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6話 母校の生徒達

 卒業アルバムのスキャンを終え、優奈は書庫から出てくる。

 出た先の図書室では、ちらほらと本を読む児童達の姿が見受けられた。

 静かにしないといけない場所ではあるが、やはり小学生ということで所々からお喋りする声が聴こえる。

 そのこともあって、立ち入り禁止のところから出て来た優奈を気にする子はいなかった。


 もう学校での用事は全て終わったが、名残惜しさがあった為、優奈はすぐには帰らず、図書室内を歩いて中に居る女の子の観察を始める。


(元気な子もいいけど、大人しい子もいいね)


 図書室内は外で遊んでいる児童と比べ、落ち着いた感じの子が多かった。

 比較的大人しくしており、それぞれ読書に勤しんでいる。


 そんな中、一人黙々とノートに鉛筆を走らせて勉強している少女がいた。


(勉強してる子もいるんだ。真面目ー)


 優奈と同じくらいのその少女は昼休みであるにも拘わらず、真剣に集中して計算ドリルを熟していた。


 優奈が感心していると、その子の顔が疲れた表情をしていることに気付く。

 頑張って勉強をしている少女の顔色はあまりよろしくなく、どこか気負った様子をしていた。



 少し気になった優奈だが、その時、少女の胸元から振動音が鳴り始める。

 振動を受けた少女が胸元のポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出した。


(へー! 最近は学校にスマホ持ち込んでもいいんだ)


 優奈の小学生時代は携帯電話は殆ど普及しておらず、ゲーム機どころか、ちょっとした玩具でも持ち込み厳禁とされていたので、スマートフォンを持ち込んでいるのはちょっとした衝撃だった。


 スマートフォンを手に取った少女だが、操作しようとはせず、画面を見た状態で動きを止めていた。

 電話のようで、振動音は鳴り続けている。

 時折り躊躇う素振りを見せるものの、通話ボタンを押すにまでは至らなかった。


 その状態で時間が流れるが、着信は一向に切れる様子はない。

 優奈が不思議に思って見ていると、いつまで経っても鳴り続ける着信に、少女は諦めたようにして通話ボタンを押した。


「遅い! 何で早く出ないの!?」


 電話が繋がると、少女のスマートフォンから優奈のところまで届く程の金切声が聞こえて来た。


「ご、ごめんなさい。今、図書室だから」

「ちゃんと勉強してるの? まさかサボってるんじゃないでしょうね?」

「う、うん。ちゃんとやってるよ」


 少女は周りの目を気にしながら席から離れ、足早に図書室から出て行く。


(教育ママ? 苦労してる子もいるんだな。ああいう子も勧誘できるかな?)


 休み時間にまで介入してくる異常っぷりに優奈は同情を禁じえなかった。

 今日だけのことかは分からなかったが、常習的であるなら、少女は気苦労に耐えない生活を送っていることだろう。

 虐待とまではいかなくとも、今の環境から逃れたいと思っている可能性は大いにあった。




 すると、その少女と入れ替わりで、男児が二人追いかけっこしながら入ってくる。

 図書室の中に入っても足を緩めることなく、追いかけ合っていた。

 教師はいなかったので、その子達を注意する人はいない。


 走っていた男児はテーブルで一人読書をしている女の子に気付き、にやりと笑みを浮かべてそこに駆け寄る。


「こいつ、草の本なんか読んでる」

「あ」


 男児は女の子が読んでいた本を勝手に取り上げ、その本を振り上げながら走り出した。


「いえーい」


 男児はふざけた様子で走り回る。

 本を盗られた女の子は気弱なのか怒ったり追いかけることはなく、困った顔をするだけだった。



 男児は周囲を走り回り、優奈の前へと通り掛かる。

 その瞬間、優奈は男児の身体を強く蹴りつけた。

 思いっきり蹴飛ばされた男児は、本棚にぶつかって倒れる。


 倒れた男児が驚いて顔を上げると、優奈がゴミを見るような目で見降ろしていた。

 その顔の良さと微妙な身長の差から、上級生であることを察した男児は、蛇に睨まれた蛙のように固まる。


「チッ」


 男児に向かって舌打ちをした優奈は本を拾い、女の子の下へと向かった。


「大丈夫? 普段から虐められてたりしてない?」


 本を返しながら優しく声を掛けるが、女の子から返事らしい返事はなく、ただ困惑しているようであった。


「怖がらせちゃったかな? じゃあ私帰るから、また何か意地悪されたら、先生や両親に言って助けてもらうんだよ」


 優奈はそれだけ言い、図書室を後にした。




 図書室を出た優奈は廊下を歩く。


「あんな大人しそうな子に嫌がらせして、何が楽しいんだろうね。まったく、これだから雄ガキは」


 先程の様子から、男児には常習性が窺えた。

 女子にちょっかいをかけて困らせる男子は珍しくない。


 多くの少女に迷惑を掛け、公園などで少女を観察する際も、紛れ込んで妨げになっていたので、優奈は邪魔な存在として男児を毛嫌いしていた。



 苛つかせながら歩いていると、立ち話してる女子集団の声が優奈の耳に入ってくる。


「あの真面目ちゃんムカつくからさー。今日出たシチューに消しゴムのカス混ぜてやったわ」

「きゃはは、あいつ消しゴムのカス食ったの? ウケるー」


 少女達は純粋さの欠片もない醜い笑みを浮かべて盛り上がっていた。


「……」


 優奈は虚無の表情で、そこを通り過ぎる。


「ま、まぁ、女の子にも色んな子がいるよね」


 女の子も人間であるので、様々な子がいる。

 どうしようもなく性格が悪かったり、小さくても女の醜い部分が強く出ていたりするなど、とても善良とは言えない子がいるというのは、長年少女を観察していた優奈も分かっていたことだった。


「勧誘する子も厳選しないといけないか。もっとよく女の子達のことをよく調べないと」


 優奈は少女達の生活を調べる為、秘密裏に監視を行えるスパイロボットを作ることを決める。

 住民の候補を探す為にも、女の子達の日常や為人を詳細に調べなければならなかった。


 優奈の気持ちとしては、出来る限り多くの子を助けたいと思っているが、誰彼かまわず連れてきてしまっては、楽園とはかけ離れた殺伐とした修羅の町となってしまう。

 特に対象になるような特殊な環境で育った子は、歪んでいる割合が高いであろう。

 町全体の幸せを考えるなら、選別して切り捨てることもしなければならなかった。

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