカート捲りの罰ゲームをつけてボウリングを始める。
「えいっ」
智香がボールを投げると、そのボールは一直線にレーンを転がり、ピンを投げ倒した。
しかし、倒れなかったピンが一本だけ残る。
「あーあ、もうちょっとだったのに」
惜しい結果に、智香は少し悔しそうにしながらベンチに戻る。
そして次の番である真琴が前に出る。
「智香、結構上手いな。麻衣もやる気満々だし、あたしも負けてられない」
レーンの前で真琴がボールを持って振り被る。
「最初から全力でいくぜ。うぉー、お!?」
全力で投げようとしたが、ボールの穴から指が抜けず、持ったまま上へと手が上がる。
真上まで上がったところですっぽ抜け、宙へと飛んでいく。
勢いよく上に飛んだボールは、そのまま天井を貫いた。
盛り上がっていた四人はその瞬間、示し合わせたように一気に静まる。
振り向いた真琴が皆と顔を見合わせると、優奈を除く三人が一斉に慌てだす。
「やべー! やっちまった!」
「何やってるのよ!?」
「ど、どうしよう。逃げる?」
「絶対ばれるって授業で習ったでしょ。謝るしかないわよ」
至る所に監視カメラが仕掛けられている為、女の子の行動は全て感知することができる。
四六時中監視されるのは良い気がしないだろうとのことで、女の子達には監視カメラのことは知らせていなかったが、代わりに問題が起こった場合、後から過去の動きを調べることができる装置があるとして、女の子達には悪さをすると必ずばれると授業で教えていた。
ヴァルサは未来から来たロボットであるので、女の子達は疑うことなく信じている。
真琴達が戸惑っているうちに店員ロボットがやってくる。
顔を強張らせる三人だが、店員ロボットは気を付けて遊ぶようにと軽く注意だけして、穴の開いた天井の修理に取り掛かった。
怒られないと分かり、三人は胸を撫で下ろす。
「はぁ……。軽い注意で済んで良かった。絶対怒られると思ってた」
安堵する真琴に優奈が言う。
「態とやった訳じゃないからね。こういう事故は稀にあることだし。良かったね。これ、地上だと修理代で十万ぐらい取られてたよ」
修理代十万の言葉に、真琴達は騒然とする。
「……マジ?」
「マジマジ、結構よく聞く話だよ? ボウリングでふざけて壊しちゃったら、後から万単位の請求が来るとか」
「じゃあ、ここの修理代は……?」
「町なら勿論無料だよ。悪意があって態とやったとかでもない限り、お金なんかとらないでしょ」
「そっか。一瞬、借金まみれになるのかと思ってビビったぜ」
「ここが町の凄いところだよね。事故起こしても賠償しなくていい。
そもそも税金もないし、生活費もかからない。みんなまだ小学生だから有難味が理解し難いけど、地上だと生きるだけで滅茶苦茶お金かかるんだよ。
住居費に食費に電気、ガス、水道、その他諸々で毎月十万以上飛んでいく。
大人になって社会に出たら、生きる為だけに働いたお金の大半を使わないといけない。
その点、この町は全部無料。逆に毎月お小遣いを貰えて、お金を使うのは欲しいものを買う時ぐらい。控えめに言っても最高でしょ」
優奈は熱く語る。
苦労して作った町の社会インフラだが、養ってもらっている立場の女の子達には、その有難味をなかなか理解してもらえない。
そのことを優奈は密かに不満に思っていた。
「確かにすげーな。地上、そんなにかかるんだ?」
「毎月十万とか、そんなに取られたら死んじゃうわ。町に来てほんとに良かった」
三人は貧乏性や金欠だった為、かかる費用から町の有難味を理解した。
「管理者さんに感謝だな」
「そうね」
真琴がヴァルサへの感謝を言うと、麻衣と智香も同意する。
町の有難味を語ったら、ヴァルサへの信仰へと繋がってしまった。
表向きには町の管理しているのはヴァルサだけであるので、優奈が褒められることは決してないが、それでも女の子達が幸せなら優奈は構わなかった。
喋っている間に天井の修理は終わり、四人はすぐにボウリングを再開させた。
それからは事故を起こすこともなく、順調にゲームは進み……。
「やったー! 勝ったわ」
麻衣が両手を上げて大喜びする。
ワンゲーム終えたところで、一番スコアを取ったのは意外にも麻衣であった。
経験と実力は真琴が一番であったが、天井を突き破る事故を起こしたことから躊躇いが出て、全力を出し切ることができなかったのである。
智香も奮闘していたものの一歩及ばず、最終的に麻衣が勝利を収めた。
麻衣はウキウキしながら智香に近づく。
「じゃあ、約束通り……」
そこで両手を使い、智香のスカートを捲り上げる。
「きゃっ」
スカートを捲られた智香は笑いながらも嫌がる演技をする。
「ふふふ、次は真琴ね。それっ」
麻衣は躊躇うことなく真琴の短パンに手をかけて一気にずり下げた。
バックに英文字とテディベアのプリントがついた真っ白のパンツが露わになる。
「やべぇ、変態だ」
真琴は笑いながらその行為を受け入れる。
「パンツもずりさげちゃうわよー」
「わー」「きゃー」
麻衣は楽しそうに二人を追い回す。
罰ゲームだったが、誰も嫌がらず三人とも楽しんでいた。
麻衣が燥いで追い回していると、優奈がデジカメを向けていることに気付く。
「優奈!? いつの間に持ってったの? こんなとこ撮らないでよ」
麻衣は追いかけ回すのを中断して、優奈が取って行ったデジカメを奪い返す。
「麻衣ちゃんの勝利記念を映像に撮ろうと」
「こんなの誰かに見られたら勘違いされるわよ」
そう言いながら麻衣はデジカメを操作して撮られた映像を確認する。
デジカメの画面に先程の様子が映し出された。
「ほらほらー」
「うわー、変態に襲われるー」
「早く逃げないと、真っ裸にしちゃうわよー」
脱がされかけの真琴と智香を追い回す麻衣。
その姿が画面の中で流れていた。
「……」
麻衣は無言でその動画を削除する。
そして項垂れるようにベンチに座り込んだ。
「あれ? もうお終い?」
再開する気配のない麻衣のところに、真琴と智香が寄ってくる。
「……もうやらないわ。私、どうかしてた」
先程の映像の中では、麻衣は真琴の言葉通り、変態にしか見えなかった。
自分の姿を客観的に見て、麻衣はその酷さに落ち込んでいた。
「そ、そう? じゃあ、ボウリングの続きに戻るか」
その後、四人は楽しく遊んだが、麻衣が立ち直るのには時間を要した。