58話 スカート捲り
「スカート捲りしてみたい」
放課後、いつもの三人で商店街を歩いていると、優奈が唐突にそんなことを言いだした。
突然おかしなことを言いだした優奈に、麻衣と智香は二人は冷めた目を向ける。
「はぁ? 突然何言い出してるのよ」
「男子がよく悪戯でやるじゃん。突然バーッて」
「いや、やらないわよ。普通に犯罪じゃない」
「え、誰も?」
「一人も。そんなことしたら、先生からの呼び出しは確定だし、クラス中から総スカン食らうわ」
今の時代、セクハラ問題には厳しくなっているので、児童間のことでも軽い悪戯では済まされない風潮となっていた。
その為、現代ではクラスにスケベな悪ガキが居たとしても、そんなことをされることは滅多になくなっていたのだ。
「マジかぁ……。一度くらいやってみたいと思ってたんだけどな」
今の子達にスカート捲りが受け入れられ難いと分かり、優奈は悔やむ。
男児だった頃の優奈は時代は緩くても、優奈自身が比較的大人しく真面目であった為、スカート捲りをしたことなど一度もなかった。
それだけに少女に生まれ変わったことで、気軽にできるかもしれないと考えたが、その期待は呆気なく打ち破られた。
しかしそこで智香が言う。
「やってみたいのなら、私の捲る?」
「いいの!?」
「うん、捲られても別に何かある訳じゃないから全然いいよ」
「やったー!」
智香からスカート捲りの許可を貰い、優奈は大喜びする。
町中ではあるが、町には女の子しかいない為、智香としては捲られても一向に構わなかった。
「智香ったら、また甘やかしてー」
小言を言う麻衣だが、同様の理由で止めることまではしなかった。
優奈は智香の前に移動する。
「では早速……バッ!」
構えた優奈は勢いよく智香のスカートを捲り上げた。
スカートの布が浮き上がり、真っ白のレースの装飾が着いたパンツが露わになる。
智香は嫌がる素振りも全くなく、棒立ちで平然としていた。
「反応! 反応虚無過ぎ!」
「?」
「何か反応してよ。捲られた時の反応が醍醐味なんだからさ」
全くの無反応だったので、優奈は楽しさもへったくれもなかった。
「あ、嫌がった方が良かった? 防いだら良くないと思って。今度はちゃんと嫌がる振りするね」
「うーん、先に宣言されると何か違う。やっぱり許可を得たスカート捲りはスカート捲りじゃない気が……バッ!」
喋っていた優奈は突然麻衣の方を振り向き、素早く麻衣のスカートを捲り上げた。
大きく捲り上がり、右上に花のプリントがついた白のパンツがお披露目される。
だが、麻衣は特に反応は示さず、冷めた目で優奈を見ていた。
「あ、あれ?」
「どうせ来るだろうなと思ってたわ」
優奈の行動は完全に読まれていた。
「くぅ……」
二人とも優奈のことを理解し過ぎているせいで、優奈が真に望む自然な反応をさせることはできなくなっていた。
麻衣は落ち込んで俯いている優奈のスカートの裾を手で摘まむ。
「こんなことして何が楽しいのかしらね」
そう言って優奈のスカートを摘まみ上げてパンツを露出させた。
落ち込んでいて最初は気付かなかった優奈だが、全開になったところで気付く。
「ひゃ!?」
驚いた優奈は即座に手で押さえて捲れたスカートを戻す。
その反応に、麻衣と智香は少し驚いたようにして優奈の顔を見た。
「……いやぁ、自分が捲られるとは思ってもみなかったから、女の部分が出ちゃった。あはは」
優奈は顔を赤くし、恥ずかしそうに誤魔化し笑いをする。
そんな優奈を見て、麻衣が言う。
「何が楽しいのか分かっちゃったかも」
「そ、そう? 分かってくれたのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな」
優奈は捲られた恥ずかしさを引き摺りながら喋る。
その仕草がより麻衣の心を刺激させた。
「ふふふ」
麻衣は顔をにやつかせながら再び優奈のスカートを捲る。
「ちょ」
「これまでやられた分のお返しよ」
そう言って麻衣はバサバサと扇ぐように連続で捲り上げる。
「きゃー」
初めは戸惑った優奈だが、すぐに気を持ち直して嫌がる演技を始めた。
ノリノリの演技に麻衣のテンションも上がる。
「ほら、智香のも捲っちゃうわよ」
「きゃー、エッチー」
麻衣が調子に乗って智香のスカートも捲り出すと、智香も優奈の真似をして嫌がる演技をする。
捲られる二人も楽しくなり、三人は遊びをするように燥ぎながらやっていた。
引き続き燥いでスカート捲りをしていると、商店街の曲がり角から真琴が出てくる。
燥いでいる三人に気付いて目を向けた真琴は思わず声を出した。
「うわ、何やってんだよ、麻衣……」
声を掛けられ、三人は固まったように動きを止める。
真琴は嫌がる素振りをしている二人に大喜びでスカート捲りする麻衣を見て、ドン引きした顔をしていた。
それで正気に戻った麻衣は慌てて弁解を始める。
「ち、違うの。これは優奈がっ」
「えー、今回ばかりは私のせいじゃないでしょ」
「言い出したのは優奈じゃない!」
「最初はそうだけど、後は麻衣ちゃんがノリノリでやってたじゃん」
「ノ、ノリノリになんてなってないわよ」
麻衣と優奈は二人して言い合う。
それで真琴は状況を何となく理解する。
「あ、いつもの変態ごっこ? こんなところでやってたから、何かと思ったぞ。やるなら、もうちょっと人目のないところでやった方がいいんじゃねーか?」
「そうよね……。何も言い返せないわ」
ご尤もなことを言われ、麻衣は同意するしかなかった。