57話 みんなで大浴場
寮に戻った女の子達はそれぞれ自室から着替えを持ち出し、大浴場へと向かった。
みんな身体が冷えていた為、大浴場に入ってすぐ湯船に直行した。
そして湯船に浸かりながら、お喋りやお風呂遊びをする。
普段は入浴時間が割とばらけている為、クラスの三分の二以上の人数が入ることとなった大浴場は、いつもよりも賑やかであった。
寮の収容可能人数が同時に入っても問題ないよう設計されたところであるので、それでもガラガラと言える状態だが、曾てないほどの賑やかさを見せる大浴場に、優奈はニンマリ顔をしていた。
湯船に浸かっていた麻衣が前に居る優奈に喋りかける。
「楽しかったわね。智香もこればよかったのに」
「智香ちゃん、今の時間はまだ寝てるからね。仕方ないよ」
「よくあんな生活できるわね。逆に感心するわ」
智香は相変わらず、休みの前の日は朝方まで夜更かしする生活をしていた。
その為、昼近くになる今もまだ部屋で寝ているのだった。
「若いからこそできることだね。若いうちは多少の無理は効くから、好きなように遊んだ方がいいよ」
「何その親戚のおっさん達が言いそうなセリフは。でも、また夜更かしするのもいいわね。今度三人で前のバー……は止めておいて、お酒ないところで朝まで遊びましょうか」
「いいね。賛成」
学校生活に支障がなければ、夜更かしをしても何も問題はない。
町の生活に慣れた女の子達は、もう夜遊びすることに抵抗はなかった。
「いつにしようかしら。夜更かし慣れてないから、調整が難しいのよね……」
喋っていた麻衣は、優奈が先程からチラチラと視線を移していることが気になり、その視線の先を追う。
そこには浴槽のへりに腰かけてお喋りしているクラスメイトが居た。
「何処見てるのかと思えば……。分かってたけど」
「いやぁ、賑やかなのはいいもんだね。眼福だよ」
「そんなの見て何が楽しいのやら……んん?」
呆れた顔でクラスメイト達を見ていた麻衣はある点に気付き、視線を凝らして他のクラスメイト達を見始める。
順に視線を移していくが、次のところで見られていた理沙がその視線に気づいて手で身体を隠す。
「ちょっと、麻衣さん何処見てるのぉ?」
身体を見ていたことがばれ、麻衣は慌てて弁解する。
「ち、違うの。生えてる人、誰もいないから不思議に思って」
麻衣の以前の学校では、昨年度でも一、二割の子が陰部に発毛していた。
だが、この場には生やしている子が誰一人としていなかった為、不思議に思って見ていたのだった。
「ほんとにー? レズ漫画読んでたから怪しいなぁ」
理沙は悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
「あああ、あれは暇だから読んでただけって言ったじゃない」
「そうだといいけどー。あんなに、じろじろ見られたら疑っちゃうなぁ」
「だからあれは……!」
ふざけて麻衣をおちょくる理沙。
優奈もその悪乗りに参加する。
「私も前々から怪しいと思ってた。やっぱり麻衣ちゃんって、そういう趣味だったんだ」
「何言ってるのぉぉー!?」
「でも安心して。私はどんな趣味でも受け入れてあげるから」
「ふざけてんじゃないわよ。優奈あんた、人がせっかく黙っておいてあげてるのに」
同性愛であることを擦り付けられ、麻衣は声を荒げる。
しかし、優奈は明後日の方向を見て知らん振りしていた。
麻衣が本気で怒り始めた為、理沙はふざけるのを止める。
「冗談だって。そんな怒らないでよ」
「悪質よ。もう、信じられないわ。特に優奈」
麻衣は文句を言うように優奈を睨み付ける。
優奈は先程と変わらず、そっぽ向いて恍けた顔をしていた。
「ごめんね。それであそこの毛のことなんだけど、生えてた人はみんな抜け落ちたらしいよ。腋の毛も。先生が言うには、それも遺伝子修復の薬の効果だって」
「そんな効果もあったのね。何か変な効果だわ」
優奈がそこで透かさず説明に入る。
「陰毛や腋毛なんて生やすメリットがないからね。絡まったり、抜け毛が部屋を汚したりするから、大の大人でもいらないと思ってる人多いんじゃないかな。実際、外国だと剃ってるのが当たり前みたいだし。それに何より、見た目が汚いのがダメ。この美しいボディにそんな黒くてモジャモジャした汚物はいらない」
優奈は見せつけるように自分の身体をなぞる。
「うわ、優奈さんそれ、すっごいナルシストっぽいよ」
「優奈、めっちゃナルシストよ。よく鏡の前で自分に見惚れてたりしてるし」
「うはっ、それヤバいわ。けど、優奈さん美人だから、そうなるのも分かる」
「顔がいいだけに色々と残念なのよね」
「あはは、ナルシストなのは顔がいい人の特権だからね。あ、顔がいいで思い出したんだけど、ここに来て自分の顔変わった気しない? 何かさ。私、最近自分の顔が変わってる気がするの。前より美人になってる、って自分で言うのは恥ずかしいけど、黒子がなくなったり、歯並びとか良くなってる気がしたり。あとあと、偶にかけてたメガネも全然使わなくなったし」
「あ、私もそれちょっと思ってた。微妙だけど変わってきてる気がするわ」
「そうだよね。気のせいなんかじゃないよね。やっぱりこれも薬の効果なのかな?」
そう喋っていた二人は解説を求めるように優奈を見る。
優奈はその期待に応えて二人の疑問に答える。
「遺伝子の修復だから欠損が原因で悪くなってるところは治っていくよ。あと、学校で生活習慣を正すことやってるでしょ。あれで整い始めたってのもある」
学校では礼儀作法の延長線上で、私生活で身についてしまった悪習を正すこともやっていた。
遺伝子の修復と生活習慣の改善。
その二つの効果により、女の子達の身体は少しずつ良くなってきていたのであった。
「ということは、これからどんどん美人になってくってこと!? やば。私もナルシストになりそう」
理沙と麻衣の二人は喜ぶ。
女の子にとって自分が可愛くなるというのは非常に喜ばしいことであった。
「なっていいんだよ。理沙ちゃん可愛いんだから、もっと自信持つべき」
「やだぁ、優奈さんってば、お世辞が上手なんだから」
「お世辞なんかじゃないって。本当に可愛いよ。もうヌードモデルにしたいくらい」
「あはは、ヌードモデルって。私、モデルなんてやったことないよ」
褒められた理沙は満更でもないようで、ふざけた感じにお色気のポーズをとる。
「いいよ、いいよ。まるで女優みたいな美しさ。素晴らしい。マーベラス!」
「褒め過ぎー。優奈さんには敵わないって」
謙遜する理沙だが、その顔はニヤけていた。
「私も可愛いけど、理沙ちゃんも同じくらい可愛いよ」
優奈も同じようにヌードモデルっぽいポーズをとる。
「謙遜しないところが本物のナルシストっぽい。でも、言うだけあって、本当に絵にできそうなくらい綺麗」
「じゃあさ、一緒に裸で写生しようよ。○精」
そう優奈が言うと、麻衣が突っ込みを入れる。
「下品! ちょっと優奈、あまりに下品なこと言うんじゃないわよ」
「? 私、何か下品なこと言った?」
優奈は恍けた表情をする。
「何がって、それは……」
説明を求められた麻衣は口籠る。
説明するには、自らの口で卑猥な言葉を言わなければならないので、躊躇わざるを得なかった。
そんな麻衣を見た理沙が再び悪戯っ子の顔になって優奈に加勢する。
「下品なことって何だろうね」
「ねぇ、麻衣ちゃん何が下品なの? 教えて」
「教えて教えて」
理沙と優奈は一緒になって麻衣に迫った。
迫られた麻衣は視線を逸らしてプルプルと震える。
「ぅ、ぅぅ……」
「ねーねー、教えてよー」「教えてー」
二人は麻衣を囲むように左右から迫る。
だが、そこで麻衣は突然立ち上がる。
「うがー!」
そして奇声を上げて二人に襲い掛かった。
「きゃー」
襲われた二人は笑いながら裸でじゃれ合う。
こうして今日も女の子達は楽しい休日の一時を過ごしたのだった。